第百十四話
オーガキングの拳が少女、そして彼女をかばうルナリアに振り下ろされ、大きな音と共に土煙が上がっている。
「おうおう、おっかねーな。あんなの喰らったんじゃガキも女もぺしゃんこに……」
オーガキングの容赦ない一撃にニタニタと笑っていた頭目は、弱く吹く風によって徐々に煙が晴れていき、一撃がもたらした結果を見て、その表情を一変させる。
「さすがにこいつは痛いな……」
「っな、なんだと!?」
そこには驚き固まる少女を抱きしめたルナリアを庇うように立つハルの姿があった。
皮膚硬化、骨強化、竜鱗、鉄壁の四つの肉体硬化スキルを使用してオーガキングの一撃を受け止めたハル。
彼が間に入りこんだため、ルナリアも少女もダメージを受けることはなかった。
「ルナリアに攻撃するのはまだわかる。彼女も冒険者だからな……かといって、攻撃を許すわけじゃないけど。それはそれとして、罪も戦う力もない少女を攻撃するっていうのは人道に反するんじゃないのか?」
ゆらりと怒りのオーラを纏ったハルは、睨み付けながらも冷静な口調でオーガキングに向かって人の道を説く。
「て、てめえ、どうやってあの距離を一瞬で移動しやがった!?」
想像していた結果とは違う現実に動揺しきっている頭目が叫ぶように質問をするが、ハルは睨み返すだけで答えることはない。
実際にのところは、甲羅の盾を出現させそれを足場として、更に爆発魔法による爆風+跳躍で移動している。
しかし、それを語るつもりはなかった。
「さて、こいつが強いのはわかった。だが、これ以上戦いを長引かせるのはよくないみたいだから、全力でいかせてもらう」
「ガ、ガウ……」
みずからの渾身の一撃を離れた場所にいたはずの男に止められた。
しかも、その男は怪我を負うこともなくピンピンしている。
そのことは、オーガキングに動揺を抱かせた。
ハルから感じられる得体の知れない強さを感じ取ったオーガキングは先ほどまでの余裕を失い、怯えから数歩後ろに下がってしまう。
「ビックリしているみたいだが、俺の仲間と子どもを攻撃しようとしたのは悪手だ――完全に俺を敵に回したな」
静かな口調ながらしっかりと怒りを称えた眼差しのハルは、炎鎧で自らの身体に炎を纏っていく。
うねるように一気に燃え上がった炎は彼の怒りそのもののようだ。
「ひ、ひぃ、な、なんだあれは!?」
見たことのない能力を目の当たりにした頭目は酷く驚き、周囲にいる手下も驚愕している。
何より、対峙しているオーガキングはこれまで何度も頭目の命で人と戦ってきたが、その誰もが持ち合わせない能力を使うハルという謎の人間に困惑している。
――その技はまるで魔物のようではないか、と。
「悪いが、ここからは一方的になるぞ?」
うねるように燃え上がったハルの身体の炎は徐々に剣に集約されていき、ついには全ての炎が消える。
それは嵐の前の静けさのようで、オーガキングはじわりと焦りを感じた。
「何がなんだかわからないだろ? だけど、すぐにわかるぞ!」
真剣な表情で走り出したハルは剣を振りかぶり、思い切り振り下ろす。
先ほどまでハルの攻撃はオーガキングの拳によって防がれている。
ならばと、オーガキングは同じようにハルの剣を思い切り殴りつける。
しかし、結果は先ほどまでと打って変わったものとなる。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
ハルの剣はオーガキングの拳を、そしてそのまま腕を真っ二つに切り裂いた。
たちまち襲いくる痛みに我慢できずに大声をあげ、そのままのけ反るオーガキング。
オーガキングとて斬られたことのないわけではない。
だがこれまで体験したどの剣戟よりも痛みは激烈、予想外の反撃、理解できない状況。
それらはオーガキングに後退という選択肢をとらせようとする。
「“アイスアロー”!」
しかし、それはルナリアの氷魔法によって止められることとなる。
ルナリアが狙ったのは足元。
彼女もこの村を襲われて怒りを抱いていた一人。
いつも以上に魔力が集中された魔法は、オーガキングの足を貫き、更に足を凍結させてその場に張り付ける。
「グガガア!?」
動こうと持ち上げた足に痛みが走り、次の瞬間には両足共に動けなくなっている。
その状況は困惑以外の何物でない。ただその場でじたばたともがくしかできないでいた。
「“アイスアロー”!」
更に、ルナリアは右手から魔法を連発していく。左手では少女をしっかりと抱きかかえていた。
足を止め、腕を凍らせ、ほとんどの動きを止めた頃にはオーガキングから戦う意思を奪っていた。
「さすがだな。あとは俺がとどめを……――せい!」
ハルが炎を込めた剣で頭をバッサリと真っ二つにすると、オーガキングはピクリとも動かなくなった。
「ふう、これで奥の手は終わりか?」
剣についたオーガキングの血を振り払ったのちに振り返ったハルが頭目に剣の先を向ける。
「――ひっ……く、くそ! お、お前たちやっちまえ!」
これまでオーガキングを出して負けたことのない頭目が慌てて部下に命令をする。
だが、部下たちも先ほどの一方的にオーガキングがやられたシーンを見てしまっては、おいそれと動くこともできずにいる。
「な、なにしてやがる! 冒険者二人に俺たちがやられていいのか! 早く、あいつらを殺せ!」
このまま撤退することは頭目のプライドに反するのか、それでも部下たちに激を飛ばしてハルたちを襲うように言う。
「……誰を、殺すって?」
地を這うような低い声で睨み付けたハルが剣を振うと閉じ込めていた炎の一部がチリチリと舞う。
「ひ、ひい! に、逃げろ!」
すっかりハルの威圧にひるんだ部下たちは一目散に逃げていく。
自分を置いて逃げ出した部下たちに苛立ちを抱きながらも頭目もそれにひかれて、逃げようという言葉が頭の中をちらつく。
「――“アイスアロー”」
しかし、そう思った瞬間には馬の足を凍らされて逃亡手段を失ってしまう。
「く、くそ!」
先ほどやられたオーガキングの末路が頭目の脳裏をよぎる。
じりじりと感じる嫌な予感に悪態をついて、ハルたちを怒鳴り散らそうとする。
「うるさい」
しかし、次の言葉は口にできなかった。ハルは剣の柄で頭目の頭を殴り、その場に気絶させたからだった。
「がふっ……」
そして、手と足をルナリアの土魔法で拘束すると、二人は少女のそばへといく。
「もう大丈夫だぞ」
「トップの方を拘束したので、あとは救援を待つとしましょう」
少女と視線を合わせるようにひざをついたハルは笑顔で優しく声をかけ、ルナリアは聖母のような微笑みを浮かべながら少女の隣に寄り添った。
少女はみるみるうちにその大きな瞳に涙を浮かべるが、それは先ほどまでの恐怖に染まったものではなかった。
「じゃあルナリア、その子のことは頼む。俺は水魔法を使って消火活動と、生存者がいないか見てくる。――そのお姉ちゃんと一緒にいてくれるな?」
ぽんと優しく肩をたたいたハルが声をかけると、少女は涙目のまま無言でこくんと頷いた。
その手は、ルナリアの服をぎゅっと掴んだままだが、少女の表情は安堵に包まれている。
それから街の冒険者たちがこの村に増援としてやってくるのは、数時間後のことであった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁2、剛腕1、統率1
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化3、自己再生
火魔法4、爆発魔法3、水魔法3、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術5、斧術3、槍術1、弓術1、短剣1
開錠1、盗み1、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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