第百十話
「これなら、最大級の査定結果を下せると思います……ちなみに、他にも何か素材をお持ちですか?」
角を一本だけしか出していない二人。
しかし、ベヒーモスともなれば相当な巨体であり、かなりの素材が採れる。
「なるほど、そこまで予想済みか。だったら、これもお願いしよう」
そう言ったハルが提出したのは、もう一本の角だった。
ルナリアは表情には出していないが、魔核は出さないのかな? と内心で思いながらハルの動向を伺っていた。
「ふむ、こちらも角ですか……良い状態ですね。こちらも良い査定結果となります。ですが他にも何かありますよね?」
チェイサーは何か確信しているかのような口調でハルを見てニヤリと笑う。
「――ふう、降参。正解、その通り。とっておきのものがある」
そう言いながらごそごそとカバンを漁って、ベヒーモスの魔核を取り出す。
「こ、これは……」
さすがのチェイサーも言葉に詰まる。
ベヒーモスなどの高ランクの魔物の核が持ち込まれることは稀である。
最大の理由として、高ランクの魔物を確実に倒すとなると弱点を狙うのが手っ取り早い。
つまり、魔核の破壊が討滅方法としては一番多いのだ。
破壊、もしくは傷がついた魔核は品質が低く、高値をつけることができない。
しかし、ハルが取り出したベヒーモスの魔核は巨大で、光り輝いており、傷の一つも見当たらなかった。
そしてマジックバックに入れていたこともあり、品質も保たれている。
「……そ、その、なんでこんなものを?」
チェイサーから見ても、二人が圧倒的な力でベヒーモスを倒せるようには見えなかった。
多くの冒険者を見てきたチェイサーは自分の目は鑑定に限らず、人を見る目もある。
目の前の二人は、見た目以上の強さを持っているのはわかる。
だが、それがベヒーモスを倒すほどのものかというと足りないのもわかっていた。
「失礼なことを言ってるわけじゃなく、本当に実力をわかったうえで言ってるみたいだ……別に隠し立てしていることじゃないから説明できるけど」
ハルはベヒーモスが表れた時のこと、ハルたちが三人で戦ったこと、最後には強力な冒険者が表れてベヒーモスにとどめをさしたことを話す。
「は、はは、そ、そんなことが……その倒した方がものすごいのは当然のことなんですが、あなた方もベヒーモスとまともに渡り合ったとは……私の見る目もまだまだです」
さすがにベヒーモスの攻撃を受け止め、ダメージを与えるほどの強さを持っているとは思わなかったためチェイサーは二人の評価を改めることにする。
一度深く頭を下げたあとのハルたちを見る目はそれまでとは違った。
「まあ、そういうわけでたまたま俺たちがこれらを受け取ることになったというわけなんだ。それで、評価をしてもらいたいんだけど?」
ハルが魔核を指さすと、チェイサーは自分が何のためにここにいるのか思い出して、魔核のチェックを再度行うことにする。
「しかし、これは見れば見るほど見事なものです。これほどのものともなると、ギルドで購入するよりも大きなオークションにかけるのも良いと思います……角もセットとなれば、相当な金額が動くことになると思いますが、いかがでしょう?」
そういわれて、ハルとルナリアは顔を見合わせる。
「どう思う?」
「うーん……ですよね」
ハルに振られたルナリアはあまりよい反応を見せない。
「ど、どういうことでしょうか?」
二人の間の反応を見て、何やらやりとりがあるのはわかったが、その真意が読めないため、チェイサーは質問を投げかける。
「金に関してはそれなりに持っているから、これを売って更に大金が入っても、なあ?」
「ですねえ、別段お金に困っているわけではありませんし、うーん……」
冒険者であれば、多くの報酬を求めるのが当然だと思っていたチェイサーは二人の反応に驚いてしまう。
彼らのそれは報酬に対してのこだわりをみせない、高ランクの冒険者のソレに近かった。
「な、なるほど……しかし、これほどの素材が埋もれてしまうのは惜しいかと……何か良い方法はないか……」
考え込むように唸るチェイサーはなんとか、この素材を世に出せないものかと思案を始める。
「――おうおう、何か面白そうなことをやってるな!」
バタンと大きな音をたてて扉が開いたと同時に、大きな声で老人が入ってくる。
老人と言っても、髪の色や顔の皺からそう推測しただけであり、筋骨隆々で迫力のある男性だった。
「っ……ギ、ギルドマスター!? なぜこのような場所に?」
チェイサーも予想していなかったようで、姿勢を正して驚いている。
「お前が冒険者を連れて中に入っていったと聞いてな。これは面白そうだと思って来てみたんだが……すげーものがあるじゃねーか!!」
ずかずかと豪快な足取りで中に入ってきたギルドマスターがベヒーモスの素材を見てニンマリと笑う。
まるで新しいおもちゃを見つけた子どものような笑顔だった。
「これは、そこに坊主と嬢ちゃんが持ってきたのか?」
「は、はい、そうなんですが、その坊主とか嬢ちゃんという言い方は……」
ギルドマスターの物言いにチェイサーがそれとなく注意を促す。
「はっはっは、確かにそうだ! 悪かったな、俺はここのギルドマスターのドラクロだ。お前たちの名前も聞かせてもらってもいいか?」
どんと胸を張り、ニヤリと笑いながら質問するドラクロ。その様子は嫌味がなく、カラッとした態度だった。
「俺はハル、Cランク冒険者だ」
「私はルナリアです。同じく、Cランク冒険者です」
ハルたちもそれがドラクロの素だと言うことは感じ取れたため、特に気にした様子もなく答える。
その返答を聞いて再びドラクロがニヤリと笑う。
「なるほどなあ、それであんたたち二人がこの素材を持ってきた、と。こいつは専門じゃない俺の目からみても相当な代物だ。どうしてCランク冒険者が? なんて野暮な質問はどうせチェイサーがしただろうから、俺の興味はこれをどうするか、につきる!」
どうしていくのか楽しみで仕方ないと言うドラクロのその言葉に、ハルもルナリアも、そしてチェイサーも考え込んでしまった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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