第百三十七話
「もうすぐ中央大森林に到着するでしょ。そうしたら、私は役目があるから二人と別れなくてはならないの。ハルとルナリアにはとてもお世話になったから、お礼を言っておきたかったの……」
目的地まであと少しの場所まで来たことで、寂しさと感謝の気持ちが沸き上がったため、くしゃりと服の裾を握ったエミリは二人に礼の言葉を口にした。
「大体は本当みたいだな」
しかし、ハルは全てを鵜呑みにはしなかった。
「中央大森林が近づくにつれてエミリの様子がおかしくなった。そう思ったんだけど、そうじゃなくてこの村が近づいたことでエミリの様子がおかしくなった――それが正解だろ?」
ハルの言葉を受けて、エミリの身体がビクリと震える。
「この村、あの村長さんが声をかけてきたのもおかしかった。親切心で家に泊めてくれると申し出てくれただけならありがたいことなんだが、どこか強引さがあって怪しい。何か関係があるんじゃないのか?」
最初に会った時からハルはあのエルフの村長の態度に違和感を覚えていた。
それでも彼の申し出を受けたのは、この村とエミリの表情の変化に何か関係があるのではないかと思ったためだった。
「……」
少し迷ったようにしながらも無言のままエミリが頷く。
肯定はするが、答えたくないようだった。
「言いたくないなら、まあいいさ。無理に聞くつもりはないし、問題があれば俺とルナリアで対処する。それはエミリがなんと言おうと変えないからな」
強めの言葉を口にするハルだったが、それもエミリを思ってのことであるため、彼女も静かに頷いた。
話は一区切りついたため、ハルがルナリアの肩を軽くポンポンと叩いて合図をする。
すると、障壁はすぐに消えて音が戻ってくる。
「ルナリア、ここは何かある。俺たちで調査するぞ」
そう耳打ちすると、チラリとエミリに視線を向けた。
言葉と視線。その二つでルナリアは大体の話を察する。
この村とエミリのうかない表情に何か関係があるのだろう、と。
そして、きっとこの話は村長であるディアディスに聞かれないほうがいいのだろうと、ただ頷くだけで返事とする。
「みなさん、どうぞこちらをつまんでいて下さい。じきに料理もできますので」
ディアディスはそういってポテトフライを運んでくる。
「ありがとう」
礼を言うとハルが最初に手をつける。
何が問題になっているのかわからないが、食事に関しても気をつけるべきであるため、耐毒スキルを持つハルが最初にそれを口にした。
毒があれば、食べたあとにスキルが発動されて毒を消していく。
外からは見えないが、ハルだけがそれを感じるというものだ。
「うん、美味い。二人も食べるといい。ただ夕飯がくるから、食べすぎには注意だ」
だがポテトフライを食べてもスキルの発動は感じられなかった。
ハルは二人に美味いと教えることで、この料理は安全であると暗に伝えていた。
それからしばらくして、夕食が運ばれてくる。
「さあさあ、どうぞ。遠慮なく召し上がって下さい」
これもハルが最初に口をつけるが、問題はないため、静かに頷いて二人に食事を促す。
夕食は問題なく終わり、ハルたちは一番奥にある部屋へと案内された。
「さて、どうするか。調査といっても、明日出発予定だからあまり時間がなさそうだ」
「そうですね……まずは外を散歩するというのはどうでしょうか? 日は落ちたので人は少ないでしょうけど、それゆえにわかることもあるかと……」
「散歩……」
作戦会議中の三人の声は、外に漏れることがないよう、先ほどと同じようにルナリアの障壁によって遮断されている。
「そうだな、ここでこうやって相談していても何も変わらないから少し探ってみよう」
ハルが立ち上がるとルナリアとエミリもそれに続く。
エミリはやはりどこか浮かない様子ではあったが、二人といられる時間を大事にしたいと考えているようだった。
「おや、どこかにお出かけですか?」
外に出るにはリビングを通り抜ける必要があり、そこにはディアディスの姿があった。
「少し散歩しに外に行ってくるよ。初めての村だからそれだけで興味深い」
「そうですか……いや、暗いのでお気をつけて。小さいお子さんもいるようですし」
チラリとエミリに視線を送り、ふわりと笑顔を見せるディアディスだったが、少し俯いたエミリはハルの陰に隠れた。
「おやおや、嫌われたものですね。入り口は開けておきますので、自由に出入りして下さい」
少し苦笑交じりのディアディスはハルたちが外に出て行くことを止めず、行動を制限しないことにハルは一瞬だけ疑問を持つが、外に行くことを優先する。
「――それじゃ、いってきます」
声をかけて、三人は家を後にする。
外は月明りのみで暗く、虫の鳴く声が小さく聞こえてくる。
周囲を見渡しても人の姿はなく、灯りのさす家からは家族が団らんしている声が聞こえてくる。
「……こう見ると、普通の村だな」
「ですねえ。ディアディスさんも怪しさはあるものの、ここまでのところは悪い方ではないようです。何かがあるのは間違いないようですが……」
二人は怪しくない程度に周囲を確認しながらエミリの手を引いてゆっくりと歩いていく。
「……ごめんなさいなの」
急に謝罪をするエミリにハルとルナリアは首を傾げる。
「なにかあるのか?」
「ううん、私が色々言えればいいんだけど……」
沈んだ表情で言うエミリだったが、ハルとルナリアは励ますようにぱっと笑顔になる。
「気にしなくていい。エミリは俺たちの家族だ。困ったことがあって、それを言えないなら俺たちが動いて解決に近づけてやる。結果を出せるかはわからんが、全力で動くと誓うよ」
目線を合わせるようにかがんだハルは空いた方の手でエミリの頭を軽く撫でる。
それと同時に、ハルは誰かに見られたことを感じていた。元々良かった耳にも足音がかすかに聞こえる。
視線の先には何人かの村人の姿があった。
「――なるほど、そのあたりが怪しいな」
ここまで来てハルは一つのことに思い当たる。ディアディス以外にエルフの姿が見えなかったのだと――。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。
書籍が3月22日に発売となります!
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJノベルス
著者:かたなかじ
イラストレーター:teffishさん
よろしくお願いします!




