第百五十話
翌日も三人は街の散策に出かけるが、一番大きな広場に差し掛かったところで人が集まっていることに気づく。
一体何が起こっているのかと、人混みをかき分けてその中心へと三人が向かって行く。
すると、エルフの女性がにらみ合っていた。
「だから、言っているでしょう? あなたが参加なされても、ただの時間の無駄。そう教えてあげているのだからさっさとのどかな田舎に戻ったほうが賢明なのではないかしら?」
ふんっと胸を張って髪を手で弾くようにしながらそう言っているのは金髪縦ロールの、いかにもお嬢様といった風貌のエルフだった。
「くっ……なぜあなたにそんなことを決めつけられないといけないのよ! どんな試験なのかもわからないし、私が残る可能性もあるでしょ!」
一方で、お嬢様エルフに言い返しているのはこぶしを握って大声を出すブラウンの髪のエルフだった。
「言い争っている内容からして、二人とも今回の巫女候補みたいだな……」
「ですね。どちらがどの方なのでしょうか?」
昨日のリカの説明にあがったどの名前が、どの人物なのか? ルナリアは昨日の話を思い出しながら首を傾げる。
「どちらが誰であるにしても、こんな人前で言い争っているようではすぐに脱落すると思うの」
小さくため息を吐いた決して大きくない声のエミリの呟き。
しかし、それは当事者である二人の巫女候補の耳に届いており、二人は同じタイミングでエミリのことを睨みつけた。
「……あなた、巫女候補の方かしら?」
「子どものくせに生意気なことを……」
鼻を鳴らしつつ金髪縦ロール巫女候補は冷たい目で見ながら質問をする。
ぎりりと歯を噛みしめるブラウン巫女候補は目にメラメラと炎を燃やしながら、口汚くののしる。
「私は巫女候補のエミリ。田舎の村の出身、でも巫女に出自も年齢も関係ないと聞いているの。それと巫女というのは住んでいた村や町だけでなく、エルフ族の代表だと聞いているの。それがこのような多くの人がいる場所で言い合いをするのはどうかと思うの」
淡々と説明するエミリに言葉に対して、周囲にいた人々は確かにそうだなどとエミリの言葉に同意をしていく。
「あんた! 生意気なのよ!」
だが自分が間違っていることを認めたくなかったのか、ブラウン巫女候補は頭に血がのぼってツカツカとエミリに近づいてくる。
しかし、エミリと彼女の間にハルとルナリアが立ちはだかる。
「なによあんたたち! そのお嬢ちゃんの子守り? 一人じゃ何もできないから守って下さい、とか言っちゃうの? あんな偉そうなことを言っておいて情けないにもほどがあるんじゃない?」
頭に血が上っているブラウン巫女候補はなおも追撃をしてくる。
しかし、エミリは表情を変えずに、むしろ守ろうとしてくれたハルとルナリアのことを頼もしく思っていた。
「そこまでよ。確かにエミリさんの言う通りです。こんな場所で言い合いをしても仕方ないことでした。決着は当日つけましょう……エミリさん、指摘してくれてありがとう。気づかずにそちらの女性と同じように品性を欠く行動をとってしまうところでした。私の名前はミスネリア、当日を楽しみにしています」
先ほどまでの冷たい態度を一変させ、冷静な態度でそう言ったミスネリアは優雅な一礼をすると、どこかへと去って行った。
ミスネリアという名前に三人は聞き覚えがある。昨日リカに教えてもらった最有力候補だった。
「ちっ……! これでどうこう言ったら私だけ我がままに見えるじゃない。――いい? もしあなたと競うことがあったら負けないわよ。じゃあね!」
舌打ち交じりで吐き捨てたブラウンの巫女候補は名乗らずに、ずかずかと大きな足取りでどこかへと去って行った。
あっという間の出来事に、周囲にいた人々はしばし沈黙する。
そして、誰からともなく拍手がパチパチとおこり、そしてそれは周囲に伝播して大きな拍手となる。
「いいぞー! 嬢ちゃん、良く言った!」
「あたしはあんたを応援するよ!」
「俺もだ!」
「エミリちゃん可愛い!」
「おつきの二人もよくやったぞ!」
わっと沸き立つ住民たちから次々にエミリたちに声がかかる。
先ほどのもめごとにはみんな嫌な思いをしていた。
しかし、巫女候補に対して口出しするのも憚られるため口をつぐんでいた。
そこでエミリが言いたいことを言ってくれたため、気持ちの代弁者としてエミリのことを称えていた。
それだけでなく、年上に見える二人に対して引かず、ひるまず意見をいった小さなエミリの強さに感動している者もいた。
「ははっ、俺たちおつきの二人だってさ」
「ふふっ、いいじゃありませんか。今回の主役はエミリさんですから!」
「うぅ、そんなつもりじゃ……二人がいるから今の私がいるのに……」
ハルとルナリアはこの状況を楽しんでおり、エミリは二人が「おつき」などと呼ばれたことを気にして小さい身体を更に小さくしていた。
「エミリ、わかってるよ。でもいいんだ。今回の巫女選抜の儀式はエミリが主役だし、俺たちはそんなエミリをサポートする役割だから、今はおつきでいいんだよ」
「そうです! 気にしないで下さい。エミリさんの気持ちはちゃんとわかっていますから」
そう言いながらルナリアは優しくエミリの頭を撫でる。
「……うん。二人ともありがとうなの」
頬をほんのりと赤らめたエミリも自然と笑顔になり返事をする。
「みんな! エミリの応援ありがとう! でも、さすがに人が集まりすぎだから解散しよう。また当日の応援をよろしく!」
手をぱんと叩いたハルがこの場を仕切り、みんなに礼をいいこの場を解散させる。
最初はとどまろうとする者もいたが、徐々に人が減って行き、広場は普段の人の量に戻っていた。
人混みが落ち着いたのを見て、ハルたちは広場に設置されているベンチに腰掛ける。
「――で、どうだった?」
そう最初に口を開いたのはハルだった。
先ほどの巫女候補二人についてどう考えるか、ルナリアとエミリから見た情報を確認する。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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