第百四十八話
ぐっすり眠り、休息をとった三人は翌日も部屋で朝食を食べてから出発する。
「さて、腹は膨れた。外の店も教えてもらった――となると、そろそろ本題である神殿に向かうことにするか」
ハルの言葉にエミリの表情が硬くなる。
「大丈夫ですよ。私たちも一緒に行きますから」
ルナリアはそう言うと、笑顔でエミリの左手を握る。
「言っただろ? 俺がなんとかするって」
ふっと笑ったハルはエミリの頭を優しく撫でる。
二人がずっと一緒にいてくれることを思い出したためか、エミリの表情が柔らかくなっていく。
「一緒に、いてね?」
エミリは頼っていいんだという考えを持てるようになったため、上目遣いでハルとルナリアにお願いする。
その表情と言葉は二人の心をドストライクに貫いていた。
「くっ……エミリ、その顔はずるいぞ!」
「そうです! なにを投げ売ってでも助けたくなっちゃいます!」
エミリの愛らしさに身もだえしながら言う二人を見て、心当たりのない彼女はきょとんとしていた。
「ま、まあ助けるのは本当だとして、将来のエミリのことが心配になる俺たちの気持ちも本当だ」
「ですね!」
「えっと……ありがとう、なの?」
エミリはこてんと首を傾げながらも、自分のことを考えてくれている二人に感謝の言葉を口にする。
「ぐっ……また可愛いしぐさを! いや、これじゃあいつまでたっても進まないな。とりあえずは神殿を目指すことにしよう」
いつまでも見ていたくなるのをこらえたハルはそう言いながら街の地図を取り出す。これも宿で用意してもらったものである。
「えっと、俺たちが泊っているのがここで街の入り口がここ。それで、神殿はここか……」
ハルが地図を指差した先、神殿の位置は精霊樹のふもとにあった。
「まずは、神殿に報告に行くとしよう。ルナリア、エミリ、街の様子を見ながらでも構わないから、周囲の気配には気を配っておいてくれ。視線や、悪意、つけている気配とかな」
村長の追っ手からは逃れることはできたが、他の巫女を擁立している勢力がいることが考えられるため、油断はできない。
「わかりました!」
「うん、今のところは大丈夫そうなの」
ルナリアは気合をいれなおし、エミリは既に気配を探っていた。
それから三人は何軒かの店を覗いてから、神殿へと向かう。
神殿が近づくにつれて空気が変化していくのがわかる。
「なんだか、音が小さくなったような気がするな」
街の喧騒は既になく、鳥や虫の鳴き声も聞こえてこない。ただ静かな街路樹に両脇を挟まれた舗装してある道があるだけだ。
「結界、のようなものが張られているみたいですね」
魔力を見るように意識を使うと、ルナリアがよく使う風の障壁に似ている効果が周囲に巡らされているのが感じ取れた。
「――あれが神殿か」
その先に他の建物とは様式の違う建造物が精霊樹のふもとに建っていた。
厳かさと静かな美しさをたたえた年季を感じさせる美しい石造りの神殿だ。
「いこ、なの」
そう言って真剣な表情で先頭を進むエミリは左手でルナリアを、右手でハルの手を握っている。
手から二人の体温を感じることで、エミリの心から不安は消えていた。
神殿の扉は開かれており、すんなりと入ることができた。
しかし、入った瞬間、一斉に視線が集まってくる。
ハルとルナリアはその視線からエミリを守るように動く。
「大丈夫なの」
こうなることを予想していたエミリは落ち着いた様子で受付へと向かっていく。
「私はエミリ。ナウラの村からやってきた巫女候補。これがその証明書」
いつもの口調ではなく冷たくハッキリとエミリは自らの素性を名乗り、巫女候補であることの証明書を提出する。
提出した相手は白いローブを纏ったエルフの男性で、顔には感情が浮かんでいないように見える。
どこかそら恐ろしくも感じる。
「ふむ、ナウラのエミリだな。承った。この用紙に今後の予定が書かれている。遅れることのないように」
それだけをいうと、彼はどこかに行ってしまった。
他の視線を向けていたエルフたちも最初とは違い、まるでエミリ、そしてハルたちが視界に入っていないかのような、まるで誰も最初からいなかったかのようにそれぞれの仕事に戻っていた。
石造りならではの冷たい足音だけがそこに人がいることを示している。
「なんか、変な感じだな」
「ちょっと怖い感じがします」
ひそひそと顔を近寄らせているハルとルナリアの会話も耳に入っているだろうが、それでもピクリとも反応を見せなかった。
「大丈夫、外に行こう」
エミリは彼らのこの反応も予想しており、ハルたちを混乱させないように外へと連れ出す。
神殿から距離をとったところでエミリが足を止める。
「あの人たちはアレが普通なの。長いことあの仕事だけやっていて、基本的に外界との接触がほとんどない。そして、あの仕事につくときに感情を捨てたって聞いたことあるの……」
その言葉に、ハルとルナリアは驚いていた。
「そんなことまで……ちょっと俺たちの理解の及ばない話だな」
「えぇ、まさかそんな人までいるだなんて」
信じられないという様子だが、エミリは首を横に振る。
「二人が理解できないのはわかるの。でも、私は理解できるの。もちろん自分がしたいとは思わないけど」
語るエミリにハルとルナリアは耳を傾ける。真剣な表情であるため、聞かなければいけないと思った。
「私たちエルフの寿命は飛びぬけて長い。だから長いその生の中で、生きることに飽きる人。生きることの目的を見失う人がいるの。だから、こういう役目を引き受けることで生きる目的を手に入れる人もいるの」
寿命の違いが考えの違いを生む――だから、理解できるとエミリは説明した。
「なるほど……わかったよ。でも、エミリは俺たちと一緒にいる間はそんなことを考えなくていい。俺たちがもしいなくなったとしても、その時にはきっと別のやつらが一緒にいてくれるはずだ。だから、エミリは悩まなくていい」
ハルは人族、ルナリアは獣人であるがゆえにエルフ族であるエミリとはいつか別れが来ることは避けられないため、今はこの言葉しかかけられない。
しかし、これがハルの精一杯だった。だからこそ気持ちが伝わるように目線を合わせ、真剣な表情でそう告げた。
それはエミリにも伝わっており、表情を和らげると静かに、深く頷いた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。
書籍が3月22日に発売となっております!
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJノベルス
著者:かたなかじ
イラストレーター:teffishさん
よろしくお願いします!




