第三十一話
冒険者たちは解散したが、ハルとルナリアは解散することなく共に行動していた。
「さて、それじゃあ早速試そうか」
ハルは荷物をおろしてから振り返ると、ルナリアへ声をかける。
何が起こるかわからないため、ハルは扉と窓を閉めて鍵をかけて、カーテンを完全にしめておいた。魔道具の灯りが部屋を照らす。
「お、お願いします!」
戦いとはまた別の緊張に襲われたルナリアは少し顔を赤らめつつ、身体を固くすると返事をする。
二人の姿は宿屋の一室にあった。
ハルとルナリアがこれから執り行おうとしているのは、彼女にかけられている”マイナススキル:魔封じの呪い”の解呪である。
「それじゃあいくぞ――”汝の身にかけられし、邪なる呪い。我が命によって解放する――カースブレイク!”」
解呪のスキルを身に着けたと同時に、解呪に使うスペルワードは自然とハルの頭に刻まれていた。
その解呪のスペルワードを唱えたハルの手から、眩い聖なる光の帯がいくつもが放たれて、ルナリアの身体を柔らかく包んでいく。
本来、解呪が使われると、身体全体が一瞬光に包まれ、その者にかかった呪いが解除される。
しかし、ルナリアを包む光はすぐには収まらずに彼女を包み続けている。
「カーテンを全てしめておいて正解だったな」
「わ、わわわあ……」
痛みなどは無いようだったが、ぐるぐると光の帯が自身の身体の周りを動き回る様子に、当のルナリアは何が起こっているのかわからず、尻尾をぶわりと膨らませ、ただただ驚きの声をあげている。
「ルナリア、今解呪が行われている……らしい。少し我慢してくれ」
ハルが優しく声をかけると、ルナリアは落ち着きを取り戻して祈るように目を瞑り、光が収まるのを待つことにする。
それからしばらくして、彼女の身体の周りを動き回っていた光の帯は、早い動きで収束して拳ほどの小さな光の玉になると、ぱちんと弾けて光の粒となって霧散した。
「――どうだ?」
解呪の終わりを感じ取ったハルはルナリアに声をかけ、それと同時に鑑定を使って彼女のギフトとスキルを確認していく。
「えっと? 何かが変わったような気はしますが……それが何かというとわからないと言いますか……」
自らの身体の変化を確かに感じているルナリアだったが、それが一体なんなのかはわからない様子であり、自身の身体をあちこち見ながら困惑している。
「呪いの方は……解けているみたいだ。マイナススキルが消えている。恐らくこれで魔法が使えるはずだ――っと待った待った! ここで試さないでくれ!」
「ご、ごめんなさい! つ、つい……」
ルナリアはハルの説明を聞いている途中で、思わず魔法を使おうとしていたため、慌てたハルに止められる。
「軽い魔法を試そうとしたんだろうけど、元々ルナリアは魔力が飛びぬけて高い。早く試したい気持ちはわかるが、さすがにここだと危険だ。やるのはかまわないから、外で試してみよう」
「はいっ!」
ハルの言うとおり、ルナリアは早く魔法を試してみたいという気持ちが強く、少し気が急いていた。ぶんぶんとしっぽが待ちきれない様子で激しく揺れ動いている。
既に日は落ちており、暗くなっていたが、灯りの魔道具を持って二人は街の外へと出て行く。
「さて、このあたりならいいかな」
ハルが足を止めたのは街から少し離れた場所で、大きめの岩がある場所。
岩陰でならば街から見えづらいため、ちょっとやそっとのことでは見られることもないとの判断だった。
「は、はい……」
これから、呪いが解けた状態で魔法を使うと考えたルナリアは緊張が強くなってきていた。ピンと尖るように尻尾と耳が立っている。
「ルナリア、一度深呼吸をしよう。魔法は精神状態が強く影響を及ぼす。だから、落ちついた状態で魔法を使おう――ほら、鼻から吸って、口からゆっくり吐いて」
「ひゃ、ひゃい! すー、はあああああ」
いよいよもって緊張がピークになっているルナリアだったが、ハルに促されるようにゆっくりと深呼吸をすることでその緊張が少しずつおさまっていく。
「うん、大丈夫、なはずです」
完全に緊張が解けるというのは難しかったが、今の状態なら落ち着いて魔法が使えるとルナリアは自己判断を下す。
「それじゃあ、やってみよう。火は暴走した場合に周囲の影響が怖いから、氷か風あたりの魔法で試そうか」
「わかりました」
ハルの言葉に返事をすると、ルナリアは目を閉じてもう一度深呼吸をする。
そして精神を研ぎ澄ましたように真剣な表情でゆっくりと目を開くと、いつも使っている杖の先端を前に出して魔法名を口にする。
「“アイスボール”!」
すると、勢いよく杖の先に氷の魔力が集まり、一気にボールの形をとると真っすぐ前に飛んでいった。
それだけ聞くと成功したようにしか聞こえない。
「あ、あわわわ、ど、どうしよう……」
「あー、ちょっと魔力の調整ができてないな……」
うまくいったはずだというのに、二人の感想は驚きと戸惑いに満ちていた。
いまルナリアが放ったアイスボール。
通常は大きくてもこぶし大程度のはずだが、彼女のそれは人間の頭部よりも更に大きい巨大な玉となって飛んでいき、重さのあまり途中で落下したかと思えば、その地面を氷漬けにしてしまっていた。
これまで属性魔法を使うことができず、持ち前の魔力を無属性に変換して無理やり爆発させることしかできなかったルナリアは、魔力量の細かな調整ができないようだった。
「でも、まあこれで魔法が使えることは証明できたな。あとは、魔法に込める魔法の力を少しずつ調整していこう」
「あ、あの、アレはどうしましょうか」
おろおろと戸惑いながらルナリアが指差した先は氷漬けになった大地。
周囲は青々とした草むらがあり、明らかにここだけ異様な雰囲気を放っている。
「あー、下手に火の魔法を使って今度は一面焼け野原っていうのも困るから、あれは自然に解けるを待とう。それよりも空に向かって風魔法を使って魔力の調整をはかっていこうか。ほらほら」
やってしまったことを嘆いても仕方ないと、ハルは次の魔法を使うようにルナリアのことを急かしていた。
「ちょ、ちょっと、わ、わかりました。わかりましたので、背中を押さないで下さい」
少し強引かとは思ったが、ハルは氷漬けの大地が見えないようにルナリアの向きを変えさせる。
「ルナリア、魔法を使う時だけど少しずつ魔力が身体から流れ出すようにイメージするんだ。俺も試しにやってみるから」
ハルもガーブレアを倒した際にスキル”火魔法”を手に入れいてたため、岩に向かって魔法を放つ。ルナリアの失敗を糧にして、魔力量を絞りながら。
「“フレアアロー”」
岩を指差して、火の矢を放つ。
大きさは一般的な木の矢と同じサイズ。それが真っすぐ岩に向かって行く。
そして、岩に衝突するとポワンという軽い音と共に消失した。
「あちゃ、魔力を絞り過ぎたか。それじゃ、今度は……“フレアアロー”!」
再度同じ魔法をハルが使う。すると、火の矢は速度があがり、ずぶりと岩へと突き刺さった。
「なるほど、同じ魔法でも魔力量によってかなり変化するもんだな。こいつはなかなか面白い」
「こ、これはなかなか難しいですね……っ」
ハルが自分の魔法を味わっているうちに、ルナリアも風の魔法を空に向かって練習していた。彼が一緒に練習してくれていることは、ルナリアにとって心強く、やる気にもつながっているようだ。
それはルナリアの魔力がつきる寸前まで続いた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、耐雷1、氷牙2、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法1、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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