第百二十七話
「それでは次のオークションに移ります。次は銀の胸当てになります。ごらんください、特徴的な意匠が施されているものです。出所の確認はとれておりませんが、アンティークの類であると思われます。これほどに見事な装備はよそではなかなか見られないのではないでしょうか?」
具体的な情報がないなかで、より魅力的に見せるために言葉を選んだ司会の説明。
やや苦しさはあるもののライトアップされた下で輝く胸当ては見た目だけでも、入札の価値があるものだとわかる。
その輝きは一般的な銀のものとは明らかに異なり、特別な金属が使われているということが誰の目にも明らかだった。
入札の札が次々に上がっていくが、ある程度入札があるのは予想済みであるため、ハルもチェイサーも焦らずに落ち着いて成り行きを見守っている。
その隣で、ルナリアとエミリは表情だけはなるべく変化させずにいる。しかし、握る手の力は強くなっていた。
吊り上がっていく値段とともに徐々に入札人数が減っていき、残り数組となったところで本腰を上げてチェイサーが参戦する。
オークションは札を上げると、番号と価格が読み上げられる。
価格は申告がない限りは一定金額ずつ、アップされていく仕組みだ。
「三十万」
そこで、相手が一気に価格を吊り上げる。
三十万という価格が大金であるということがわかっているため、エミリの表情が少し曇る。
自分が欲しいものに、他の人がそんな大金を入札してしまった。きっと、もう手に入ることはない――そんな思いが胸の中を支配する。
しかし、ハルがその方に手を置いて優しい笑顔を見せる。
「――四十万」
そう凛とした声で札をあげたのはチェイサーだった。ここで一気に金額があがったため、会場がざわついた。
「四十五万」
今度は相手が競ってくる。相手もまだ余裕があるようだ。
「五十五万」
しかし、チェイサーは強気の入札で十万上乗せする。
その表情は勝ち誇ったものでも、相手を煽るものでもなく、努めて冷静な表情でいる。
感情を相手に悟らせないことで、焦燥感を与えている。
「くっ、五十八万……!」
一気に上がっていく値段に負けたくないと焦りと苦しさを見せる競争相手。
「六十八万」
それに対して、チェイサーは淡々と相手よりも十万上の価格を提示していく。
「うぅ、七十……万」
なんとか二万上の金額を提示する相手。その表情と声と金額から、限界が近づいていることを感じとる。
「八十万」
そこへ更に十万上乗せ。しかし、それを提示したのはチェイサーではなく、別の人物だった。
ここにきて新たに参戦してきた代理人。その隣には美しい銀髪をたなびかせたエルフの姿があった。
チェイサーの入札タイミングを奪い取り、ドヤ顔を見せる代理人。
「なるほど……知っているやつが他にもいたのか。チェイサー、気にするな。やれ」
ハルの言葉にチェイサーは静かにこくりと頷く。
「はちじゅうに……」
最初の競争相手がなんとか、二万の上乗せを絞り出そうと、震える手で札を上げながらかすれた声を出す。
「――百万」
それにかぶせるかのようにチェイサーが口にしたのは、二十万の上乗せだった。
これには会場がどよめく。
二万単位、十万単位での上乗せの中、一気に二十万上乗せした強気なチェイサー。
しかし、その表情は相変わらず冷静なままである。
「……百十万」
エルフ側の代理人も負けずに冷静に競争を続ける。
だが、ここでチェイサーが強気の一手を出す。
「百五十万」
これには会場の他の面々だけでなく、競争相手、更にはハルとルナリアとエミリの三人も思わずチェイサーの顔を見てしまう。
「ひゃ、ひゃくろくじゅう……」
動揺しながらも十万の上乗せをするエルフ側の代理人。
「百八十万」
だがチェイサーはそれを許さないと言わんばかりに容赦なく即座に二十万の上乗せをする。
ここまでくると、品物がなんであるかではなく二組の競争がどこまで続くが会場の興味の対象になる。
「ひゃくきゅうじゅ……」
「二百万」
相手が提示しようとすると、それを上回る金額をチェイサーが出す。
「にひゃくじゅ……」
「二百五十万」
再び十万刻みであげようとする相手に対して、チェイサーは一気に五十万の上乗せをした。
これでもまだまだ余裕のあるチェイサーは涼しい表情で相手の出方を伺いつつ、いつでも札をあげられる準備をしていた。
「二百五十万、二百五十、他はないですか? いいですか? ――はい、それでは銀の胸当て、落札となります!」
「おおおおおおおぉ!!」
三組による競争、価格の大幅な吊り上げ競争、そして勝利したチェイサーの圧倒的な冷静さに会場が盛り上がりを見せる。
「……ふう、なんとか勝てました。申し訳ありません、少々資金を多く使ってしまいました……」
何がなんでも競り落とせと命を受けていたチェイサーだったが、相手を封殺するために大きな金額を投じてしまった。
すっと姿勢を正して座り直しながらも、熱くなってしまったそのことをハルに謝罪する。
「いやいや、いいんだ。アレで正解だ。もしチマチマあげていたら、相手も競ってきて無駄にもっと高騰していたと思う」
チェイサーはもし二百五十万でだめだったら、次は三百万と提示するつもりではいた。
相手からすれば一気にあれだけの金額を提示しても、まだ余裕の見られるチェイサーは脅威に映っていた。
これ以上の入札を提示しても、また上乗せされるのだろうと思わせることが大事である。
そのために圧倒的な戦力(金)見せつけることでプレッシャーを与えていた。
「う、うぅぅううぅ……ごめんなさいなの……」
ぎゅっと拳を握って震えるエミリは今にも泣き出しそうな表情で頭を下げている。
「ど、どうしたんだ?」
その理由がわからないためハルは動揺している。
落札できたのだから、満面の笑みがみられると思っていたため、この反応は予想外だった。
「だ、だっで、ぐすん……すごく、お金、いっばい……」
自分が欲しいと言ったがために、ハルに多額の金を投じさせてしまったことに責任を感じてしまったがゆえの涙だった。
「あぁ、そうか。うん、いいんだよ。金のことは使い道がないくらいには手に入ったから気にしなくていいんだ。でも、それが気になるなら今は泣いていい、ほら」
エミリの気持ちに胸がほっこりとしたハルは笑顔で優しく声をかけ、大粒の涙をこぼしながら泣いているエミリのことをルナリアがふわりと抱きしめていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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