第百十八話
エミリが泣き止んだのはそれから一時間ほど経過したころだった。
「ううううぅ……」
先ほどまで泣きじゃくっていたエミリは、いま内心とても恥ずかしく思っているようで、両手で顔を隠してうずくまっていた。
「うふふ、いいんですよ。気持ちわかります」
彼女が何を思っているのか理解できるルナリアは、聖母のような笑顔でエミリの背中をさすっていた。
「あぁ、俺もルナリアも同じだったからな。――それよりもエミリ、かなり強いな」
表情をやわらげたハルはエミリの頭を撫でて、彼女の力を認める言葉をかける。
「う、うん、ありがとう。でも、なんか嬉しいの。自分の力で戦えるんだって初めて知ったの……ずっとギフトがあるのはわかっていたのに、何もできなかったから……」
いろんな熱い感情が胸にこみ上げているような表情のエミリは、自分の手を握ったり開いたりする。
今でも自分の力が本当に使えることが不思議な様子である。
「エミリ、もうエミリにかかっていた呪いは消え去った。だから大丈夫だ。君の力は、全て君のものになっている」
すっと膝をついたハルは目線をエミリに合わせて、静かに、優しい声色で声をかける。
背中に感じるルナリアの体温、そして優しい表情で語りかけるハル。
じんわりとしみわたるような二人の優しさにエミリの気持ちも落ち着いていく。
「うん……二人ともありがとう。ルナリア、もう大丈夫」
「ふふ、エミリさん、いい表情ですね」
ルナリアもハルの隣に移動し、エミリの手を握りながら微笑んだ。
「うん――うん! もう大丈夫! 元気なの! 改めて二人ともありがとうございます。身寄りもないわたしと一緒にいてくれて、わたしが力を使えるようにしてくれて……それに今も呆れずに、怒らずに一緒にいてくれてありがとう」
落ち着いたエミリは、はじけるような笑顔でそう言った。
彼女のその表情を見てハルとルナリアも優しく微笑んだ。
「さて、それじゃあ街に戻るか。オークションの結果も気になるし、エミリの装備も用意しないとだな」
ハルはエミリの頭を軽くポンっと叩くと立ち上がり、街へと向かう。
「私も!」
「わたしも行く!」
先行するハルのあとを手を上げた二人が追いかけていく。
来た時と同じ数十分で一行は街に到着する。
「さて、それじゃあまずは武器屋に行こうか」
ハルの問いかけにルナリアとエミリは頷く。
そのまましばらく通りを歩いていると、一軒の武器屋が見つかる。
店のサイズは大きく、外から見ても様々な種類の武器が並んでいるのが見える。
「とりあえずここに入ってみるか」
店の中に入ると、大きめの灯りの魔道具が天井に設置してあり、店内は見やすい明るさに設定されている。
「これはすごいな」
見やすいだけでなく、並んでいる武器も一線級のものだった。
剣も槍も斧も弓も籠手もありとあらゆる武器がそろっている。
「えっと……わたしが装備するとしたら……」
キョロキョロと店内を見渡すエミリ。
しかし、身長が高くない彼女はどこに何があるか全てを見ることはできないため、困ったような表情でウロウロと歩き始める。
「エミリ、こっちだ」
それを察したハルがエミリの戦闘スタイルにふさわしい装備の場所へと先導し、案内する。
「ふわあ、こんな武器もあるんだあ」
そこに並んでいるのはナックルと呼ばれる拳に装着する武器だった。
籠手の一種のようなものであり、拳の部分が傷つかないように負担を減らす造りになっている。
その表面には強固な金属がついており、これで殴ることで、強力なダメージを与えることができる。
剣や槍などを使う冒険者は多い。そういったギフトを持っている者も少なくない。
しかし、ナックルに適性のあるギフトを持っている者は少ない。
「お客さん、そちらの武器に興味をお持ちですか?」
ゆえにそれが気になった店員が声をかけてくる。恰幅が良く、いかにも商人といった様相の男性だ。
「あぁ、この子が装備する武器を探していてね」
すると、男性の目がキラリと光った。すぐさま彼の頭の中で店の商品たちの検索がかかっているように見える。
「なるほどなるほど、それならばこちらなどはいかがでしょうか?」
さほど時間がかからずに店員が出してきたのは、拳の部分に緑色の金属がついているものだった。
「ほう……なんでこれを?」
ただ高い物を勧められてはかなわないとハルが理由を問う。
「そちらのお嬢さんは拳を使って戦うのに向いているようですが、魔力も秘めていらっしゃる様子。こちらの武器は魔力を流しこむことで本来の力を発揮することができるのですよ。魔力を込めて、インパクトの瞬間にそれを発動することで強力なダメージを与えることができます」
それを聞いてハルはナックルを鑑定する。
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種別:ナックル
名称:魔導拳(鳳凰)
説明:魔力との親和性の高い金属が拳部分に埋め込まれた武器。
魔力を流すと金属の色が緑から赤へと変化する。流し込んだ魔力を発動することで、大きな爆発を生む。
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「確かに……これは良さそうだな。エミリ、ちょっと着けてみてくれ。いいよな?」
「もちろんです、お嬢さん着けてみて下さい」
「う、うん」
ハルと店員に言われて、エミリは魔導拳(鳳凰)を受け取って装備してみる。
装着者の身体にフィットするように自動補正加工がなされているため、小柄のエミリの手にピッタリのサイズになる。
「試してみるの」
店の中でも少し開けた場所に移動して、エミリは軽く拳を打ち出してみる。
一発、二発、三発……合計十発の拳を繰り出したところで、拳を止める。
次にナックルに意識を集中させて魔力を流していく。
すると、ハルの鑑定の結果のとおり、金属部分が緑から赤色へと変化していく。
もちろん魔力を発動はさせないが、そのままの状態で拳を打ち出す。
「ふっ! ふっ!」
数発打ち出したところで、流していた魔力を止める。
「ふう、これ……すごいね! そんなに重くないし、魔力を流すと重さも感じなくなるよ!」
さきほどまでの真剣な表情から一変、エミリは興奮してハルのもとへ駆けつけ、はしゃぐように喜んでいる。
その様子を見たハルの結論は早い。
「――買う。いくらだ?」
即答したハルに店員もエミリも驚いている。
ルナリアはハルの判断がそうであると予想をしており、ニコニコと見守っている。
「え、ええっと、こちらになります……」
一瞬驚き固まった店員は慌てたようにナックルが置かれていた場所にある値札をハルに見せる。
ためらうことなくハルはカバンから金を取り出して全額一括で支払う。
この一連の動きの早さに、店員もエミリも呆然と口を開けたまま見ていた。
エミリの武器は決して安いとはいえない。
しかし、全く迷いなく支払ったハルの器の大きさを理解しているのはルナリアだけだった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:エミリ
性別:女
レベル:-
ギフト:体術2、格闘術2、魔闘術1、先読みの魔眼
加護:武神ガイン
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