第三十話
「――みんな、大丈夫か!」
霧が晴れて早々、クラウドが今回参加した冒険者たちへと確認するように大きく声をかける。
「各自、パーティメンバーが無事かどうか確認してくれ!」
そう言われて各パーティのリーダーが点呼をとっていく。
「うちは全員いる」
「俺のところも大丈夫だ」
「こっちもいる」
そしてリーダーたちが順番に全員いることを報告していく。それぞれのパーティが戦闘後の処理を始めている。
「……俺たちも無事だ」
最後に報告したのはハルだった。ルナリアと二人だけだが、二人とも怪我無く無事だった。
「よかった、私たちのパーティも全員の無事が確認できた――そいつが盗賊団の頭目か」
全員生きて作戦を終えられたことに柔らかく笑ったあと、クラウドは床に伏せるガーブレアを感情のない目で見る。
今回の目的である盗賊団の頭目が元司祭であることを知っていたが、あえて口にはせずにいた。
「……最後に何かをあのダークエルフに投げ渡していました。不審な動きだったためにとどめをさしましたが――あれは、俺の完全な油断だ」
能力を手に入れるという目的を果たすことはできたが、みすみすダークエルフに何かを渡されてしまったことを悔やんでいた。報告の最後にハルはぎりっとこぶしを握り、こみ上げる悔しさをこらえている。
「仕方ない。あの場面で何かされる前にとどめをさすというのも難しい――その何かを止めるというのも。あいつの動きを最小限にとどめられたということで満足としよう」
クラウドは気落ちするハルの肩にぽんっと手を置いて慰めの言葉をかける。
「えぇ、とりあえずの目標だけは達成できたので……」
「お前、知っていたのか?」
これまでどんな状況にあっても冷静だったクラウドが初めて驚いた表情を見せる。
「ははっ、あんたもそんな顔をするんだな。常に悠然としているから、そういう人間らしい表情もいいものだ」
一瞬きょとんとしたのち、笑ったハルはクラウドの変化を見て、自分も砕けた口調になっていた。
「あ、あぁ、まあな。それよりも……知っていたのか?」
クラウドは戸惑いつつも、ハルに再度同じ質問を投げかける。
「……今回の相手がただの盗賊団じゃないことはわかっている。といっても、たまたまそれを知る機会があったというだけで、ギルドで聞かされたとか特別な任務を帯びているとかそういうことじゃない」
クラウドは恐らくギルドから特別に任務を言い渡されてやってきたものだと、ハルは予想していた。
「なるほど、そういうことか。元司祭というのも珍しい話だから、情報が洩れることもあるのだろう……悪いがみんなには黙っていてくれ。元がつくとはいえ、聖職者を相手にしたというのはあまり気分の良いものじゃないだろうからな」
服装からして、司祭じゃないか? という予想をたてるものも出てくるだろうが、それでも明言する必要はないとクラウドは考えている。
「了解。とにかく、依頼を達成できてよかった。今はそれで十分だ」
ハルは依頼だけでなく、目的も達成できたため、これ以上拘る必要もないと考えていた。
「みんな、引き上げるぞ! ハルたちが倒した幹部二人は連れていく。残りはこのままにして、あとで街の警備隊に連絡しよう」
依頼が終わったことにほっとしている冒険者たちに声をかけ、クラウドは帰りの支度を促す。
運ぶことになった元司祭ガーブレアと石族の男ステムの遺体は氷魔法によって凍らされた。
この二つの遺体は馬車に空きのある冒険者パーティが運ぶこととなる。
これによって、報酬に幾分かプラスになるとのことだった。
圧倒的な勝利であったとはいえ、冒険者たちの顔には疲労の色が浮かんでいた。
「みんな、とにかく戻ろう。途中に水場があったから、そこで一度休憩を取ろうか」
馬車に揺られている者も、手綱を握っている者も全員が疲労困憊といった様子なため、クラウドが提案する。
当然のごとくその提案に反対する者はいなかった。
「思った以上に疲れたな……」
「はい……」
帰りもクラウドの馬車に乗せてもらったハルとルナリアも同様に疲れを見せていた。
「魔物と戦う場合、その特性を知っていればおおよそパターンに沿って動くから、対応もしやすいの。だけど、今回は人が相手で、しかも大勢で、更にこちらは連携をとったことのない冒険者の集まり。色々と気にしないといけないことが多いから、そこが疲れに繋がるのだと思うわ」
疲れる二人に優しく声をかけ、そう説明したのは、クラウドのパーティメンバーだった。
「急に話しかけてごめんなさい。私はエイシア。見ての通り魔導士よ」
先ほどまで被っていたフードを下げて挨拶をするエイシア。長いローブを身に纏う、美しい女性だった。
行きの時は、クラウドが気まぐれで乗せた冒険者だと思ったため、パーティメンバーから話しかけることはなく、互いに自己紹介もしていなかった。
「いえ、どうも。思った以上に疲れていたのはなぜかと思っていたのが解消できたよ。俺の名前はハル、彼女はルナリア。今回は馬車に乗せてくれてありがとう」
改めて礼を言うハルに、エイシアは柔らかい笑みを浮かべる。
「いいの、クラウドが決めたことに私たちは反対しないから」
緩く首を振ってエイシアは淡々とそう告げる。
快く思っていないのか、それとも受け入れてくれているのか――どちらともとれる返事にハルは苦笑してしまう。
「……あぁ、ごめんなさい。別に嫌だと思ってるわけじゃないのよ? クラウドが見つけてくる人は面白い人が多いけど、変な人も多いから少し警戒していたの。でも、戦いやクラウドとのやりとりを見て面白いの部類の人だとわかったから」
言葉足らずだったことに気づいたエイシアは申し訳なさそうに訂正し、にっこりと笑って見せた。
警戒されていたとは思っていなかったため、ハルもルナリアも驚いてしまう。
「ふふっ、そういう反応を見る限り悪い人たちじゃないみたいね。また、帰りまでの短い道のりだけどよろしくね」
改めて歓迎の意味を込めてエイシアが右手を差し出したため、ハル、ルナリアの順番に握手をした。
他のメンバーは疲労から馬車に揺られながら眠ってしまっていたため、休憩場所に到着してから改めて挨拶をかわす。彼女たちもエイシアと同様にハルたちのことを警戒していたとの話で、それにはクラウドが表情を曇らせていた。
補足すると、クラウドのパーティはクラウドを中心にその他の面々の性別は全員が女性というハーレムパーティだった。女性が多いため、余計に男を警戒したのだろうとハルは納得していた。
そして、夕方を過ぎ日が落ちきった頃に冒険者一行は街に到着する。
ギルドへの報告は翌朝することとして、今日は一度解散することとなった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、耐雷1、氷牙2、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法1、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
マイナススキル:魔封じの呪い
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