第十七話
「それで、私が魔法のギフトがあるにも関わらず魔法が使えない原因はなんなのでしょうか?」
立ち上がったルナリアが質問するが、耳に届いた音に気づいたハルは周囲を見渡していた。
「ごめん、答えてやりたいところだけど、ちょっと待っていてくれるか? サンダーバードが集まってきたみたいだ」
一度ルナリアに詫びると、ハルはナイフを抜いて戦闘態勢に入る。
「えっ? ――あっ!」
ハルの言葉を聞いて、彼が注視する方向に目を向けた彼女も魔物が近づいてきたことを確認する。
「私も!」
「いや、一人で十分だ。俺の力も見せないと信じられないだろ。ただの能無しがどうなったのか、それを見ていてくれ」
ふっと優しく笑ったハルは立ち上がったルナリアに待ってるよう言うと、サンダーバードへと走って向かう。
引き留める間もなく駆け出したハルのことを彼女はただ見送ることしかできなかった。
鳥種ではあるが、普段から彼らは高い位置にはおらず、ハルの目線の高さ程度をゆっくりと飛行している。
「てやああああ!」
ハルのかけ声に気づいて、敵意をむき出しにしたサンダーバードは身体をバチバチとさせて雷魔法を身体に帯電させていく。
それを見ても、ハルは動きを止めずナイフを突き出している。
「きゃあ!」
そのままいけば、ハルは雷によるダメージを受けてしまう。その未来が予想できたため、ルナリアは悲鳴のような声をあげてしまう。
しかし、そうならないとハルは信じて動いている。
「せえい!」
「GYAAA!」
ハルが突き出したナイフはサンダーバードの身体に届き、そのまま心臓である魔核へと到達していた。
「えっ? ……えぇっ!?」
一連の動きをルナリアはその目で見ていた。
見たままを言葉にすれば『ナイフを突き出して、帯電しているサンダーバードを突き刺した』。
「ふう、ちょっとピリッときたな」
だがケロリとした様子のハルは、まるで中辛の料理を食べたかのような感想を口にする。
「さあ、次いくぞ!」
周囲にいるサンダーバードの数は残り二、それらを同じようにナイフで攻撃していく。
雷でダメージを与えられると考えているサンダーバードは、最初の一体よりも強力な力を帯電させていく。
先ほどやられた個体は帯電の量が少なかったからやられたと思っているようだ。
「GYAA!」
「GUA!」
だが魔物の想像とは裏腹に、ハルはそれらも次々にナイフで刺して倒していく。
雷のダメージを受けると筋肉が収縮してしまうため、攻撃が止まってしまう。
しかし、ハルはその影響なく攻撃を当てることに成功していた。
正確には影響はあったものの、最小限に抑えられているように見えた。
「えっ? な、なな、なんで? 雷のダメージはないんですか?」
どうしてハルが動けているのかわからないルナリアは目を大きく見開いて、彼に質問する。
「とりあえず俺の力については証明できたか? ――といっても、無防備な魔物をナイフで突き刺しただけだけどな」
ナイフに刃こぼれがないか確認したハルは素材を回収してそう言うと、ルナリアのもとへと戻る。
「す、すごいです! でも、なんで?」
驚き、感動し、信じられないという思いのルナリアがハルにかけ寄ってくる。早く答えが知りたいと食い気味で迫っていた。
「ま、まあ待ってくれ。ここにいたらまたいつ魔物がやってくるかわからないから、街に戻ろう。そこでゆっくりと話をすればいいさ」
二人は未だ山の中にいるため、このままでは再び魔物に襲われてしまう可能性が高い。
「そ、そうですね! さっきみたいに魔物が来るかもしれませんからね!」
はっとした表情のルナリアは改めて自分たちの置かれた状況を理解して、危険であることを再認識していた。
それから二人は、周囲を慎重に確認しながら下山していく。
街に戻った二人を見かけた冒険者がひそひそと何かをささやき合っていた。
「……なんだ?」
「……なんでしょうか?」
特におかしな格好をしているわけでもないだろうと、ハルもルナリアもそれに気づいたが揃って首を傾げていた。
「まあ……とりあえず、依頼の達成の報告をするから冒険者ギルドに行こう」
「はい!」
疑問は残るものの、二人はとにもかくにもギルドへと向かって行く。
そして、二人がギルドに足を踏み入れるとざわっと声が広がった。
周囲から浴びせられる視線と雰囲気に、ハルはどことなく覚えのある感覚に包まれる。
「――これは……」
山でのルナリアの状況、そしてハルがすれ違った冒険者たち、ルナリアから得た情報。
それらを総合することで、何が起こっているのか予想がつき始めていた。
「だから、あいつは死んだんだって。パーティメンバーの私たちが言ってるんだから間違いないでしょ! さっさと証明書を出してよ!」
その感覚を裏付けるように、大きな声で受付嬢を怒鳴っている女性冒険者がいる。
「ミリアさん……」
悲しげにつぶやいたルナリアの視線の先にいたその冒険者の姿に当然見覚えがあった。
彼女と共に山にいったパーティのリーダーであった。
冒険者ギルド内には少なくない人数の冒険者の姿があったが、ハルたちからミリアと呼ばれる冒険者のいる受付カウンターまで雰囲気を察した冒険者たちにより、道ができる。
「ちょっとどこ見てるの!? 今はあたしが話してるのよ! 何を見て……」
受付嬢がミリアではなく、どこか別のものを見ていることに気づいてそちらに視線を向ける。
ルナリアの姿を見た瞬間、ありえないといった表情でミリアは絶句している。
対するルナリアは困ったような笑顔を浮かべている。
「……それで、誰が死んだって?」
ルナリアの隣にいたハルは感情のこもらない視線をミリアにぶつける。
「いや、その、あはっ、その、ぶ、無事でよかったよ。あんたがあたしの仲間を助けてくれたのかい? 礼を言うよ。ほら、ルナリア行きましょ。みんな待ってるわよ!」
焦った様子でまくし立てるように受付から離れたミリアは、まるでルナリアを歓迎しているようなそぶりを見せて大げさな演技と共に近づいてくる。
この期に及んでミリアは、なんとかこの場を取り繕おうとしていた。
更にはルナリアのことを再度取り込んで仲間づらしようとまでしている。
そのことにハルは怒っていた。
「また、こんなことをするのか……」
こみ上げる苛立ちと嫌悪感にぼそりとハルが呟く。
「ま、また? 人聞きが悪いことを言うんじゃないわよ! あたしがこんなことをするのは初めてよ!」
耳に入った呟きに思わず反論するように堂々と言い切ったミリア――しかし、それはルナリアをあんな目に合わせたことをも言い切っているとは気づいていない様子だ。
「……ミリアさん、あなた方には色々とお世話になりました。名前が似てるねって言ってくれたの嬉しかったです――でも、私はこのハルさんと共に行くことを決めました。だから、さようならです」
ふにゃりと眉を下げたルナリアは目に涙をためながらミリアに対して頭を下げる。
「ちょっと! こんなどこの馬の骨とも知れないやつに……」
逃がさないと言うように手を掴もうとミリアが手を伸ばしてそこまで言ったところで、遮るようにハルが一歩前に踏み出す。
「ルナリアは俺とパーティを組んだ。それ以上言うことはない。いいな?」
「――ちょっ!」
厳しい表情できっぱりとハルが断言し、確認をする。
しかし納得がいかないミリアはそれに対して食い下がろうとしていた。
「……いいな?」
ハルは再度、今度は力を込めた低い声でミリアに問いかける。
今回のそれは問いかけといっても、はい、イエス、了解、それ以外の答えは求めていなかった。
「っ、わ、わかったわよ! そんな足手まといあんたにくれてやるわよ! ……ちょっとどきなさいよ!」
最初はなにか反論しようとしたミリアだったが、明らかに分が悪いことを察し、我慢ならないと言った表情で悪態をつきながらギルドを出て行く。
その背中をギルド内にいる全員が見送っていた。
「さて……報告するか」
「はいっ!」
先ほどまで泣きそうだったルナリアだったが、ハルの言葉で輝くような笑顔に戻っていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、耐雷1、氷牙2、帯電1、甲羅の盾
加護:女神セア、女神ディオナ
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