第百二十八話
全てのオークションが終わって、支払いを終えたハルたちはオークション会場をあとにして馬車で街へと戻っていく。
「――ルナリア、エミリ、気づいているか?」
馬車で戻る道すがら、ハルは視線を動かさずに小さな声で二人に質問する。
ルナリアとエミリはその問いに無言で頷く。
そんなルナリアの手にはルナティックケーンが握られており、エミリはエルフェニウムプレートを身に着けていた。
御者をしているチェイサーはそんなやりとりがあることも知らずに、操縦に集中している。
ハルたちの馬車から少し離れたところを数台の馬車がつけてきている。
一定の距離を保っており、ハルたちがゆっくりになるとあちらも速度を落とす。
「狙いは落札したものでしょうか?」
「恐らくはな、それも俺が狙ってた腕輪以外だろ。俺のは競争相手がいなかったが、二人の落札品は競争相手がいた。そのどちらかだと思う」
ハルの言葉を聞いて、真剣な表情でルナリアは杖を強く握り、硬い表情をしたエミリは胸元で小さく拳を作っていた。
「どうします?」
魔法で攻撃するか、馬車を停めて戦うか、急がせて逃げるか。
どの選択肢を選んでも対応できるようにルナリアは頭の中でパターンを思い浮かべていく。
「そろそろ相手が動くから、先に手を出させよう」
すると、ハルがそう告げると同時に、ちょうどタイミングを計ったかのように馬車が急停車する。
「す、すいません! 急に馬車が!」
驚きながらもチェイサーはまず最初にハルたちへの謝罪を口にする。
ひと気がなくなったあたりで、相手が仕掛けてきたための急停車だった。
「あぁ、わかってる。チェイサーは馬車にいてくれ。俺たちが話をつける」
準備をしていたハルたちはすぐに馬車を降りて、後方から追って来ていた馬車と対峙する。
示し合わせていたのであろう、後方の馬車も既にハルたちの馬車に追いついていた。
馬に乗った数人の護衛とともに、貴族らしい風貌の男性がハルたちのもとへと近づいてくる。
「ふんっ、観念して降りて来たみたいだな。殊勝なことだ」
偉そうにふんぞり返った男は鼻で笑いながらハルたちを睨みつけている。
「あんた、会場で見かけたな」
ハルは自分たちと競い合った相手と、その周囲にいた人物を確認していた。そのため、相手の顔も覚えていた。
その中の一人であるとハッキリと思い出す。
「よく覚えていたな。あぁ、そうだ。私はお前たちとその胸当てを競ったものだ」
「あぁ、その下品な顔はそうそう忘れられないからな」
「……なっ! 貴様!」
しれっと真顔で言うハルに対して、男は顔を真っ赤にして苛立ちを募らせる。
「旦那様、落ち着いて下さい。あれはあの男の手です」
ハルはそんなつもりはなく思ったことを口にしただけだったが、男のすぐそばに控えていたエルフが落ち着いた声で助言をする。
「むむっ、そんなことを! 油断ならないやつだ……まあいい、そんなことよりも要求を言おう。その娘が身に着けている胸当てを私に寄越せ」
男の言葉を聞いたハルはこめかみがピクリと動く。
ルナリアはエミリをかばうように後ろに隠し、エミリは自分の胸当てにきゅっと手をあてている。
「あんたはその身なりや連れているやつらを見る限り、どこぞかの貴族なんだろ?」
「うむ、お前が言う通り私は貴族だ。貴様のような冒険者風情とは生まれからして違う。わかったのなら早くその胸当てを渡すのだ!」
ハルの質問に、指先で襟元を正しながら正直に答える貴族の男。
「やっぱりな。悪いがこれは俺たちが落札したものだ。そもそもあんたは貴族なのに、その冒険者風情に競り負けたのが悪いんじゃないのか? 貴族っていうのは、冒険者よりも金を持っていないのか?」
「ぐ、ぐむむむ、ああ言えばこう言う。生意気な小僧だ! ――お前ら、やってしまえ!」
ハルの言い分は思い当たる節があるのか、悔しそうに身体を震わせた貴族の男はとにもかくにもエミリが身に着けているエルフェニウムプレートを手に入れたいようで、その障害となるハルたちは邪魔もの以外のなんでもなかった。
「――二人とも下がっていてなの……」
そのとき、そう言って前に出てきたのはエミリだった。
彼女は一歩二歩と進み、貴族の男の手下に近づいていく。
「エミリさん!」
ルナリアが名前を呼んで手を伸ばし、追いかけようとするが、ハルがそれを腕を伸ばして止める。
「……エミリに任せよう」
自分のことのためにハルたちに迷惑をかけている。それが彼女の認識であり、今回の貴族たちの件も彼女が原因であると考えていた。
ハルは彼女の気持ちを理解しており、それらを自分自身の手で解決させることで一歩前に進めるのではないかと考えていた。
「おぉ? 自ら胸当てを差し出そうというのか? なかなか殊勝ではないか。ほれ、何をしてるその娘から受け取らんか!」
にやりと笑いながらエミリを見ながら部下を叱責する貴族の男。
慌てて一人の男がエミリにかけよる。
その次の瞬間、声もなく男は崩れ落ちた。
「……なっ!? 何が起こったというのだ!?」
状況を理解できない貴族の男は、ぎょっとした表情でただただ困惑している。
その間にも淡々と前へ進むエミリは別の男に近づき、拳を放つ。
「ぐはっ!」
今度は声が聞こえたが、一撃で意識を失っている。
「次……」
ボソリと呟いたエミリの言葉の意味を理解しかねる男たち。
「次、かかってきて。私に倒されたい人……かかってきなさい、なの」
抑揚のない言葉だが、すっと前に向けられた眼の奥には怒りの炎が燃えている。
完全に場を支配したエミリに太刀打ちできるものはおらず、わずか数分のうちにほとんどの部下が倒され、残ったのは貴族の男とエルフの男だけだった。
「残ったのはあなたたち二人、どうする?」
まだ戦うつもりがあるのか? そうエミリは尋ねる。普段は天使を思わせるほどの可愛らしい彼女だからこそこの表情は気迫あるものだ。
「まさか、同族にここまで近接戦闘に長けた人がいるとは思いませんでしたよ。ふう……うまくすれば、この男に胸当てを落札させられると思ったのですが、期待外れでしたね」
やれやれと肩を竦めたエルフの男は先ほどまでは貴族の男に仕える者という立場だったが、態度を一変させる。
「な、何を言っておる! 早く得意の魔法であやつらを倒すのだ!」
「ふふっ、これまでお世話になりました。私はこれで失礼させて頂きますよ」
貴族の男を見下してそう言うと、エルフの男は視線をハルたちへと移す。
「今回は私の負けです。ですが、顔は覚えました。次は私が勝たせてもらいます」
意味ありげに微笑んだエルフの男はそう言ってマントを翻すと、一瞬のうちに姿を消した。
「――なんだか、面倒なやつに目をつけられたもんだな」
ハルは頭を掻きながらそう呟いた。
そんなやりとりの間に貴族の男は地面を這うようにして逃げていった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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