たかいたかーい
「たかいたかーい」
父に持ち上げてもらう。幼い頃、こうされるのがとても好きだった。
「たかいたかーい」
父はめい一杯、両腕を高く突き上げる。私は不思議と恐怖心は覚えなかった。普段の見上げるではなく、周りを見下ろす位置からの視界。まるで空を飛んでいるよう、とは言い過ぎだが。
「ぴゅーーん」
父は自由に、私を宙に舞わせる。
「ほぅら、よっとっと」
私は手足を突っ張っらせながら、流れに合わせて。
「はい、着地ぃ」
ピタッと両足で着いて、決めポーズ。楽しくて仕方がない。もう一回もう一回と、本当は何回でもだが、私はせがむ。
「ハァハァハァ、疲れたぁ」
対して、父は尻餅をついていた。
「だめ、危険。限界」
すっかりへばってしまっていて。
「重くなったなぁ、お前。もう、これでおしまい」
残念がろうと、いくらお願いしようと、以降父が私を持ち上げてくれることはなかった。ずっと体が軽ければ、と変な努力もしたりした。淋しい思い出、記憶。
「高い高ーい!」
で、今は大人。私は細身の体、足を広げて突っ張らせる。高い飛び出しからの、大好きな見下ろしの視界。風に持ち上げられ、宙を伸びていく。
スーー//
ーーーー//
ーーーーー//
そういったふうで、限界点を越えて。そして最後はやはり着地。
す、
と決めポーズ。とっても満足。
「97メートル50、現在1位です」
数秒間の空中飛行。昔は処罰に用いてたなんて嘘だ、まるっきり。こんなにも楽しいこと。
よし、もう一回。
私は板を抱えてジャンプ台を登る。再び、何度でも。そしてそこから、たかいたかーい。