第百二十話
三人はギルドマスターの部屋を出て、下の階に下りていくとそこにはチェイサーの姿があった。
「ハルさん、ルナリアさん、お疲れ様です。えっと、そちらのお嬢さんは……?」
チェイサーは二人だけだと思っていたが、傍らにエルフの少女がいることに首を傾げていた。
「あぁ、二人は初めてだったな。紹介しよう。この子はエミリ、俺たちの新しい仲間だ。――エミリ、こっちは俺たちが取ってきた素材の販売を代わってくれているチェイサーだ」
詳しく言うと販売ではなくオークションだったが、代行していることには変わらないため、ハルはこの説明で終える。
「チェイサー、よろしくなの。私の名前はエミリ」
一歩前に出て頭を下げるエミリ。慣れているハルたちに見せる表情とは違う少し硬い顔をしていた。
少しそっけない口調だったが、可愛らしい見た目であるため、それが気になることもなかった。
「はい、よろしくお願いします。私はチェイサーと言います。このギルドの職員です」
反対に幼いエミリに対しても敬語を使うチェイサー、と対照的だが互いに第一印象は良いものだった。
「それで、ここにいるってことは俺たちを待っていたのか?」
何か用事をしていたようには見えず、部屋から出てくるのを待っているという様子だったため、なんの用事があるのか確認する。
「あぁ、そうでした。用事というのは……いえ、ここではなんですのであちらの部屋に行きましょう」
オークションの内容をここで口外するのは良くないと判断したチェイサーは声を少し抑えつつ、三人を空いている部屋へと案内する。
「ここなら大丈夫だと思います。お話というのは、オークションのことです。思っていたよりも手続きがスムーズに進みまして、既に会場のほうには展示してあるのですが、興味を持った方が何人かいらっしゃるようです」
この情報はハルたちにとって、良い情報だった。
「悪いほうは?」
好調であるために、ハルはこんな質問を思わずしてしまう。
「え? い、いえいえ、悪い話はありません。それよりも、オークションの会場をご覧になりませんか? ハルさんたちの品物がどのように並べられているか。それに、他にもたくさんの方が出品されていますので、そちらを見るのも楽しいと思われますよ」
その提案に耳がピクリと動いたのはエミリだった。オークションという聞きなれない単語に興味津々の様子だ。
「あぁ、それはいいかもしれないな。俺たちが欲しいと思うような物もあるかもしれない」
「えぇ、そうですね。是非行ってみましょう」
ハルが答え、嬉しそうに手を合わせたルナリアが賛同する。
二人の視線は揃ってエミリに向いており、彼女が興味を持ったことをさせてあげたいと思っていた。
「……行くの!?」
ハルたちの言葉に目を輝かせながら確認するエミリ。
その質問にハルもルナリアも笑顔で頷いていた。
「やった! 楽しみ! チェイサー、会場はどこにあるの? すぐいけるの? 私も入れるの?」
「え、えっと、その……」
食い気味にエミリが次々に質問を投げかけるため、チェイサーは思わず数歩後ずさってしまう。
詰め寄るエミリの襟首をハルがつかむ。きゅっと詰まった感覚にエミリはハルの方へ顔を向ける。
「エミリ、そんなに質問責めにしたら答えられるものも答えられないだろ? 会場には一緒に行くから、一旦落ち着け」
「うぅ、ごめんなさいなの……チェイサーもごめんなさい」
ぽんと頭を撫でられながらハルの指摘を受けて、自分が悪いと判断したエミリは素直に頭を下げて謝罪をする。
「いえいえ、構いませんよ。すみません、私も少し驚いてしまったのでうまく答えられませんでした」
謝罪を受け入れたチェイサーは、自らにも否があると柔らかな笑みで謝罪をした。
「ごほん、それでは改めてお話しますね。会場のある場所は、町はずれにありますのでご案内します。出発はいつでも構いません、私も時間が空いていますので今からをご希望であれば今からでも大丈夫です。それと、私が出品代行を行っていますので、最大四名まで同行者を連れて入場できます。つまり……」
咳払いをして説明をしていたチェイサーはそこで言葉をきり、笑顔でエミリに話を振る。
「一人、二人、三人! うん、大丈夫なの!」
ハッとしたようにひとりひとり見ながら人数を数えたエミリは満面の笑みでチェイサーに人数を報告する。
「はい、大丈夫です。――というわけですが、いかがしましょうか?」
チェイサーはエミリに頷いて返すと、ハルに今後の動向を質問する。
「俺たちも大丈夫だ。チェイサーが大丈夫なら、案内してくれ」
「承知しました。少々お待ち下さい」
ハルならそう答えるだろうと予想していたチェイサーは、笑顔で部屋を出て別の職員に自分の行き先を伝え、戻ってくる。
「お待たせしました。出発しましょう。裏手に馬車がありますので、そちらへどうぞ」
チェイサーはすぐに動けるように馬車の手配も済ませており、このあたりからできる男であることがわかる。
「楽しみなの!」
ワクワクした様子で、足取りも軽やかなエミリ。
そんな彼女を微笑ましく見守りながらハルとルナリアも馬車に乗り込んでいく。
時間にして十分程度で会場に到着する。
チェイサーの説明の通り、街のはずれにある会場だったが、周囲には多くの馬車や人の姿があった。
馬車を降りると、ハルたちのほかにも貴族などのお金持ちから商人風、魔法使いのような恰好をした者、人目を避けるように顔を隠している者までいろんな人がここへ集まっているようだった。
「これがオークション会場か……思っていたよりデカいな」
ハルが予想していたのは少し大きな建物レベルだったが、目の前にある会場はお屋敷という言葉が適切なサイズだった。
エミリは興奮といろんな人がいる緊張からか、ルナリアの側にぴったりとくっついている。
「ふふっ、驚きのようですね。元々は小規模で行われていたのですが、貴族や商人などの出資者が増えたため、今ではこのような建物で行われるようになったのです。噂では王族も関わっているという話も……――おっと、この話はこのへんにしましょう。あちらが入り口です」
チェイサーの先導でハルたちはオークション会場となるお屋敷へと進む。
入り口で身分証とオークションの参加証を呈示して、入場許可証を全員がもらって中へと入っていく。
専用のピンバッチにも似たそれを服の胸のあたりにつけておくことで、止められることなく建物内をほぼ自由に移動ができるのだ。
「っ……すごーいっ!」
一歩踏み入れたところで目に飛び込んできたオークション会場の様子にエミリはキラキラと目を輝かせながら、キョロキョロを周囲を見渡していた。
*****************
名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
*****************
*****************
名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
*****************
*****************
名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
*****************
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




