第百四十四話
森の出口まであと少しというところで一旦馬車を降りて、木陰から森の外の様子を伺う。
森から少し離れた位置だったが、そこには例の兵士の姿が見えた。
「やっぱりいるみたいだ。確かにこの平原に飛び出してきたところを攻撃すれば倒しやすいな……」
その倒される相手が自分たちであることが問題であるため、ハルは眉間に皺を寄せる。
「中央大森林に入っちゃえばあの兵士たちは手出しできないと思う。だから、そこまでいければなんとかなると思う」
「手出しできないの?」
エミリの言葉にルナリアが首を傾げる。
「うん、中央大森林に一歩入ったらもう街の中という扱い。だから、街の中で戦いを行ったら罰せられる。その代わりってわけではないけど、この平原の中での戦いに街は関与しない」
「なるほど! だから、ここで待ち構えているんですね。最後のチャンスであり、なおかつ見通しがいいから捕まえやすい!」
これまたその対象が自分たちであることが問題であるため、納得してスッキリとしているルナリアとは対照的にハルは難しい顔をしている。
「全部倒してもいいんだけど、それだと時間がかかるよなあ。かなりの数の兵士がいるみたいだし……」
見える範囲の数であれば、三人がかりであれば問題なく乗り切ることができる。しかし、追加の兵士がやってきたらその限りではない。
「そうなの! こういうのはどうかな……?」
エミリが何か思いついたらしく、二人に耳打ちする。
その数分後、馬車はゆっくりと平原を進む。
予想していた通り、兵士たちが馬車に近づいてくる。武器を構えて物々しい様子である。
「おい、止まれ!」
兵士の一人が剣を抜いてハルに向ける。
「は、はい、なんですか?」
ハルはわざと動揺したふりをして馬車を停める。
「馬車の中を確認させろ。子どものエルフを連れているやつらがいるという話でな。誘拐の嫌疑がかかっている!」
もちろん誘拐の嫌疑というのは嘘であり、エミリのことを探していた。
「わ、わかりました。馬車の中を確認して下さい」
ハルが兵士に怯え、おどおどした様子であるため、兵士はニヤリと笑いながら乱暴な態度で馬車の確認をしていく。
「きゃっ!」
急に中を改めに入ったため、驚きからルナリアがかわいらしい小さな悲鳴をあげる。
「おぉ、これはすまない。あなたのような美しい方がいるとは思わなかった。すまないが、エルフの子どもがいないか確認させてもらうぞ……人は、いないか」
ルナリアの容姿に見惚れたように態度を改めた兵士は彼女を横目に入れつつ、広いわけでもなく、多くの荷物が積んであるわけでもないため、ざっと見渡しただけで確認を終えようとする。
「おい、その袋……なんだ?」
その時、別の兵士が隅に置かれた大きな袋に気づく。ちょうど中に人間の子どもが入れそうなくらいのサイズの袋である。
「えっと、これは……私の荷物が入ってます……」
こちらも少しおどおどした様子で答えるルナリア。
「いいから、こちらに渡せ!」
その態度が怪しいと感じたため、大声を上げながら兵士が強引にルナリアから荷物を奪おうとする。
「でも、本当に私の荷物なんです……! やめてください!」
それでも抵抗するルナリアにいよいよ怪しいと感じた兵士たちが、二人がかりで荷物を奪い取る。
「あぁ……」
兵士二人の力にはかなわず、袋を奪われたルナリアは中身を見られてしまう、と悲しそうな表情になりながら声を出す。
「この中か!」
奪い取れたことでいい気になった兵士が勢いよく袋を開けると、中からは……。
「――服?」
キョトンとする兵士。
そう、袋の中にはルナリアの服がパンパンに詰められていた。乱暴に開けたことで彼女の服があたりに散乱する。
「だから言ったじゃないですか! 私の荷物ですって! もう、これから洗濯するものだから見られたくなかったんです!」
そう言いながら真っ赤に顔を染めたルナリアは恥ずかしさをこらえるように急いで袋を取り返して、再度服をしまっていく。
「もういいですか? 不快です! もうあっち行って下さい!」
必死に袋に服を詰め込んだルナリアは目に涙をためながら兵士たちを睨みつける。
「こ、これは失礼をした……」
「あ、あぁすまない。エルフの子どもがいないことは確認できた。この先同じように質問されることがあったらこれを見せるといい。それでは失礼する」
申し訳なさそうにする兵士二人は慌てて馬車から降りて離れていく。
年頃の女性に恥をかかせたことは、彼らにとって大失敗であるため、この場からすぐに逃げ出したかったようだった。
兵士二人が他の兵士にも声をかけると、全員が馬車から離れていった。
「ふう、それじゃあ出発しようか」
去っていく兵士たちを確認し、表情を変えず、ハルは静かに馬車内に声をかけて進ませる。急ぎたいところであるが、あえて変わらない速度で進ませる。
「ハルさん、これを兵士の人に渡されました。同じように声をかけられたら見せるようにって」
ルナリアが差し出したそれは一枚の用紙で、確認済という言葉とあるエルフの貴族の判が押されていた。
「なるほど、これがあの兵士たちの雇い主か。あとでエミリに確認してもらおう。まずは……中央大森林にはいるのが先決だ」
その後は誰かから声をかけられることはなく、一行は無事に森の中へと入ることができた。
馬車が森へと踏み入れて、平原から見えなくなったところでハルは馬車を停めた。
「エミリ、大丈夫か?」
ハルは馬車の下に向かって声をかける。
「うー、なんとか。でも早く出して欲しいかもなの。ちょっと酔ったの……」
馬車の下から聞こえてきたぐったりとした返事はエミリのものだった。
エミリは馬車の下に作られた小さな空間にいた。
これは以前財宝を運んだ時と発想は同じで、まずは土魔法で箱のようなものをつくり、それを氷魔法で馬車に張り付ける。
その中にエミリが乗っていたというものだった。
「待って下さい、すぐに降ろしますね」
乗る時もルナリアとハルが手伝い、降りる時もルナリアが魔法で手伝っていく。
すぐに降りることができたが、立ち上がったエミリは狭いところにいたせいかフラフラしてルナリアの手に掴まる。
「ごめん、自分で言いだしておきながらあんなに揺れたのは想定外だった」
「ううん、いいんですよ。おかげで無事突破できましたから。少し休みましょう」
ルナリアはハルに目配せして休憩を求める。
ハルは頷くとすぐに馬車を端に寄せて休憩できるようにした。それと同時に水を一杯コップに注いでエミリに渡す。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。
書籍が3月22日に発売となります!
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJノベルス
著者:かたなかじ
イラストレーター:teffishさん
よろしくお願いします!




