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後編

「そういう訳で、魔王は散ったのさ」

 ナイツは剣をその廃墟へと突き立てながら、近くの瓦礫へと腰を下ろした。それは魔王と戦った場所とは何マイルもの距離を隔てた、異境での出来事だった。

「本当に、散ったんだな」

 その男はくしゃりと顔を歪めて、痛々しそうな顔をした。顎を軋ませて奥歯を噛み締め、鎧を纏った体を震えさせて、手に持った勇者(・・)()()をすさまじい力でぐっと握った。そして、その剣を引き抜き、宙へと掲げた。

「本当に、散ったんだな。あいつが、私の剣で貫かれることなく、誰とも知らないただの安物の剣で差し抜かれて死んだんだな?」

「魔王はお前にとってはまさしく人外の強さだったろう。でもな、その力はただの兵士の剣で事足りた。それが今のお前の力だ。勇者の剣があっても、お前は魔王を倒せなかった。これからはその力を何に使うか……わかっているな?」

「それは私の勝手だ。私が第二の魔王になろうと、国王になろうと、ただの『勇者』になろうと、勝手なことだろう」

「それもそうだな。でも、私はお前に約束通り、名前を返そう。――ナイツ」

 本物のナイツはふっと笑い、マントを翻らせて勇者の剣を腰に差してある鞘へと戻した。ナイツ(・・・)ではない(・・・・)その(・・)()は小さくうなずき、ゆっくりと瓦礫から立ち上がった。

「そういうことだ。では、もう用は済んだな。私はもう行くぞ?」

「だが、あの話が本当のことだったとはな。この世には、勇者であるナイツと人外である魔王よりも、もっととてつもなく強い存在がいると。それはこの世を築いた後、身を隠し、暮らしている英雄達だった、と。その一人が、お前だ」

「お前の強さは確かにすさまじいものがある。だが、その限界を越すところに、様々な存在がいる。でも、力の強さなど、どうでもいいことだ。さっさとお前は淡々と日々の仕事を全うし、一人の人間としての暮らしに戻るが良い。それが、魔王討伐を私に代行させた、お前の務めだ。じゃあな」

 そう言って、そのナイツではない男は、顔に手を当てた。その薄い膜を毟り取り、素顔を顕わにさせる。それはごくごく平凡な、これと言って特徴のない、少しだけ眠そうな男の顔だった。

「悪かったな、シアン。魔王に代わって、私がこの世を自然に戻すよ。人々は野に還り、魔物は森に還り、私はただの人間に戻る。その力を失ったあるべき姿が、この世の真実なんだ」

 ナイツはそう言って微笑み、そっとシアンと呼ばれたその男を見送った。シアンは鎧とマントを脱ぎ捨て、ただの平民の格好へと戻ると、背中を掻きながら月の光が照り付ける青い野原へと降り立った。

 ずっと背後から勇者の視線が向かってきて、何か言葉を囁いているのが聞こえた。それはハープの音色のようにどこまでも響きを広げていき、そして月のしずくのようにきらきらと宙を落ちて見渡す限りの自然の地へと消えていった。

 それはシアンにとって水面に広がる波紋のように静かな心の音楽だった。そうして彼は、消えない命の息吹を胸に感じながら、そっと鼻歌を唄ってただの平穏そのものの国へと帰っていった。


 未開の地であった魔王の国が滅び、平穏な自然の地『ナチュラルズ』ができたのは、その夜のことであった。


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