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第十六話


「えっと、その……」

 ルナリアは目を見つめられているという状況に戸惑っていた。

 しかし、ハルが見せてもらうと言ったことから、視線をそらすのは彼の行動の邪魔をすると考えていた。


 それにハルのとても真剣なまなざしは、これまでルナリアが向けられたどんなものよりも嫌な感情が伝わってこなかったのもあっただろう。


「――そういうことか。こんなこともあるもんなんだな……」

 しばらくじっと見つめていたハルは、ルナリアのステータスを鑑定して気づいたことがあった。


「ルナリア、今から俺が言うことは恐らく信じられないようなことだ。それでも、君が自分の能力についてなんとかしたい、そんな思いがあるのなら……その謎について話すことができる。更に言えば、すぐには難しいかもしれないが、解決の助けができるかもしれない」

 少し考え込んでから、ハルは彼女が抱えている問題を知って、そう申し出る。

 それは決して強要するような雰囲気ではなく、少しでもルナリアの力になれればという思いがこもっていた。


 まだ彼女と出会ってから短い期間のハル。


「あ、あの……なぜ、ハルさんはそんなことを言ってくれるんですか? 私たち出会って間もないのに……」

 戸惑うようなルナリアの反応と浮かび上がった疑問は当然だと思うものだった。


「さっき言ってたけど、ルナリアはパーティメンバーに囮にされたんだろ? あの大量のサンダーバード相手じゃ、一パーティで相手できるもんじゃないからな」

 そして、ルナリアは持てる魔力を全て使って無属性魔法によってサンダーバードを倒した。


 ハルの言葉にルナリアがこくりと頷いた。

 先ほども話したことだったが、改めて落ち着いた状態で確認したことで悲しみを思い出したのか、しょんぼりと肩を落としていた。


「――俺も同じだ」

 ハルの言葉にルナリアはハッとなって顔を上げる。

 目の前にいるハルは同じ冒険者だと言うのに自分よりもずっとしっかりしているようにルナリアには見えた。それと同じとはどういうことだろうかと疑問に思った。


「俺は……今の力を手に入れるまで、能無しとみんなに呼ばれていた」

「のう、なし……?」

 その言葉の意味を測りかねてルナリアが聞き返す。


「あぁ、言葉の通りだ。俺は第一成人の儀を受けた時に、何も表示されなかった――十二歳のあの日……文字どおり、俺にはギフトが与えられなかったんだ」

 少し硬い表情のハルが告げたその事実に、ルナリアは息を飲む。この世界でギフトを与えられない人など考えられなかった。

 ギフトはこの世界の誰しもが与えられるはずの神からの祝福だからだ。


「だから、ポーター……つまり荷物持ちとして冒険者パーティに参加することで、少しでも冒険者の気持ちを味わっていた。いつか冒険者になりたい、なるんだ! なんて言いながら……」

「それは……」

 どこか陰を背負ったハルの言葉に、なんと返せばいいのかわからず、ルナリアは口ごもる。


「そして、ある冒険者パーティに参加した時の話だ。ダンジョンに突入、いくつかの階層を下ったところで休憩をしていた。そこでアイツが現れた――サラマンダーが……」

 ルナリアもその名前を知っている有名な魔物。サラマンダーは素材としてはおいしいが、相手にするには相当の難易度を持つ。


「そ、そんな、それじゃあまさか!」

 そこでルナリアは、ハルが先ほど言った言葉を思い出していた。『俺も同じだ』――そう言ったハル。


「あぁ、俺はその冒険者パーティのやつらに囮に使われた。みんなが逃げ惑うなか、パーティリーダーと戦士の二人が俺を抱え上げて放り投げられた。サラマンダーに向かってな」

 感情を伴わない表情でハルは淡々と事実を口にするが、聞く側のルナリアにしてみれば信じられないような話である。

 口元を押さえて呆然とハルの当時の状況を思い、胸を痛めた。


 彼女が先ほど相手にしたサンダーバード。

 数十体と戦うのは確かに危険なことだったが、サラマンダーは竜種であるため、一体であろうと危険はその比ではなかった。


「まあ、今にしてみればアレが俺の転機だったわけだけどな」

 肩を竦めてそう語るハルは、今となっては彼らに感謝の気持ちすら浮かんでいた。


「そ、そうです! な、なんでそんな目にあっても、能力がなくても生きているんですか!?」

 ルナリアはハルの話を聞いて、そんな大変なことがあったのになぜ無事なのか。なんで、そんなに辛い目にあったのに軽く話せているのか――それを疑問に思っていた。ハルに食いつくように質問を投げかける。


「俺は、自分に能力がないとわかっても、ずっと魔物の、素材の、アイテムの勉強を続けていた。だから、サラマンダーに向かって放り投げられた時も、自然と俺の頭の中ではサラマンダーの情報が駆け巡っていたんだ」

 その状況にあって決して諦めなかったハルの強さをルナリアは感じていた。


「俺が持っていた武器は一本のナイフだった。そのナイフでできる限りのことをやろうとあがいたんだよ。そして、ナイフであいつの弱点を思い切りブッさしてやった」

 そう言ったハルは二ッと笑顔になっていた。


「その時のショックで俺は力に目覚めたんだ。まあ詳しい内容は割愛させてもらうが、そのおかげで俺はつい先日冒険者になることができたんだよ」

 ハルはそう言って冒険者カードを取り出して、ルナリアに見せる。


「す、すごいです! Dランク!? 私なんて、まだEランクです……」

 つい先日というからには、冒険者登録してからさほど期間が経っていない。対してルナリアが冒険者登録したのは一年前。


 その差にルナリアは再度肩を落とした。


「そこでだ。やっと本来の話に戻ることができる。俺が得た力の一つを使ったことで、ルナリアが魔法を使う上でどこに問題があるのか? それを知ることができた。だから、ルナリアが俺のことを信じてくれるなら力を貸したい」

 ルナリアを見つめるハルの目は真剣だった。


 いつかのハルと似通った境遇にあるルナリアに対する同情かもしれない。

 単純な善意なのかもしれない。何か裏があるのかもしれない。


 でも、力を貸したいと言ってくれるハルの目に嘘はなかった。その目を見て、ルナリアはハルのことを信じてみたくなった。


「――なんとか、なるのでしょうか?」

 長年付き合ってきた自分の使いこなせないギフトと、制御しきれない無属性魔法。

 これが本当になんとかなるのか? その疑問の気持ち、そしてハルの言うとおり、何とかなるのかもしれない。

 そんな淡い希望が彼女の心の中でせめぎ合っていた。


「悪いが絶対とは言えない……だが原因がわからなかった過去よりも前に進める可能性があると思う。だから……」

 そこまで言うとハルは立ち上がって、彼女に手を差し出す。少しでも彼女が前に進めるきっかけになればいいと思って。


「ハルさん……――はいっ!」

 色々彼女も悩んだが、ハルを信じてみたいと思った気持ちが勝り、差し出されたその手をルナリアは強く握り返した。


「……っと、それでいくつか確認しておきたいんだけど、ルナリアはあいつらとずっとパーティを組んでいたのか?」

 ルナリアをそのまま立ち上がらせたところでハルはふと思い出したように口を開く。

 あいつらとは、ルナリアのことを見捨てて囮にしたパーティメンバーのことであった。


「いえ、私がどの依頼を受けようかと掲示板を見ている時に声をかけられたんです。魔法が上手く使えないとちゃんと話したんですけど、それでも構わないって……いまにしてみれば、元々囮に使うつもりだったのかもしれませんね……」

 自嘲気味に言うルナリアだが、ハルはその話を聞いてほっとしていた。


「――なるほど、だったらよかったよ」

「えっ?」

 捨て石にされたルナリアのことをよかったと言ったのかと思い、彼女は驚いてしまう。

 先ほどまでの優しい態度とは違う言葉に一瞬戸惑った。


「あ、いやいや、そういう意味じゃなくてさ。即席パーティだったなら、そいつらに気兼ねなくルナリアとパーティを組めるじゃないか」

 言葉が足りなかったと気づいたハルが慌てたように言い直したその言葉に、ルナリアは安堵を覚え、表情もふわりと自然にほころんでいた。


*****************

名前:ハル

性別:男

レベル:1

ギフト:成長

スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、氷牙2、甲羅の盾

加護:女神セア、女神ディオナ

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