第百話
「なんだか悪いなあ……」
「ですねえ……」
ハルとルナリアはみんなが解体している様子を見て落ち着かない気分になりながらそうつぶやいていた。
「まあ、いいんじゃないかな? 二人は十分戦ったわけだし、解体にまで力を割く必要はないと思うよ。結構ダメージを受けてたおかげで俺もサクッと倒せたことだしね」
「ゼンラインさ……!」
ゼンラインがひょっこりと顔を出してふっと微笑みながら声をかける。勢いよく振り返ったハルが名前を口にしようとすると、ゼンラインがハルの口の前に指を持ってきてそれを静止する。
「悪いね、さすがに名前を大きな声で言われるのはやめておいてほしいかな。見た目は知らない人も多いだろうけど、名前はそれなりに知られているからね。そうだなあ、とりあえず俺のことはゼンと呼んでくれればいいよ」
困ったように笑ってゼンラインはそう言ってから指を外す。
確かにゼンラインほどの人になると名声を得る代わりに色々と面倒なことも多いのだろうとハルは納得する。
「ふう、色々話はあるけど……ゼンさん、久しぶり。それと、助けてくれてありがとう」
感謝の気持ちをたっぷりとこめてハルが頭を下げるとゼンラインはニッコリと笑って頷く。
「いいさ。たまたま近くにいたからね。それに、ハルが成長して戦えるようになったのを見られて嬉しいよ」
嬉しそうに目を細めたゼンラインは大きな掌でガシガシとハルの頭を撫でる。
ハルは恥ずかしくも思ったが、あこがれの人に認められるのは嬉しいらしく、満更でもない表情になっていた。そんな彼を見れてルナリアも優しい表情になる。
「ベヒーモスの顔に傷をつけたのはハルなんだろ? 一体どうやったんだ? 確かギフトがないって言ってたけど……」
ギフトを持たないと思っていたハルがベヒーモスに傷を負わせるほどの力を持っていることに、ゼンラインはとても驚いていた。
「あー、ちょっと詳細は話せないんだけど、大きな事故にあって、それ以来能力を使うことができるようになったんだ……」
「おー! それはよかった! ハルには才能を感じていたから、いつかこうなるだろうとは思っていたんだよ!」
どこか煮え切らない口ぶりのハルだったが、ゼンラインはそんなことは気にしておらず、ただ単純にハルが能力に目覚めたことを嬉しく思っていた。
「あ、ありがとう……」
自分が冒険者を目指すきっかけとなった彼に全てを話すことができないことを心苦しく思いながらも、ゼンラインが褒めてくれたためハルは喜んでいた。
「――それで、解体が終わって街に戻ったら少し話をしたいんだけどいいかな?」
少し真剣な表情になったゼンラインの申し出に、ハルはもちろんルナリアも頷いていた。
「俺が泊ってる宿はここだから、ここの女将さんにゼンの知り合いのハルが来たと伝えてくれれば、いいようにしておくからよろしく。俺はここにいないほうがいいだろうから姿を隠すことにするよ。それじゃあね」
ひらりとゼンラインが手を振ってそう言うと、一瞬突風が巻き起こり、次の瞬間にはゼンラインの姿は消えていた。
「さ、さすが……」
「一瞬で……」
ハルもその動きを見切ることはできず、瞬き一つの間にはいなくなっていた。
「おーい、二人ともー! 二人はここまで馬車で来たの?」
大きく手を振って声をかけてきたのはエリッサだった。
解体がかなり進んできたことで、今度は帰り道をどうするか考える段階になってきていたようだ。
「あぁ、この岩場の手前あたりに馬車を置いてきた。運ぶものがあるなら、馬車を回収してくるけど……どうする?」
「うん、そうしてくれると助かるかな。何せ巨大だからね……皮だけとっても相当な量になるから……」
困ったように笑うエリッサは未だ続く解体作業と、既に解体を終えた素材に視線を送っていた。
そこにはどっさりと山積みになった素材が置いてあった。
冒険者たちが悪戦苦闘しながらもなんとか作業は滞りなく進んでいるようだ。
「あー、確かにあれはすごい量だな……」
「まだ、あんなにあるのに……」
ハルは既に解体を終えた素材に対して、ルナリアは未だ解体中のベヒーモスに対してつぶやく。
「……とりあえず馬車をとってくるか」
「そうですね、ファロスさんが無事かどうかも確認しないと」
そう言ってハルとルナリアは、ファロスを置いてきたあたりに向かうことにし、エリッサは再び解体作業に戻っていく。
ファロスと馬車は、ハルたちが置いてきた場所でそのまま待っていた。
ハルたちを見つけるとファロスは嬉しそうな雰囲気を出している。
「ヒヒーン!」
「お、おおう、悪かったな。かなりの強敵に出会ったもんでな」
「ファロスさん、落ち着いて下さい。解体も大変だったんですから!」
ファロスは二人を確認すると、顔を思い切りすりよせ、ベロでぺろぺろと顔をなめ始めた。
長い時間放置されたことと、二人のことを心配していたというのがハルたちにも伝わっていたため、しばらくの間ファロスのやらせたいようにさせていた。
ファロスが満足して岩場に戻ったころには、大体の解体作業は終わっていた。
「うわあ、すごいですね!」
その手際の良さにルナリアは驚いていた。
先ほどハルたちが見た時は雑然としていたそれらは仕分けがなされて運びやすいようになっている。
「そうでしょ、そうでしょ! みんな頑張ったからさ、綺麗に切り分けられたわよ」
得意げな表情のエリッサはどうだ! と胸を張りながらルナリアに自分たちが頑張った結果をアピールしていた。
「うん、すごいよ! 指揮はエリッサがとったの?」
「まあ、解体作業に関しては色々勉強したからね。魔法だけしかできないと思われたら、結構舐められちゃうから」
感激したように近づいたルナリアと笑顔のエリッサはワイワイと話を始める。
しばらく話が続きそうであるため、ハルはほかの冒険者に声をかけながら素材を自分たちと、その他にも何台かある馬車に積み込んでいく。
「マジックバッグにいれる場合は、何をどれだけ収納したか報告をするように。あとで変にもめる場合を考えたら、そのあたりは正確にやっておくほうがいい」
ハルの言葉に冒険者たちは素直に頷いて、ルールに従って素材を片付けていく。
全てが終わった頃に、ルナリアとエリッサも気づいてやってくる。
「す、すいません。ついつい話に夢中になって……」
「ご、ごめんなさい」
つい話に花を咲かせてしまったことを申し訳なく思った二人が謝罪をするが、ハルは肩をすくめるだけで特に責める様子はない。
「いいんだ、エリッサが指示を出していたのはみんな知っているし、ルナリアは俺と一緒にベヒーモスと戦闘していたんだからな。そんなことより、素材は運べるようになったから、そろそろ出発しよう」
申し訳なさそうな二人がそれ以上気にしないように、さっさと話を切り上げ、ハルは出発を促す。
彼女らが振り返った先にいた冒険者たちも、二人が話をしていたことを気にしておらず、笑顔だったことで二人はようやく安堵したようにそれぞれの馬車に乗り込んでいった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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