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風鈴

作者: 文月

ー僕らがまだ幼かった頃の話。

君は俺と交わした約束を覚えているのだろうか。


「ふうちゃーん!あそぼ!」

少女の大きな声が玄関から聞こえてきた。

僕は、絵本を机に置いて声が聞こえた方へゆっくりと向かった。


「いいよ。なにしてあそぶ?」

「んーとね、おえかきしたい!」

少女は、靴を脱ぎながら応えた。


「じゃあ、かみとくれよんとってくるけん、さきにへやにいっとって」

「うん、わかった!」

と、嬉しそうに笑う君。

僕と君は、母親同士がとても仲が良くいつも一緒に遊んどった。僕は、これからもずっと君と一緒やと思いよった。


「え、おひっこし?」

「そうなんよー。お父さんの仕事の関係でね、急に引越しすることになったんよ。ごめんね、風くん。いつも鈴と仲良よくしてくれよったのに」

と、鈴のお母さんは申し訳なさそうに言った。

鈴は、無言でうつむいていた。


「明後日の朝には、ここから引っ越すんよね?さみしくなるわ。まあ、一生会えんわけじゃないけん気が向いたら遊びにおいでね」

「ええ。落ち着いたら連絡するわ」

鈴のお母さんは、僕の母さんと少し話をしてからまだすることが残っとるからと言い残して鈴と帰っていった。


今日は、鈴が引っ越す日。

「風ー。鈴ちゃんが来てくれたよー」

僕を呼ぶ母さんの声。僕は、ある物を手に取り玄関に向かった。


「ほらっ。風くんにあいさつは?」

鈴のお母さんは、りんの背中をぽんと軽く押した。


「ふうちゃん、りんといっぱいあそんでくれてありがとう」

泣いたんやろか。君の目は真っ赤やった。


「りん、これあげる」

僕は、手に持っていたもんを鈴に渡した。


「わあ、かわいい!」

僕が渡したんは小さな風鈴のキーホルダー。

それは、昨日のこと。


「風、それ開けてみー」

母さんは小さな紙袋を渡してきた。

開けると、色違いの小さな風鈴のキーホルダーが2つ入っとった。


「ふうりん?」

「そう、可愛いやろ?水色のは風の。そんで、桃色のは鈴ちゃんのね」

と、キーホルダーを指さした。


「りんの?」

「そうよ。明日、それ渡してあげたら?風と鈴ちゃんが離れてもさみしくならんように何か無いかと思って雑貨屋さんに行ったんやけど、そしたらね、その風鈴のキーホルダーを見つけてね風と鈴ちゃんの鈴で風鈴になるじゃない!って思ったけん買ったんよねー」

「……へぇー」

と、母さんがくれた物だ。


「鈴ちゃん。それね、風も色違いで持っとるんよ」

僕は、鈴に自分のを見せてあげた。


「おそろいなんやね。風くんは水色で鈴は桃色か」

そう言うと鈴のお母さんは、良かったねーと鈴に声をかけていた。


「ふうちゃんといっしょ?」

鈴は、小さな声で呟いた。


「そうやね、嫌やった?」

僕の母さんが鈴の呟きに応えると、鈴は急いでブルブルと首を振った。


「うれしい!ありがとう。でも、りん、ふうちゃんの持ってるキーホルダーがいい」

と、僕の水色の風鈴のキーホルダーを鈴は指さした。


「え、これ?なんで?」

「りんね、ふうちゃんことだいすきやけんね、離れててもさみしくならんようにね、ふうちゃんのキーホルダー持っときたい。だめ?」

「いいよ。じゃあ、はい」

「やったー!大事にするけんねー」

と、風鈴のキーホルダーを交換するとにっこりと嬉しそうに鈴は笑った。


「ぼく、りんのことまっとるけん、またかえってくるってやくそくして」

と、小指を鈴に向かって差し出した。


「うん、わかった。りん、またかえってくるけん、りんのことわすれんといてよ。やくそくやけんね!」

と、鈴も小指を僕の方へ出してくれて僕たちはゆびきりをした。

こうして、りんの家族は引っ越していった。


現在、俺は、高校1年生。夏もようやく終わり季節は秋になった。

あの約束から、およそ10年の月日が流れた。


「風ー。おっはようさん!」

「ああ、おはよ」

「あ、そうそう知ってるか?」

「何が?」

「明日、転校生がこのクラスに来るっていう噂があるらしーぞ」

「転校生?」

と、言いながら荷物を自分の席に置いた。


「ああ、どんな子が来るかは知らんけどな。女子でカワイイ子なら大歓迎だ」

と、薫と雑談をしていたらチャイムが鳴り、それと同時に先生が教室に入って来た。


やっと、授業も終わり部活に行く薫と教室を出た。


「じゃーなー。風!」

と、ブンブン手を振る薫は、サッカー部。


「ああ。また明日な。練習頑張れよー」

と、家に帰る俺は、帰宅部だ。

自転車が修理中のため徒歩で帰りよったら、両手に荷物を抱えた小柄な少女が前を歩きよった。

あ、何か落ちた。

少女は、気づいていない。

俺は、落し物に手を伸ばそうとしてびっくりした。


「これって」

もしかしてと思い、少女を追いかけ声をかけた。


「あの!」

へっ?と、少女は振り向き、不思議そうな顔をしていたがすぐに笑顔になった。


「風ちゃん?」

俺は、笑って頷いた。

鈴は、荷物をドサッと地面に置き、勢いよく飛びついてきた。


「風ちゃん、ただいまー!約束通り帰ってきたんよー!」

約10年ぶりに再開した鈴は、以前のように元気いっぱい笑顔いっぱいやった。


「うおっと。お帰り、鈴。俺も鈴のこと忘れずに待っとったよ」

と、少しよろめきながら鈴を支えた。


「鈴が帰って来たら言おうと思っとったことがあるんやけど」

「何?」

鈴は、首を傾げた。


「鈴のこと小さい時から好きだ。やけん、俺の彼女になって下さい」

「はい!私も風ちゃんのこと変わらずに大好きやけん、とても嬉しい!」

そして鈴は、心から嬉しそうに微笑んでくれた。

地面に置いた鈴の荷物を半分持ち、空いている方の手を鈴に向かって差し伸べた。

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