第百五話
しばらくの間、色々な話で盛り上がっていたが、SSSランクのゼンラインは多忙であるようで、別の街に移動しなければならないため、数時間ののち、話を切り上げることにする。
「ハル、君はもともと才能がなかった。しかし、君にも何かあったんだろ? 詳しくは聞かないけどそれはわかる。――きっと君は……」
「何か?」
深い思いのこもったゼンラインの言葉の最後が聞き取れず、ハルが聞き返すが、彼は首を横に振る。
「いや、なんでもないさ。とにかく冒険者になって、活躍しているようで安心したよ。これからも冒険者としてがんばろう。俺も負けないように頑張るから」
にかっと笑ったゼンラインはそう言いながらハルの肩に手を置いて、ポンポンと二度叩く。
「……え? あぁ、ゼンラインに追いつかないといけないからな。きっと、いつか、絶対に追いついて、追い越すからな!」
ギフトを得た状態であこがれだった人に久々に再会でき、ハルは冒険者としての思いを新たにしていた。
SSSランクであるゼンラインに追いつき追い越す――きっとそんなことを話したら誰もが馬鹿なことを言っていると思うだろう。
かたやCランク冒険者。ギフトに目覚めたのもつい最近、更に言えばパーティメンバーもルナリアだけ。
もう一方は世界唯一のSSSランク冒険者で、ハルが傷をつけるのが精いっぱいだったベヒーモスを一刀両断にした。
その二人の実力差を見て、ハルのことを馬鹿にする者、笑う者、怒る者は多く存在する。
しかし、ハルの宣言を納得する者は世界に二人いる。
「あぁ、楽しみにしている。――冗談ではなく、本気でその時を待っているよ」
頼りがいのある笑顔を見せたゼンラインは真剣な目でハルを見て、手を差し出しがっしりと力強く握手する。
「ハルさんなら絶対になれます!」
これまでのハルの戦いを隣でずっと見てきたルナリアも力強い表情で大きな声をあげる。
彼女はハルの戦い方を、持っている能力を、これから成長するであろう彼に対する期待を、それらすべてを理解している。
そのルナリアが絶対になれると判断している。
「ははっ、ルナリアがそう評価するなら信じられるね。それじゃあ、その時を待っているよ。じゃあ、俺は次の街に行くから。そう遠くないうちに会えることを期待してるよ」
それだけ言うとぱっと手をあげて別れを告げたゼンラインは颯爽と街を旅立っていった。
「は、早いな……」
「あっという間に姿が見えなくなりましたね……」
その背中すら一瞬で見えなくなったため、ハルもルナリアも呆然としていた。
「さて、次はどうするか」
ハルがルナリアに質問する。
「そうですねえ、そのあたり詳しく話すためにちょっとあっちに行きましょうか」
少し悩んだのち、落ち着いて話せる次の場所を思い出したルナリアが一軒の店に案内する。
その店は軽食を出す店で、普段は店頭での販売のみしか行っていないが、知人にのみ奥の部屋を開放していた。
「急にきてすみません」
この街が故郷であるルナリアはもちろん店の店主と知り合いであり、申し訳なさそうにしつつも急遽部屋を使わせてもらいたいと頼む。
「ルナリアちゃんならいつだって歓迎さ。ささ、どうぞ奥に」
「おばさん、ありがとうございます」
「どうも」
店員であるふくよかな体系の羊の女性に笑顔で促され、ルナリアとハルが部屋に通される。
「さて、ここなら誰にも話を聞かれないはずです……って、なんかこういうおみせにわたしたちよく来ますね」
ルナリアはお店の個室での密談というシチュエーションが何度かあったため、思わず笑ってしまう。
「あぁ、そういわれるとこんな状況も多いかもな。何か打開策も考えないといけないところだ」
こそこそと隠れているのも良くないと思ったハルは、そんな魔道具がないものかと思案を巡らす。
「ちょ、ちょっと待って下さい。まずは、私たちのこれからについて話し合いましょう」
「……俺たちのこれから?」
ハルが聞き返したことで、自分が何を口走ったか理解してルナリアは顔を真っ赤にする。
「い、いえ、その、そうじゃなく、そのっ」
「あぁ、俺とルナリアが何を目的に旅をしていくか、だろ?」
ハルが正解を口にしたため、ルナリアは一瞬時間が止まる。変に勘違いしてしまったのは自分ばかりかと気づいてしまったのだ。
「……ってわかってるじゃないですか! なんで、もう!」
からかわれたと思ったルナリアは顔を再度真っ赤にしてしまう。
「なんで怒ってるかわからないけど、とりあえずすまん。それで、俺たちがどうするか? だけど……どうする?」
彼らにとってひとまずの目的は冒険者としてパーティを組み、そしてルナリアの故郷を訪れることだった。
それがひと段落したいま、自分の目的、ルナリアの目的、そして今後の展望について互いのビジョンを共有する必要があった。
「そ、そうでした。うん、それです」
話がそれてしまっていたことに気づいたルナリアは、ぱたぱたと尻尾を動かしつつ落ち着きを取り戻そうとする。
「俺は単純な話として――もっと強くなりたい。それに、上のランクに上がるためにも実績を残す必要もある。つまりは冒険者ギルドでの活動と、魔物の討伐がメインになる」
強い決意を秘めた表情でハルは自分がどんな状況にあって、どうしていくのかを話す。
自分のことを話すことで、ルナリアが話しやすくなろうと考えたためだった。
「私は、もっと魔法を使いこなせるようになりたいです。魔力量ももっともっと増えるはずですし、自分の力を伸ばしていきたいです。あと……ハルさんのお手伝いもしたいです」
ハルの真剣な表情に背中を押されるようにルナリアも自分の思いを新たにしていた。
ルナリアの望むことを初めて知ったハルは特に後半について少々驚いていた。
「ふふっ、意外そうな顔ですね。私がこうして魔法を使えるのはもちろんハルさんのおかげです。その感謝の気持ちというのはもちろんありますけど、それだけじゃないんです。最初はお礼という思いでしたけど、色々な依頼を一緒にこなしていくうちに、ハルさんのことを大事な……その、仲間だって思うようになったんです!」
ルナリアはこれまでなかなか口にできなかったことを思い切って話す。必死に恥ずかしさをこらえているためか顔が赤くなっている。
「そうか……いや、それはすごく嬉しいよ。ただただ俺の無茶につき合わせてるんじゃないかと思うこともあったから。でも、今はそれが俺の思い違いだってわかったから……うん、よかった」
ほっとしたようにふにゃりと笑顔になったハルは自分の思いを口にしつつ、真剣に答える。
「ふう、話しておいてよかったです。そんなことを不意に言われたら、今度こそ本気で怒っちゃうところでしたよ?」
ルナリアは大きく息をついてから、苦笑する。過去にも似たようなことを言われて怒ったなあ、などと思いながら。
「は、ははっ、それは今話しておいてよかった。とにかく今後もよろしくな」
「はいっ」
笑顔で二人は握手を交わし、再度仲間としての認識を強めていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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