第百三十五話
仙龍と向き合いながらエミリが悩んでいる間、ハルとルナリアは近くにあった花畑を散歩する。
「この寒い山にあって、こんなに花が咲いている場所があるとはなあ」
「ですねえ、精霊のお二人の影響なのでしょうか? 空気も暖かいです」
笑顔のルナリアの言葉のとおり、花畑周辺の気温は高く、周辺に比べて暖かった。咲き誇る花々も快適そうで、生き生きとした姿だ。
『その通りだ。このエリアは私が特殊な結界を張ると同時に、気候も温暖なものへと変更している。あいつにはその維持をさせていた』
それは虹鳥の精霊の言葉だった。褒められたのを誇らしげに語る。
「えーっと、精霊さんも寒さを感じるのですか?」
ルナリアが疑問を口にした。イメージでしかなかったが、精霊が寒暖差を感じるとは思えなかった。
『ふむ、確かに寒いとは思っていない。だが、精霊にはその精霊に適した環境というものがあって、わかりやすい例でいえば――そう、この山であれば氷の精霊などは力が強化されるだろうな』
環境が精霊の力を強化するというのが虹鳥の精霊の話だった。
「なるほど、それであんたたちは暖かい場所だと力が強化されるのか」
納得がいったというハルの言葉に、虹鳥の精霊はニヤリと笑う。
『まあ、今の話の流れであればそう考えるのが当然だろうな。しかし、私もあいつも環境には大きく左右されることは少ない』
それを聞いてハルもルナリアも首を傾げていた。
『はっはっは、すまんな。先ほどの説明は一般的な精霊の話をしたのだ。環境に影響されないが、私は花が好きなんだ。この山に生息する花は美しいからそれを愛でていたくてな』
虹鳥の精霊は目を細めて咲き乱れる花々を見ている。自分の気持ちを満たすために環境を変えたのだという気持ちが伝わってきた。
「なるほど、確かにこの景色は綺麗だ」
「はい、なんだか心が穏やかになりますね」
ハルとルナリアも一緒に花を眺めていた。
そして、この広場を一周ぐるっと回って戻ってくるとエミリはまだ目を閉じて唸りながら考えていた。
「エミリさん……」
ルナリアが見かねて声をかけると、その瞬間にエミリがぱっと目を見開いた。
「決めたの!」
「きゃっ!」
急にエミリが声を出したため、ルナリアは驚き、大きく身体をのけぞらせる。
「あっ、ごめんなさいなの」
「大丈夫ですよ。それより名前決まったんですか?」
それに気づいたエミリが謝罪をするが、ルナリアは笑顔で首を横に振った。
「そう! そうなの! やっと決まったの!」
頬をほんのり赤らめたエミリは興奮して仙龍を指さした。
『ほ、ほんと!?』
「うん!」
それを聞いた仙龍も同じように興奮し、ソワソワし始めている。初めての名づけというのはされる側も緊張するようだ。
「それじゃあ、聞かせてもらおうか」
ハルがそう言うと、エミリがハルのもとへと移動して屈むようにジェスチャーする。
指示どおりにハルが姿勢を低くすると、エミリが何やら両手で口元を隠すようにして耳打ちをする。
「なるほど……わかった……契約の時に名前を発表するような形になるがそれでいいんだな?」
ハルの質問にエミリは笑顔で大きく頷いた。ハルの口からなら発表されてもいいと思っているようだった。
「それじゃあ、エミリと仙龍は俺の前に来てくれ」
ハルは自分のスキルを再度確認し、そして精霊契約の文言を頭の中に思い浮かべていく。
これはスキルを手に入れた際に、自然と記憶に焼き付けられているものだった。
一度大きく息を吸ってからハルが二人の頭の上に手をかざす。
「――”汝、エミリは彼の者を従者として契約することを望むか?”」
ハルはスキルに指定されている言葉を紡ぐ。するとエミリの足元にすっと文様の光が浮かび上がる。
「はい、誓いますなの!」
手を上げたエミリは大きな声で返事をする。
「――”汝、グラードは彼の者を主として契約することを望むか?”」
ハルの言葉を聞いて、仙龍が身震いする。
このタイミングで『グラード』と口にしたということは、それが自分の名前になると理解したためである。
全身を駆け抜ける高揚感に身をゆだねていた。
「……”汝、グラードは彼の者を主として契約することを望むか?”」
返事がないため、再度ハルが同じ言葉を口にする。
『は、はい! 誓います!』
動揺しながらではあったが、なんとか返事をするグラード。
返事をしたということは、名前を受け入れたということでもあるため、隣にいるエミリもほっとしていた。
「”汝らの契約はここに締結された。エミリを主とし、グラードを従者とする契約は何人たりとも破ることかなわず”」
ハルがそこまで言うと、エミリとグラードの身体が光に包まれる。
「わ、わわわ」
『な、なんか光ってる!』
それはしばらく続き、やがて収まっていく。
「ふう、これで完了だ。お疲れさん」
「……ハル、ありがとう」
『ありがとう』
精霊契約が完了したため、ハルが声をかけると二人が礼を言ってくる。
見た目上ではなんら変化は起きていないが、エミリもグラードも相手との強いつながりを感じていた。
「あの、グラード……って呼んでいいのかな?」
エミリは契約した今でも、自分がつけた名前でいいのか不安な気持ちが完全にはぬぐえていないため、確認をする。
『もちろん! 僕は君のことをなんて呼べばいい? エミリ、エミリさん、エミリ様……』
「エミリでいいよ。私とグラードは主従関係の契約を結んだけど、対等。いい?」
『わかったよ、エミリ!』
グラードの返事にエミリは笑顔になる。
「さて、これで契約はできたけど、俺たちの目的地は中央大森林なんだが……大丈夫か?」
自分たちの目的地を変えるつもりはないため、虹鳥の精霊とグラードに確認をとる。
『ふふっ、構わんよ。精霊の命に制限はないし、色々な場所に行って見聞を広めることは良いことだ。しかも、その行く先が中央大森林ともなれば……特に良い経験ができそうだからな』
何か含みのある様子でいう虹鳥の精霊の言葉に、グラードは緊張した面持ちとなる。
「まあ、問題ないならよかったよ。俺たちはどうしても行く先を変えることはできないからな」
ハルがそう言いながらエミリの頭を撫でると、彼女は目を細める。
「それでは、虹鳥の精霊さん。またいつかお会いしましょう」
ルナリアが丁寧に頭を下げると、虹鳥の精霊は笑う。
『ふむ、せっかく我が弟子が契約したのだから、もう少し君たちに助力しようじゃないか』
そう言うと虹鳥の精霊はみるみるうちに巨大になっていく。
『馬車ごと背中に乗るといい。途中まで送って行こう』
ハルたちがその提案に反対することはなく、慌てて背中に乗り込んでいった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:4
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁4、剛腕3、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化6、筋力強化6、敏捷性強化5、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化5、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、精霊契約
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法4、氷魔法4、風魔法4、土魔法5、雷魔法4、
水魔法3、光魔法4、闇魔法3
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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