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前編

本当に短い話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 ナイツは先程(・・)()兵士(・・)()持っていた(・・・・・)剣を弄びながら、瓦礫の上に崩れ落ちた魔王の前に立ってじっと見下ろした。魔王は唇の隙間から剥き出した牙をこちらに向けて唸っていたが、やがて体が痙攣して大きな血の塊を吐いて言った。

「何故、お前はそんなに強いんだ? これまでとはまるで、別人のようだ。……まるで石屑が宝石へと変わったように。……お前は、何者だ?」

「ナイツ、だ。勇者、ナイツ。……皆が、知っていることだろうが」

 ナイツは唇の端を持ち上げて笑いながら、そっと剣の先を魔王の顎へと突き出した。寸前のところで止めて、何を言うかを待った。

「どんな方法で、こんなに強くなったんだ? 人間の、強さじゃない。……お前は、何者だ?」

「だから、ナイツと言っているだろう? ……魔王よ、お前の魔力はもう、わずかさえも残っていないだろう? その爪も、牙も、筋肉も……全て、ただの人同然のものだ。これ以上戦うのは、不可能だろうよ」

「殺すのか? なら早くその剣で、貫いてくれ。私は見ての通り、魔力の根を潰されて回復する見込みもないんだ。……やるなら、さっさとしろ!」

 魔王の目に薄い膜が張り付き始めて、それはダイヤの原石のように宙に煌めきながら、灰色の地面へと落ちていった。それは夜空を流れる星々のように美しく、そして朝露のように、純粋な透明だったのだ。

「魔王よ。”い”きたいとは、思わないか?」

「……逝きたい、か。そうだな……私はもう、この世を統べる力を失ってしまったのだ。魔族を統率する術を失った今の私は、ただの石屑同然だろう。宝石のお前に殺されるなら、少しは石屑も流星のように煌めくだろうな……さあ、やるがいい」

 ナイツは剣を天へと突き上げて、構えた。魔王が静かに目を瞑る。彼は剣を魔王の胸へとそのまま突き刺した。


 魔王が目を見開くのがわかった。それはごくごく浅い、刺し傷だった。あまりにも軽く、魔王が奪った幾多の命よりも、小さな血しか流れなかったのだ。

「魔王よ……お前はもう、ただの生を受けた命に過ぎないんだ。これからは地に立って野山を耕しながら、人々を救う、ただの存在に戻ると良いだろう。私はお前を殺そうとは思わないんだ。誰にも見られぬよう、そっと消えよ」

「何を……、言っている?」

「お前が何か蘇生魔法で、魔力の根を復活させたとしても、お前には負けないだろうな。さっさと、この場から去れ。そしてどこか遠くに……世界の果ての、果てまで旅して、そこに暮らすと良いだろう。私はどこにいようが、お前が成すことを見ているだろう。……さあ、」

 魔王は体を激しく揺さぶって驚愕の目でナイツを見ていたが、ふっと笑って、血塗れの唇をそっと曲げながら言った。

「そうか……お前には何か目論見があるのだな。……お前から譲り受けたこの命、――最後まで燃焼させようか」

 魔王はそう言って膝をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。黒い外套が破れてはだけていたが、黒い髪をゆっくりとなびかせながら、彼は歩き出した。片足をひきずって人外の美しい顔を笑みに変え、夜の帳へと消えていった。

 燃え盛る炎を背に受けながら、崩れ落ちた城塞を眺めて、ナイツはふっと息を吐いた。これで、魔王は散ったのだ。この世界が後はどう変わるか、だ。自分のやっていることを、ふと噛み締めると、泣き笑いしか出てこなかった。

 魔王に手も足も出なかったナイツが、どうして彼という存在に勝てたのか? ……そこにはもう、馬鹿らしい秘密しかなかったのだ。


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