第百六話
「それで、具体的にどう進んでいく?」
ハルがルナリアに質問する。
この街を拠点にするのも悪くない。彼女の実家もあるから、そんな選択肢もある――そのための質問だった。
「……そうですね、まずは私の両親に報告したいと思います――これから旅に出ることを」
ルナリアは既に街を出て旅にでることを決断している。そのことにハルはピクリと眉を動かした。
「いいのか? 旅に出るとなると、次はいつ戻ってこられるかわからないんだぞ?」
せっかく家族と再会できたというのにもういいのかというハルの心配をよそに、ルナリアは満面の笑みになっていた。
「ふふっ、嬉しいです。私のことを心配してくれてるんですね。……でもいいんです。父にも母にも、今の私を見せることができました。それに、母と叔母が言ってましたが、このまま私が強くなって魔力量が多くなれば、母たちの姉のように王族などから結婚を強いられることになってしまいます――でも、そんなのは嫌なんです!」
ルナリアは、母と叔母が彼女を思いやって仕組んでくれたことを解除して自分の力を、それ以上の力を手に入れることができた。
だからこそ、母たちが危惧していたようなことには絶対にならないと決めていた。
「――わかった。俺もそうならないように協力するよ。もし、そんなやつらがやってきたら全力で迎撃することを約束する!」
勇ましい表情で力強く宣言したハルを見て、ルナリアは胸にこみ上げた気持ちから頬を赤く染めていた。
「それで、その報告と両親の説得はルナリアが頑張るとして、次の目的地はどうする?」
ハルの質問にルナリアは何か考えがあるのか真剣な表情で頷く。彼女もただ、やみくもに旅にでようと言っているわけではなかった。
「ここから西に旅をしていくと、獣人と人族が共同で統治している王都があります。そこに向かうのが良いと思われます」
ハルはそれを聞いて思いあたる都市があった。
「――人獣王都グリムハイム」
ルナリアがハルの言葉に笑顔で頷く。
「確か、何代も前の人族の英雄と、獣人の英雄が大きな武闘大会で戦って引き分けになった時に共に歩むことを決めたとかって……」
ハルがそこまで言うと、ルナリアが興奮交じりに息まきながら立ち上がる。
「そうなんです! 人族の英雄バーザス。獣人族の英雄フィリア。二人が全力で戦ったあとは、闘技場もボロボロになったそうです。そんな二人が互いに認めあい、愛し合い、結ばれ共にグリムハイムを統治していくことになるのです……」
両方の手を組んで、祈るようなポーズでどこか遠くを見ているルナリア。
彼女にとって、二人の英雄の物語は両親によく聞かせてもらったものであり、あこがれの物語であった。
「へえ、そんな話なのか。概要は聞いたことはあるけど、細かい話までは知らなかったなあ」
そんなハルの薄い反応にルナリアは鋭い視線を送る。
「ハルさん……それはもったいないです! わたしが両親から話してもらったのは、最後の戦いだけでしたが、そのあと二人の冒険譚が本になっているのを知ったんですよ! 全十巻の大作、二人がどんな過酷な戦いを乗り越えてきたのか、どんな冒険を繰り広げてきたのか――そんな熱い物語が綴られているんです! あっ、実家に戻ったらついでですし取ってきましょう。旅の道中で読んで下さい!」
「あ、あぁ」
あまりに熱のこもった様子のルナリアに気圧されたハルは、頷いて返すしか選択肢がなかった。
「……ご、ごほん。すいません、少し熱くなりました」
ハルの反応を見て、自分で興奮していたことを認識したルナリアは頬を赤らめつつ咳払いをしてから謝罪をする。
「い、いや、いいんだよ。ルナリアの熱のこもった説明を聞いて読んでみたくなったのは事実だから。それで話を戻すけど、なんでグリムハイムを目指そうと?」
ハルが話を戻すと、そうだったとルナリアも頭を切り返る。
「そうです、グリムハイムはとても大きな都市なんです。人口もこの街の何倍もいますし、街自体がほんっとうにすっごく広いんですよ!」
語彙力が奪われたかのようなルナリアの言葉だったが、それほどにグリムハイムは大きな都市だった。
人族と獣人族の英雄が結ばれてできた都市とあって彼らのカリスマ性にひかれて集まった人たちは大勢いた。彼らが子をなし、更に外からの人も増え、気づけばグリムハイムは巨大都市へと成長していったのだ。
「それほど大きな街だったら、冒険者ギルドにたくさんの依頼が舞い込んでいると思います。その依頼をこなしていけば実績を残せますし、それにあの街だったらベヒーモスの素材の買い取りもしてもらえるでしょう。なんだったら装備への加工もしてもらえるかもしれません」
多くの人が集まり、多くの職人がいて、大きな店も存在する。
そんな街であれば、装備の更なる充実や素材の買取も問題なくしてもらえるとルナリアは考えていた。
「なるほど、結構色々考えた末の結論なんだな……うん、いいと思うよ。じゃあ、まずはルナリアの家に戻ってこれからの俺たちの向かう先の説明をしないとだな。――エルステッドが納得するかどうかがカギだな」
ハルは最後の一言を冗談めかして言う。
父親というのは一人娘がかわいいものだとわかっているからこそ、やっと手元に帰ってきたルナリアをそう簡単に旅に出すのかというのが気になっていた。
「そう、ですよね。母様はきっと納得してくれると思いますが、父様が納得してくれるかどうか……ハルさんも説得に協力して下さいね!」
あこがれの物語に登場する街に行けることが決まったためか、ルナリアは真剣な表情でハルに懇願する。
「ははっ、やっぱりそこをどうするかは成り行き任せってことか。いいよ、ルナリアの問題は俺の問題でもあるから協力させてよ。今更一人で旅をするのも寂しいから、何としても説得しないと」
「は、はい、よろしくお願いしますっ」
さわやかに笑いつつのハルの言葉に、気持ちばかりが先行していたことに気づいたルナリアは再び頬を赤くしていた。
この後、二人はルナリアの実家の応接室で、報告という名の戦いを繰り広げることとなる。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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