第百四十六話
「いらっしゃいませ」
宿に入ると、宿の従業員が揃った声でハルたちを迎え入れる。
従業員といっても、男性は全員タキシードを着用しており、女性はメイド服を着用していて一般的な職員には見えない。
彼らの言動は洗練されたもので、控えめだが頼りがいのありそうな雰囲気だ。
中をぐるりと見渡しても高級そうな素材を上品に使った落ち着いた雰囲気の内装だった。
「こ、これは、想像以上だな」
ハルはお客様を迎え入れる従業員たちの一糸乱れぬおじぎにたじろぐ。
「ハ、ハルさんがここに決めたんですからしっかりして下さい!」
「そ、そうなの!」
ハルの背中を押すルナリアとエミリだったが、慣れない雰囲気に二人も動揺していることが声からわかる。
「失礼します。三名様でご宿泊、でよろしいでしょうか?」
声をかけてきたのは、メイド服を着た猫の獣人従業員である。
どうやら、どの種族にも対応できるようにこの宿では多種族の職員が雇われているようだった。
ルナリアが狐の獣人であるために彼女が出てきたのかもしれない。
「あぁ、えっと、そうです。この街に来たばかりで、外に馬車もあるんですけど……部屋空いていますか?」
動揺しながらもハルがなんとか説明する。
緊張しているのがわかったのか、猫獣人の従業員は安心させるように穏やかな笑顔で頷いた。
「それでは、まずは宿泊の手続きからお願いします。あちらのカウンターで承っていますのでどうぞ」
そう言いながら彼女はカウンターまで三人を案内する。
その途中も彼女はエミリに手を振ったり、少しでも緊張をほぐすようなしぐさを見せていた。
エミリの顔から緊張が少し薄れていた。
到着したところで担当を交代した。受付は女性のエルフが担当している。
眼鏡をかけた仕事のできそうなクールな雰囲気の女性だ。
「いらっしゃいませ。こちらがご宿泊プランになります」
提示された用紙には部屋のグレードと、一泊あたりの宿泊額が記載されていた。
「なるほど、それじゃあこの一番上の部屋を三人でとりあえず一週間お願いします」
ハルが悩むことなく、最上級のロイヤルスイートを選択したため、隣で見ていたルナリアは驚きで目を見開いている。
受付カウンターが高いためエミリには見えなかったが、会話の内容とルナリアの反応からして、ハルがとんでもないものを選んだということだけは伝わっていた。
「えぇっと、その失礼ですがこのロイヤルスイートを一週間でよろしいですか?」
少し困ったような表情で受付の女性が改めて確認をする。
ハルたちの服装や装備を見る限り、一般的な冒険者といってよく、特別裕福層に見えなかったエルフの受付女性が思わず問いかけてしまった様子だったが、なるべくその考えが表に出ないように笑顔でいる。
「はい、それでお願いします。お金は前払いですか? それともチェックアウトの時に?」
通常は日数で計算するため、最終的にチェックアウトする時に支払ってもらうことになるが、受付のエルフは頭の中で色々計算をしていく。
「それでは、一週間分頂いてもよろしいでしょうか?」
その結果が先払いということになる。
ハルたちが本当にこの金額を支払えるのかを確認しておきたかったがゆえの判断である。
「一週間分だから……これでちょうどかな?」
ハルはマジックバッグから宿泊代を取り出して、カウンターに並べる。
「……はい、ちょうどです。それでは、お部屋へご案内します。リカ、お願いします。お部屋はロイヤルになります。鍵をお願いします」
「はい、わかりました」
リカと呼ばれたのは先ほどカウンターまで案内してくれた猫獣人の従業員だった。
「それではご案内します。こちらです、階段をあがっていきますのでご注意下さい」
そう説明するリカは、エミリにウインクしてから一行を案内していく。
エミリはそれに対して無言だったが、好意的な態度を向けてくれるリカに対して良い印象を抱いていた。
ゆっくりと階段をあがっていき、一番上の四階に到着する。
「長々と階段移動になってしまいまして申し訳ありませんでした。こちらが皆様のお部屋になります」
リカの謝罪を伴った説明を聞いてハルたちは首を傾げる。
「えっと、どういうことですか?」
ルナリアは状況の説明を求める。
四階に上がったものの、扉は一つでそのカギをリカがあけようとしている。
「あれ? ご存知ありませんでしたか? ロイヤルスイートはこの四階ワンフロア貸し切りになります。なんの躊躇もなく選んでらっしゃったので、ご存知だとばかり思っていましたが……」
リカはむしろハルたちがこの事実を知らなかったことに驚いていた。
「な、なるほど。いや、そういうことならまあ。ワンフロア使えればゆっくりできるだろうし、変えるつもりもないけど、いやあ驚いた」
「ふふっ、中に入ったらもっと驚くと思いますよ!」
ハルたちの反応に気をよくしたリカは扉を開くと笑顔でハルたちを中に案内する。
部屋に入ると、入り口の床が魔道具になっていて靴の汚れを自動で落としてくれる。
その先は靴で上がることがはばかられるほどのふかふかの絨毯が続き、各部屋に繋がっていた。
「すげえ」
「すごいの!」
「う、うちより豪華です!」
ハルとエミリは素直に驚き、ルナリアはそれなりの大きさであるはずの自分の家よりもはるかに高価な部屋を見て衝撃を受けていた。
「各お部屋には受付に繋がる魔道具が設置されていますので、御用の際は遠慮なくお申し付け下さい。食事は必要になったら連絡して下さい。調理の時間は頂きますが、お部屋まで運ばせて頂きます」
リカが必要な説明をしていくなか、ハルとエミリは吸い寄せられるように次々と部屋を確認していく。
「エミリ、こっちの部屋にもベッドがあるぞ!」
「ハル、こっちはお風呂が二つあるの!」
二人は部屋の探索に夢中で、説明を聞いているのはルナリアだけだった。
「えっと、私が聞いていますので続けて下さい」
「ふふっ、仲がよろしいみたいですね。部屋に置いてある備品はなんでもお使い下さい。もし、わからないことや気になること、お店の紹介、街の案内、ちょっとしたお買い物などなんでもお気軽にご相談下さい」
「えっ!? そんなことまでしてくれるんですか? ありがとうございます」
あまりの好待遇にルナリアは思わず頭を下げてしまう。
「いえいえ、お気になさらないで下さい。こちらの部屋を一週間もご利用になって頂けるのですから、当然のサービスです。それでは、私はこれで失礼します。こちらが部屋のカギになります」
にっこりと笑ったリカはルナリアにカギを渡すと、部屋を後にした。
「ふう、それじゃあ、私もお部屋の探索にいきますか!」
リカが部屋を出て行ったのを確認したルナリアは、走って二人に続いていった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。
書籍が3月22日に発売となっています!
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJノベルス
著者:かたなかじ
イラストレーター:teffishさん
よろしくお願いします!




