ロックフォルダ
「ねぇ、ナオくーん」
俺がテレビのペット特集に釘付けになっていると、肩に寄り添っている麻紀奈が俺を呼んだ。
「このロックフォルダって何が入ってるの?」
「なんだよ…っておい! なにヒトのケータイ勝手にいじってんだよ!」
麻紀奈は俺のケータイを自分のケータイのように扱っていた。俺の許可なしに、しかも俺の真横で。
てか俺も気づけよ。
「きゃっ」
彼女の手からケータイを奪いとる。
「他人のケータイは勝手に見るものじゃありません」
「私彼女だよ?」
「彼女でもダメなの」
「ナオくんのこと好きでも?」
「オレが麻紀奈のこと大好きだからダメ」
「うにゃー」
猫のような声をだしながら麻紀奈が俺に覆い被さってくる。
俺は力を加減しつつ背中から床に倒れこんだ。
「よくそんな恥ずかしいこと言えるねナオくんは」
「先に言い出したの麻紀奈だろ」
「んーそかも」
そういって悪戯っぽく笑う。
俺も笑って、麻紀奈の頭に手をのせる。そしてゆっくりと撫でた。
「んーやっぱりナオくんのいい子いい子は気持ちいー」
「そーだろそーだろ」
よく考えたら、いいことどころ悪いことをしたような気もするけど気にしない。
いつもこんな感じ。 ゆるゆるで、何かあっても二人ともなんとなーく対処してなんとなーくお開きになる。
そんな麻紀奈との空間が俺には心地よかった。
あれだ、ゆるゆる菌(麻紀奈命名)が俺にも感染してしまったのだろう。
「だからヒトのケータイは勝手に見るなよ」
「はーい」
「てかなんで今更ケータイなんか見てんだ?」
聞くと麻紀奈は小首を傾げた。
「んー、浮気調査はしてみた方がいいですわよって、カナさんが言ってたから」
「カナさんって誰?」」
「おはようテレビの人」
俺は何も言わずに優しくぺしっとデコピンした。
「うー本当に言ってたんだもん」
「わかったわかった。でも俺は浮気なんかしてなかったろ」
「うん、メールも電話も全部私だった」
「麻紀奈はカナさんに騙されて、ムダな時間を使ってしまっただけなのでしたー。
…おっ、この猫かわいいな」
そう言って俺がまたペット特集を見ようとすると、麻紀奈がピタリと俺のお腹にへばりついた。
「あの、起き上がれないんだけど」
「起き上がらなくていい」
「どーして?」
「私を心配させたからぎゅーってして」
彼女の甘えた表情にドキッとして、ちょっと深呼吸して、背中に腕を回した。
「てか心配させたのカナさんのせいじゃない?」
「それでもぉ」
「はいはい」
そして腕の中の麻紀奈を強く、優しく、ぎゅーってした。
「もう心配させないでね」
「もう勝手に心配しないでください」
二人とも笑った。
腕の中の彼女は温かくて、とてもとても愛おしかった。
ゆるゆるで、なんとなーくな空間がまあるくなっていく。
大体そんな感じ。
俺はそんな空間が好きだ。
そして麻紀奈が大好きだ。
「あ、そういえばナオくん」
「なに?」
「ロックフォルダの中、何が入ってるの?」
「……男のロマンさっ」
彼女はきょとんと少し考えて、あっ、と小さく叫んで、頬を染めながら俺の胸に顔をうずめた。
そして少しだけ顔を上げて上目遣いに言った。
「ナオくんのえっち」
また俺はぎゅーってしてしまった。
なんか妄想です、すみません。
そして読んでくださってありがとうございました。