第百二十九話
それから馬車は静まりかえったまま、ギルドへと戻る。
到着すると、チェイサーの案内で一つの部屋に移動することとなった。
「お座り下さい。色々なことがありましたが、何にせよみなさんの希望されたものを全て落札できて一安心です」
テーブルには温かいお茶が出され、チェイサーもリラックスしている様子が見られた。
オークションという場に慣れているとはいえ、今回の入札では緊張を強いられていた。
加えてオークション後に襲われたとなれば気を緩める暇もなかった。
「俺としてはかなりよかったよ。腕輪も三人分手に入ったし、ルナリアの杖もエミリのプレートも手に入ったからな。それにエミリの強さを見ることもできたから万々歳だ」
一口お茶をすすった後、ハルは満足そうな顔になって、エミリの頭を優しくぽんとなでる。
「ですねえ、エミリさんすっごく強かったです」
ルナリアは落札した杖を大事そうに抱えて肌身はなさず、持ちながら笑顔で話す。
笑顔の理由はエミリの活躍だけでなく、自らの希望の品が手に入ったということもあった。
「うー……せっかくチェイサーが頑張ってくれたものを寄越せとか、厚かましいし失礼なの」
両手でカップを持ちながらちびちびお茶を飲んでいたエミリは襲ってきた男たちのことを思い出して唇を尖らせていた。
「あの貴族の方の顔とお名前を記憶しておりますので、しかるべき方に報告しておきますのでご安心下さい。――ただ……姿を消したエルフの方については難しいと思われます」
最初は笑顔だったチェイサーは後半、表情を曇らせてそう言った。
一瞬で姿を消したエルフの男。男の目的がエミリが身に着けているエルフィニウムプレートだということはわかっていた。
「にしても、なんでその胸当てをそこまでして欲しがったのかが謎だな。もちろん使われている金属が珍しいものだっていうのはわかる。だけど金を持っている貴族が、エルフにちょっとそそのかされたくらいで正式な落札者を襲うまでするか?」
ハルはその点を疑問に思っていた。
「エミリさん、何か心当たりはありますか? エルフの方がその金属の装備を持つと何かがあるとか」
「うーん……」
ルナリアの質問にエミリはきょとんとしたあと、首を傾げ、考え込んでいる。
「故郷でしか取れない金属で、外部に流出することは少ないの。それは確かだけど、だからといって同じエルフと争ってまでどうしても手に入れないといけないかと言われたら……」
そこまでの価値があるとは思えない――それがエミリの回答だった。
「ふむ、なんにせよあいつに聞かないとわからないってことか。それならまた出くわした時に質問するまでだ」
ハルはわからないことに時間を割いても仕方ないと割り切ることにする。
ルナリアもエミリもその考えには同意しており、ゆっくりと頷いていた。
「そうですね。とりあえずみなさんに今回の落札金をお渡しします。手数料は引かせていただいてますので」
いつの間に計算を終えたのか、チェイサーが金の入った袋をテーブルの上においた。
「あぁ、どうも……って多くないか!? ちゃんと俺らの落札金を支払ったんだよな?」
ハルは自分たちの品物が高額で落札されたのはわかっていたが、いくらだったかまで気にしておらず、思っていた以上の金額が渡されたことに戸惑っていた。
「いえいえ、何をおっしゃっているんですか。ベヒーモスの素材ですよ? いくらの値段がついたと思っているんですか。あれほど珍しい素材を出品したのですから、これだけの額になって当然です」
苦笑しつつチェイサーは呆れたような表情で、これが適正な価格であると説明し、頷いている。
「すげーな。ゼンさんに感謝だな……とりあえず、ありがたくもらっておくよ。ルナリア、エミリ、俺のカバンに入れておくからな。何か買いたくなったら言ってくれ」
「わかりました」
「りょーかいなの!」
ベヒーモスの素材を手にすることになったきっかけである師匠に感謝しつつも、金に頓着が薄いハルは中身を確認せずにカバンにしまい、ルナリアとエミリもそのことを別段気にする様子はなかった。
それを見たチェイサーは一瞬あっけにとられてしまうが、こういう人たちなんだと納得して薄く笑った。
「それじゃあチェイサー、色々と世話になった。ギルマスさんにもよろしく言っておいてくれ」
「失礼します」
「うん、行こーなの!」
ハルたち三人があっさりと別れを告げて出て行くのを見て、チェイサーは思わず呼び止めようと手を伸ばしたが、思い改めすぐに手を下ろした。
「こちらこそ、なかなか得難い経験をさせてもらいました。また、この街にお立ち寄りの際にはお声がけ下さい。特に用事がなくても、みなさんなら歓迎させてもらいます」
ハルたちには目的があり、この街への滞在を望むことはその目的までの道のりを妨げることになる。そう考えたチェイサーが発した言葉は、彼らを気持ちよく送り出すものだった。
「あぁ、近くに来た時には立ち寄らせてもらうよ」
「ありがとうございました」
「チェイサー、バイバイなの」
三人はチェイサーに別れを告げると、ギルドから出て行った。
「――とんでもない方たちとお知り合いになれたな……。みなさんの行く末に幸あらんことを」
思わず笑顔がこぼれたチェイサーは祈るように彼らを扉ごしに見送った。
「さぁ、これでやっとエミリを目的の場所に連れていってやれるな」
「うん!」
「中央大森林目指して出発ですね。まずは北の山を越えて、そこから北西ですかね」
ハルが話しかけると笑顔でエミリは頷く。その反対側に立つルナリアがルートのおさらいをする。
「そうだな、まずは防寒具と食料を買いそろえよう」
「はい!」
「りょーかいなの!」
寒さが厳しくなる北の山越えには、入念な準備が必要となる。そこで手を抜かないのがハルをここまで戦い抜かせた要因であった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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