第三十三話
ハルとルナリアは報酬を受け取ると、冒険者ギルドをあとにする。
その肩に手をおいて、呼びかけたのはクラウドだった。彼らが振り返るとクラウドの仲間たちもそっと遠目に見守っている。
「――ハル、ルナリア。よかったら、私たちと一緒に行かないか?」
真剣な表情で誘うクラウド。共に戦う中で二人の実力を見る限り、Dランクのそれではなく、かなり上のランクで動けている。特にハルの実力は底が知れないとクラウドは考えていた。
しかし、たった二人で行動していてはいつの日か限界が見えてくる。
それなら、自分たちのパーティに入って一緒に行動をしたほうが彼らのためにもなるのではと考えて末の結論だった。
「あー、とてもありがい申し出なんだが……」
ハルは断ることは前提としているが、どう答えるのが適切なのか考えを巡らせる。
そこで視界に入ったのはクラウドのパーティメンバーだった。
彼女らは、ハルとルナリアの実力は認めているものの、これ以上メンバーが増えるのは快く思っていないらしく、どこか表情が険しかった。
「そう言ってくれるのはとてもありがたいが、やっぱり俺たちはしばらくは二人でやっていくよ。クラウドは俺たちの戦いを見てくれていて、力を理解してくれている。だけどクラウドの仲間はそうもいかないだろうし……それにわかっていると思うけど、俺たちには話せないことがいくつかある。それはパーティを組む仲間としては信頼という意味において難しいものだろ?」
薄く笑ったハルの言葉に、クラウドはむぐぐと唸っている。自分たちがどんな表情をしているのか気づいていなかったクラウドのパーティメンバーの女性たちは申し訳なさそうに顔を見合わせていた。
「そうですね、それに私たちはやっぱりDランクです。みなさんのような上位ランクのパーティに入ったとなると、周囲からも快く思われないと思います」
そっと申し出たルナリアの言葉はハルの言い分を強化していく。決してクラウドの誘いが嫌だと言うわけではないのだと言う気持ちを込めていた。
「……はあ、たしかにそうか。私たちの問題は話し合えばいいと思ったが、二人が被る不利益にまで目が向いていなかったな。今回は諦めよう。だが、また何かの依頼で一緒に戦いたいものだな」
クラウドは謎のある二人のことをやはり気にかけているようで、爽やかに笑いかけると次につながる一言をかけてからパーティの女性たちを伴って去って行った。
「ふう、これで依頼は完了。問題点も払拭できたな」
「はいっ! それもこれもハルさんのおかげです。ありがとうございます!」
クラウドがいなくなったところでギルドを出たハルとルナリア。
少し歩いたところでルナリアは元気よく尻尾を左右に振りながらハルの手を取って礼の言葉を口にする。
「い、いや、そんな大したこともしてないと思うぞ? それよりも、今後のことを話そう。どこかゆっくり話せる店があるといいんだけど……」
ハルは手を握りながらぐいぐいと距離を詰めてくるルナリアに動揺し、どうにか話を逸らす。
「あっ、そうですね。当面の目的は達成できましたから、次どうするか考えていかないと……」
きょとんとした表情で距離をとったルナリアは昨日の魔法練習によって、自分の力をある程度使いこなせるようになっている。
そのため、これから広がる未来に対して大きな希望を持っていた。
「それじゃあ、宿でいい店がないか聞いてみよう」
以前、宿で教えてもらった店が大当たりだったため、宿の女将の情報に信頼を持っていた。
「いいですね、前に教えてもらったお店はすごく美味しかったですから!」
その考えにルナリアも賛成だった。手を合わせて嬉しそうにはにかむ。
宿に戻った二人は女将から良い店がないか教えてもらうことにする。
条件は、昼間からやっていて、あまり多くの客が来ない。個室があって、ゆっくり話ができる――そして、最大の条件として、料理が美味しいこと。
その条件を聞いた女将の反応は笑顔だった。
女将は長年この場所に宿を構えており、この周囲の店について熟知している。そこに、このハルたちの質問。
これはハルたちからの女将への挑戦だと捉えていた。
「……少々お待ち下さい」
女将は質問を受けて、メモ帳を確認していく。
このメモ帳には彼女がこれまでに収集した、飲食店の情報が書き記されているようだ。
「はい、それならこのお店に行ってみて下さい。私の紹介だと言えば、個室も問題なく使用できるはずですよ」
自信たっぷりに微笑みかけながら、女将は店の名前と簡易的な地図を記したメモを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「いつも助かります!」
頼りがいのある女将の助言を受けて素直にハルとルナリアは礼を言うと、地図に記された店へと向かうことにする。
宿からしばらく歩いた先にあった店の外観を見るに、落ち着いた雰囲気で一見しただけで良い店だというのがわかる。
シックな色合いの木を使った建物はこじんまりとしているが、趣のあるデザインだ。
カラーンという鈴の音と共に扉が開き、店の中へ入る。
すると、ふわりと香ばしいコーヒーのいい香りが二人の鼻をつく。
「いい香りだ」
「はい、普段あまり頂きませんが自然と飲みたいという気持ちになりますね」
中も外見に違わず落ち着いた音楽が静かに流れ、統一されたデザインの家具で揃えられていた。
想像以上の良い店に見惚れるように二人が入り口付近で立ち止まっていると、店員が声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか?」
落ち着いた優しい店員のその声掛けに二人は揃って頷く。
「あの、宿の女将からの紹介で来たんですが……そういえば個室も使えるって」
少し遠慮がちなハルの言葉を聞いた店員は笑顔で頷く。
「それでは、ご案内します」
女将が言っていたように店員はすぐに個室へと案内してくれた。
奥まった位置にある個室は窓がなく、魔道具による灯りがいくつか用意されていた。
ゆったりと過ごせるように配置された大きなテーブルにソファが用意されている。
「ごゆっくりどうぞ」
店員はメニューを残して部屋をあとにする。
「それじゃあ、まずはメニューを頼もうか。朝食はまだだから、朝昼一緒って感じでいいな。飲み物もこれにしてっと」
「わあ、美味しそうなメニューばっかりですね。さすが女将さんです!」
二人はどれにしようか悩みながらも、注文を決めていく。
ちょうどどれにしようか二人の中で固まってきたところで、タイミングよく店員が注文をとりにやってきた。
注文を終えて、店員が部屋をあとにしたところでハルが真剣な表情でルナリアに向き合い、口を開く。
「……それで、ルナリアはどうするつもりだ?」
「どう、とは……?」
ハルの漠然とした質問にルナリアは不思議そうに首を傾げた。
「いや、冒険者ギルドを出る時も話したと思うけど、これからどうするかっていう話だよ。俺は冒険者になるという目標が達成できたし、ルナリアの呪いを解くという目標も達成できた。だから次は冒険者として結果を残していくというのが俺の目標になる」
きっと自分が何を言いたいかよくわかっていない様子のルナリアに苦笑しながらハルは言葉を選んでいく。
それを聞いたルナリアはなるほどと相槌を打つ。
「だったら、私も一緒に冒険者として結果を残すというのが目標になりますね!」
にっこりと笑いかけながら当然のことのように宣言するルナリアに、今度はハルが首を傾げる番だった。
「あ、あれ? これからもルナリアは俺と一緒に行くつもりなのか……?」
「えっ? 駄目なんですか!?」
困惑交じりのハルを見たルナリアは涙交じりに彼にぐいっと迫る。
二人の会話がかみ合ってないことに、互いがここで気づくこととなった。
*****************
名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、耐雷1、氷牙2、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
*****************
*****************
名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法1、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
*****************
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




