第百七十一話
武闘大会に出ることを決意したハルとルナリアは武闘国家エグアデルに向かって移動していた。
その途中で、小さな町に立ち寄ることにする。 多くの旅人でにぎわっているここはレイブルの町。
レイブルは、エグアデルに向かうまでにある最後の町で、そこからは休憩できるような村がないため、大会前とあってか自然と人が集まっていた。
宿場町として成り立っている様子のここが小さいのは町の人たち用の住居が少ないためであり、ほとんどが対外向けの商店で構成されている。
それだけ、エグアデルに向けた客たちの需要が見込める場所であった。
「ふう、なんとか宿をとることができてよかったよ」
「ですねえ。賑わっているので、どうなることかと心配しちゃいました」
混み具合から見てハルたちは到着してからすぐに、部屋に空きがないか何軒かの宿に立ち寄ったがどこもいっぱいだった。
それもこれも武闘大会が近いからというのが原因である。
しかし、この時期に旅人が多いのは町人たちもわかっており、この時期限定で開く宿がいくつかあった。
その一つを見つけることができた二人はなんとか宿泊場所にありつけることとなった。
「――にしても、噂程度の情報しか持ってなかったから規模感がわからなかったけど、かなり人気があるんだな」
「街の人が話していましたけど、今回は四年に一度行われる歴代の王者も参加して、史上最強を決めるもののようですね。だから参加者も多く、かつ見物目的のお客さんも多いのだと思われます!」
ベッドに腰かけたハルはぼんやりと窓からにぎわう外を眺めながら感心したようにそう話す。
馬車で町の中を移動して、宿に到着するまでに町では大会の話をそこかしこでしていた。
その情報を断片的に聞き集めた結果をルナリアが説明してくれる。
「なるほどな、ということは俺たちが参加してもかなり強いやつらが参加しているということか。最初から前の大会の王者とあたる可能性もあるかもしれないな……」
そんな慈悲のない組み合わせは、あっては欲しくないものではあったが、口にしているハルの口元は緩んでいた。
「ふふっ、ハルさん楽しそうですね」
それに気づいたルナリアはふわっと笑顔になっていた。
「あー……うん。正式な場で強者と戦えるのは自分の力を測るいい機会になるから楽しみだよ。優勝者には賞金が出るのは知ってるけど、珍しいアイテムってなんだろうな?」
指摘されたハルは笑っていた自分に気づき、ちょっと恥ずかしくなって誤魔化すように自分の頬を軽くマッサージする。
そして大雑把にしか情報を集めていなかったため、周りの話を聞き集めていたルナリアに質問を投げかける。
「ですね、確か優勝、準優勝、それから三位の二名は賞金が出るそうです。優勝者には優勝記念リングと、強力な魔導具が与えられる、と聞きました」
にっこりと笑ったルナリアはその質問に答えられるだけの情報を既に集めていた。
「魔導具か、それは楽しみだ!」
戦うことだけを楽しみにしていたハルだったが、魔道具ときいて俄然やる気が漲っていた。
これほどの大きな大会での優勝賞品ともなればかなり珍しいものが手に入る――ハルはそう考えていた。
「ふふっ、多分ハルさんが予想しているようなレベルの高い魔道具が用意されると思いますよ。前回までの優勝商品としては、高ランクの魔剣。距離の制限はありますが、二点を結んで転移することのできる鏡。魔道具とはちょっと違うと思いますが、若返りの秘薬なんていうのもあったようです! 今回は出場者も特別ですし、報酬も期待できますね」
ルナリアが指折り数えて話したそれらはどれも普通には手に入らないような希少性の高い魔道具ばかりである。
それだけの商品が過去にでていたともなると、今回のような大規模の大会ではそれ以上の商品が出る可能性が高い。
どんなものが報酬として用意されていたとしても普段以上に期待を膨らませてしまうのは自然な流れだった。
「おー、それは期待が膨らむな。それで、今回の商品の予想とかは出ていたりするのか?」
「うーん、さすがにそれは出ていないようでしたね。ただ、誰もがきっと物凄いものがもらえるのではないかと口々に言っていました」
これまた集めた情報からルナリアは苦笑交じりに答えてくれたが、さすがにそこまでの話は聞いていなかった。
「なるほど……。まあ何が出るとしても手に入れればわかるんだし、優勝を目指すとしようか」
「はい!」
少し考えたあと、ハルは顔を上げて好戦的に笑ってルナリアにそう声をかける。
情報が少なくて申し訳ないと思っていたルナリアも、その笑顔を見て釣られるように笑って頷いた。
ハルたちは、強力な魔物と戦う機会が多い。
強力な力を持つ魔族と戦うこともあった。
だからこそ、それほどの魔道具が手に入れば、相当な戦力強化になる可能性が高い。
もし、戦闘に使えないようなものだとしても、それをなにかの交渉に使うことができるかもしれない。
そう考えると、ここで優勝しない手はなかった。
「二人で決勝で戦うことができるといいですね!」
ここに来る前にも話していたことだが、ルナリアは大会でハルと戦うのを楽しみにしていた。
呪いが解けてから経験を積んでいるのもあって、どんどん自分の力が強くなっているのを感じ取ってはいたルナリアだが、それは成長スキルをもつハルも同じであるため、どんな戦いになるのか想像ができず、そのことがルナリアの期待を膨らませている。
「あぁ、せっかくだから俺たち二人でトップの商品と賞金を独占してやろう!」
ニッと笑っているハルも乗り気になってきており、二人で決勝の舞台にたつイメージを明確に持ち始めていた。
「おー!」
腕を上げたルナリアの元気なかけ声は空いていた窓から外へと漏れていたが、外の道には多くの人が行き交っており、喧騒の中に消えていった。
大会まではまだ期間があり、英気を養うためにこのあとしばらくこの町で滞在した二人は、大会前の熱気にあてられて一層のやる気をみなぎらせていった……。
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