第四十二話
ハルとルナリアは馬車にのって西の平原へと向かっている。二人は御者台に隣り合って座っていた。
「ハルさん、平原にはどんな魔物がいるんですか?」
ルナリアは具体的な魔物の情報を聞いていないため、きょとんとした表情で問いかける。
「平原のほうは、属性を持つスライムがいるらしい。厄介な魔物だから、あんまり狙うやつはいない。それと、毒の牙を持つ蛇の魔物、あとは蜘蛛の魔物なんかがいるらしい」
淡々と答えるハルのそれを聞いたルナリアの右の頬がひくついた。
「……へ、へび、ですか?」
おそるおそるといったその反応を見て、ハルはピンときていた。
「――もしかして、蛇苦手なのか?」
「い、いえ、その、苦手というか……」
この問いかけに対して、ルナリアは視線を泳がせている。
「あ、蛇!」
「ひゃん!」
まるですぐそばに蛇がいるかのようなハルのひっかけに対して、涙目になったルナリアが可愛い悲鳴をあげてハルに抱き着いていた。
「お、おう……」
「へび、へびやです……うぅ……」
ふるふると小さく震えながら目じりに涙を浮かべているルナリアを見て、ハルは申し訳ない気持ちになる。
「あ、あー、すまない。冗談だ。悪かったな」
「うぅ、本当ですか? 本当に蛇いませんか?」
へにゃりと垂れ下がった耳とともに抱き着いたまま上目づかいで確認してくるルナリアを見たハルは苦笑しながら頷く。
「うぅ……本当にやめて下さい。蛇は昔からダメなんです……」
狐は狼が苦手だと聞いたことがあるハルは、なんで蛇なんだろう? と疑問に思っていた。
「その、私、小さい頃にお母さんと伯母さんと一緒に、森にピクニックにでかけたことがあるんです。その時に人間のサイズの大きな蛇が現れて、その、私……」
ここまで言ってルナリアががたがたと震えているのがわかり、少しでも彼女の気持ちが落ち着けば、とハルは頭にポンッと手を置いた。
「はう、あ、ありがとうございます。その、あの時、私、丸のみされちゃったんです……」
「――まるのみ!?」
ルナリアの話を聞いて、ハルは思わず大きな声を出してしまう。
せいぜい蛇に追いかけられたことがあって、それ以来苦手だとかそういう話だと思っていたが、それ以上の展開に驚いてしまう。
「丸のみされたって、無事だったのか? いや、無事だからここにいるんだろうけど……いや、でもどうやって!?」
そんな人生を諦めるような状況から、どうやって助かったのか? 混乱交じりにハルはルナリアに迫る。
「えっと、一緒に来ていたお母さんと伯母さんが見つけてくれて、飲み込まれた瞬間にかけつけてお母さんが蛇を一刀両断してくれたんです。その死体を伯母さんが真っ黒に燃やしてました」
ルナリアの言葉を映像化しているハルの頭の中にはとんでもない光景が浮かんでいた。
「その、すごいお母さん姉妹だな……」
今度はハルが頬をひくつかせながら、なんとかそう口にした。
「はい! 二人ともすごい人なんです! 若い頃は二人とも冒険者をしていたと聞いたことがあります……そう考えると、私が冒険者になろうと思ったのは二人の影響が大きいと思います!」
ハルがどうして冒険者になろうと思ったのか、ギフトがなくてもどうしてなろうと思い続けられた。
それを彼から聞いたルナリアは、自分の場合はどうなんだろうと考えていた。
「やっと、理由がわかってスッキリしました」
先ほどまで泣いていたルナリアだったが、涙を拭いた今はハルから離れて気持ちのいい笑顔になっていた。
「まあ、よかったよ。でも、あれだなあ……さっきみたいになるくらいに嫌いなら平原で戦うのは止めておくか?」
あまりの反応、そして原因となった話の衝撃にハルは気をつかって、別の選択肢を提案しようとしていた。
「い、いえいえ、大丈夫です。今でも蛇が苦手なことには変わりありませんが、今回避けたからといって、どこかで戦う可能性は十分あります。その時のことを考えたら、今のうちに慣れたほうがいいと思うんです!」
ルナリアは今回のことだけでなく、これから先のことも視野にいれていた。
苦手に立ち向かうことで、前の自分とは違うのだという証明にもなればと思っていた。
「なるほどな……わかった、それじゃあ蛇の魔物が出て来てもルナリアにも戦ってもらうことにしよう。だけど、俺が前線に立つから、ルナリアは後衛で援護してくれ」
魔法が使えるようになったルナリア。ならば、その力を十全に使ってもらおうとハルは考える。
「わ、わかりました! 精一杯がんばります!」
ぐっと拳を作ったルナリアは恐怖に打ち勝つために、自分自身に喝をいれているようだった。
そのあとは、蛇は怖くないとぶつぶついいながら、自己暗示をかけ始めていた。
「ま、まあ、最悪俺が一人でなんとかすればいいか……」
その様子を見たハルはぽりぽりと頬を掻いて苦笑しながら、そう呟いた。
しばらく進んでいき、日が高くなったところで、二人はお弁当を食べることにする。
まだ、魔物を多く生息するエリアまでは離れているため、安全地帯で休息をとることにする。
「さて、弁当だ。こっちがルナリアで、こっちが俺のだな。飲み物はこの容器に入ってる」
木でできた弁当箱をハルが配る。飲み物も木をくりぬいた容器に入っていた。
「中身はもちろん! 肉料理だ……」
ハルの弁当には猪カツのサンドウィッチが入っている。
「私も中身は、お肉料理です……」
ルナリアは、鹿カツのサンドウィッチの弁当だった。
街での食事が肉料理だったため、やや気落ちする二人。
魚料理が恋しいと思い始めたからだ。
「まあ、贅沢は言えないな。これもシェフの力作なんだから――はむ」
「ですね……はむっ」
二人はそれぞれのサンドウィッチを口にして、モグモグと咀嚼する。
「――!?」
「――!?」
そして、二人は一瞬手を止める。まるで電撃がその身を貫いたかのように固まっていた。
手を止めたと思った次の瞬間には、バクバクと手にしたサンドウィッチを勢いよく食べ、あっという間にペロリと平らげてしまう。
「ルナリア! これを食ってみてくれ!」
「ハルさんもこちらを!」
互いのサンドウィッチを交換した二人は、先ほどとは違う味わいに再びあっという間に食べ終えてしまう。
「ルナリア、やはり肉は美味いな、俺のほうは程よく脂がのってて噛むたびにジューシーさが口いっぱいに広がる……」
「はい、私のほうはさっぱりとしていながらも、ソースが濃厚さをアピールしてとても美味しいです」
互いに頷きあうと、もう一つずつを交換して、残りはそれぞれが食べることにする。
食べ終えたあとに、飲み物を口にするが、フルーツジュースが入っており、脂っこい口の中を綺麗に流してくれていた。
全てを食べ終えた二人の表情は満ち足りており、これから戦いにむけて英気を養っていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、耐雷1、氷牙2、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法1、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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