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寿司処旬亭 異世界営業譚  作者: ムラサキあがり
第一章;秋(オータム)
9/14

「神の来訪と常連二人の正体」

今回は寿司ネタに関する情報はありません、予めご了承下さい

 その日はすごい雨と風だった。昼間も凄かったが夜になり余計に酷く荒れ始めていた。

 天気予報士(ウェザーリポーター)の予想は曇、しかしそれを大きく外し暴風雨が吹き荒れていた。


「今日は暖簾下げたほうがいいかなぁ・・・」


 旬亭もこの暴風雨の影響で閑古鳥が鳴いていた、ゼノ、バージルといった常連も今日は来店していない。この異世界にはテレビやラジオといった情報機器は存在しない、主な情報は新聞や天気予報士(ウェザーリポーター)で得る。



 暖簾を仕舞おうとツケ場から出入り口に向かう愁、その時店の引き戸がガラッと開き


「ひぃ〜 ひっでぇ雨」

「・・・参ったな」


 びしょ濡れで常連二人が入ってきた。


「ゼノさん、バージルさん!びしょ濡れじゃないですか!?アカリちゃん、タオルお願い」

「はい」


 この暴風雨の中、来店してくれたことを愁は感謝するより心配の気持ちが大きかった。怪我でもしたらどうするのか・・・


「今日の天気予報(ウェザーレポート)外しすぎだよ。傘もこの雨で吹き飛んだ!」

「・・・秋に降る雨の量ではないな」

「お二人共ご無事でなによりでした、・・・今日は熱燗にしておきますか?」


 この提案に二人も乗る。


「いいねぇ〜、俺っちそれで」

「今日は俺もそれでいい」


 愁はアカリに指示を出し、ツケ場に入る。その瞬間、雨と風の音が


 消えた。


 店の屋根を叩きつけていた雨音がピタリと消えたのだ。止んだのか?と引き戸を開けたバージル、しかし暴風雨は続いていた。


 その中に人影が見えた、遠目だったが真っ赤なスーツ姿に杖をつきこちらに向かい歩いてくる。

 数分も経たずその人物は旬亭に来店した。


「邪魔するよ」

「いらっしゃいませ、今タオルをお持ちします」

「いや、その心配は無用だ店主」


 よく見るとその人物は40代後半くらいで口髭を生やし若干の白髪混じりの髪で、その身体は雨に全く濡れていなかった。


「えっ・・・」

「どゆこと!?」


 思わず声を上げるゼノと愁。その様子をみると赤いスーツの人物は驚きの言葉を発する。


「さすがにこの暴風雨も私の姿を見たのならむこうが避けるほかあるまい。ただそれだけのことだよ」


 彼はカウンターの真ん中に腰掛け更に驚愕の言葉を告げた。


「なに、雨神(アルボス)風神(モンス)が喧嘩をしているだけだ。ただ私が地上に食事をしに来たならば、喧嘩中とはいえ私に危害をくわえる訳にはいかない。ならばむこうが避けるしかあるまいよ」


 突然何を言っているのか全くわからなかった。ただ、バージルだけは強烈な殺気をその男に向けている。


「・・・何故貴様がここにいる?」

「ただの食事だ、『テスタメントの最後の者』よ」


 その男の発言に驚きの声を上げたのはゼノだった。


「『テスタメントぉ』!!?おいおいおっさん、冗談はやめてくれ」


『テスタメント』


 愁には意味不明だったがバージルの事を言っているのはわかった。ただゼノのこの驚き様、そして相変わらず殺気全開のバージル。このお客様は一体何者なのだろう。

 言葉だけ聞けば若干頭の狂った厨二病のおじさんなのだろうが妙に信憑性があった。何故かはわからないが・・・

 赤いスーツの男は続ける。


「自己紹介がまだだったな、私は『アリ・オーグマン』。【第二天(セカンドヘブン)支配者(マスタリー)】をやらせてもらっている。よろしく頼むよ店主」

「ご、ご丁寧にどうも。寿司処旬亭店主 冴島 愁と申します」


 オーグマンの【第二天(セカンドヘブン)支配者(マスタリー)】とはどういう意味なのだろう。ゼノが更に驚く。


「【第二天(セカンドヘブン)支配者(マスタリー)】っておっさん、冗談もほどほどにしろよ!?そんなことがあるわけがないだろう!!意味わかっていってるのか?アンタ自分を『神』って言ったんだぞ!?」

「・・・その通りだよ、『ギーグ族』の青年」

「・・・っ!」


 ゼノが押し黙る。愁からすれば何を言っているのか全くわからない。わかっているのはバージルとゼノ、アカリちゃんにもわかっているようだった。


「さて、何か旬のものを頂けるかな?」


 自分のペースでオーグマンは注文する。愁はポカンとしていたがオーグマンの注文に我に返る。


「お嫌いなネタはありますか?」

「私に嫌いなものは存在しない、愁殿にまかせるよ」


 まさしく一触即発の状態で愁は寿司をつける、こんなにも緊迫した状況で寿司をつけるのは今まで生きてきた中で初めての経験だった。


「白身のヒラメです、どうぞ」

「・・・ふむ、いただこう」


 マイペースなオーグマンにしびれを切らしたゼノが怒鳴る、この時のゼノにはいつも彼をいじっているアカリも恐怖していた。


「おっさん話をスルーするな!!旦那がテスタメントってのはどういうことだ!!なんで俺っちの正体まで知ってる!?答えろ!!」

「・・・質問が多いな『ギーグ族』の青年、一つ一つ説明するからこの一貫くらい味あわせてくれたまえ」


 オーグマンは握りたてのヒラメを口にし、満足そうな笑みを浮かべる。そして怒り心頭のゼノと殺気全開のバージル、そしてあっけらかんとしている愁にむかって解答をしていく。


「さて、何から話そうか?まずはテスタメント君について。彼の持っている日本刀(カタナ)、それはテスタメント王国に伝わる『魔刀(まとう):鬼影(きえい)』。そしてその青いコート、血絵具(ブラッドオイル)で紋章が隠されてはいるがれっきとしたテスタメント王国の王族だけにしか着用出来ない『ブロミーズコート』。なにより私とテスタメント君が顔見知りということもある」


 その発言にゼノは突っ込む。


「それがおかしいってんだ、『テスタメント王国』は今から150年前に滅亡した王国じゃねぇか。仮に生き残りがいたとしても、もうとっくに死んでいるだろうよ」


 ゼノの発言に驚愕する愁とアカリ、バージルは黙ってオーグマンに殺気を強めた。オーグマンは続ける。


「それはそうだろう、彼は父王が悪魔契約をした際、代償で全ての呪いをうけたのだ。そのおかげでほぼ不老不死化している」

「んなっ、マヂかよ・・・」

「・・・・・黙れ」


 その言葉に殺気はさらに強まり、バージルは日本刀(カタナ)を抜きオーグマンに突き付けた。その様子に愁は慌てまくる、こんな恐ろしい気配のバージルはもちろんはじめてだった。しかしオーグマンは平然とお茶をすする。


「そう興奮するなテスタメント君、次はギーグ族の君のことが何故わかったか。君が人間でないことはすぐにわかった、ギーグ族とわかったのはその目の色だ。その緑色の中に黒色の魔紋が入っていることでギーグ族だと気付いた」


 オーグマンは淡々と語り続ける、その右側にはバージルが抜刀した日本刀(カタナ)が頭に突き付けられているが顔色一つ変えない。


「・・・とても美味しい寿司だった、今日は日が悪いようであるからな。また寄らせてもらうよ、その時はじっくり色んなネタを楽しませてもらおう」


 その言葉を放ち、ヒラメ一貫の代金をカウンターに置くとオーグマンは光の粒子となって消えてしまった。それと同時に雨の音が聞こえ始める。屋根をうちつける激しい音が・・・。

 愁は唖然としていたがそのほとんどが意味不明だった、一度に大量にこの世界の用語が飛び出してきたからである。暫くの沈黙ののち、最初に口を開いたのはバージルだった。


「・・・・・・今から150年、俺の国は類い稀なる魔法の研究王国だった。その技術のほとんどが全世界に広まっていった。だが俺の父はそれだけでは飽き足らず悪魔を呼び出し契約を結び、その代償を勝手に俺に押し付けた」

「そのせいで旦那、不老不死に?」


 バージルはすっかり温くなった熱燗を飲み干し静かに頷く。ゼノは思わず顔を押さえ溜息を一つ・・・。


「はぁ・・・俺っちの正体もバラされたしなぁ、まぁ特に気にしちゃいねぇけど」

「・・・・ギーグっていってましたよね?」


 愁の問いに今度はゼノが話し始める。


「俺っちは、まぁぶっちゃけ人間ぢゃねぇ。正式名称は『ギーグメッシャ族』、武器防具アクセサリ関係を製作するエキスパートっていわれてる。見た目は普通の人間と変わんねぇんだけど・・・」


 会話の途中で押し黙るゼノだったが決意したかのように言葉を放った。


「『ギーグメッシャ族』は『多腕族』って特殊な種族なんよ」

「た、『多腕族』なんですか・・・」


 アカリが少し後ずさる、その顔は少し恐怖に引きつっていた。


「・・・アカリっちが怖がんのも無理ねぇなぁ。今は二本腕で普通と変わんないけど、魔力解放すりゃ六本腕になる。一度に多くの武具を作るって理由で、生まれた時から腕が六本あるのよ。魔力で隠せるけどな」


 続いてバージルも語る。


「俺の本名は『バージル・D(ディメンジョン)・テスタメント』・・・。今の年齢は175歳だ。呪いのおかげでここまで生きている」

「俺っちの本名も語るかぁ。『ゼノ・Z(ジー)・ギーグメッシャ』っての。Z(ジー)は称号、AからZまであってAが最低、Z(ジー)が最高級ランクさ」


 常連の突然の正体明かしに愁は驚きを隠せない、しばらく二人に対して何も話せずにいた。一人は呪いを受け150年以上生きている王族の生き残り、一人は秘密を持ち聖都で記者として活動している多腕族。


 しかし、愁は何かを思ったのか突然寿司をつけ始め二人の前に置いた。


「・・・どうぞ。俺は二人が何者だろうと関係ありません。大切な大切なお客様です。例え正体を知ったからといってそれは変わらないです」

「シュウ・・・」

「シュウちゃん」


 愁が二人の前にだしたのはヒラメの飾り握りだった。


「ヒラメの飾り握りだと?」

「俺のオリジナル、御縁一会(ごえんいちえ)といいます。一期一会という言葉があるんですが『一生に一度しか会えないからこそ亭主・客とも互いに誠意を持った心構え』を意味するんですが、御縁一会(ごえんいちえ)は『一生に一度の縁だからこそどんな方であれ誠意を持った心構え』という勝手に作った意味です。この飾り握りはどんなネタでも出来るようにしました。俺からの今のお二人に対する気持ちです」


 二人はほぼ同時に頬張る、ヒラメの脂と上に乗った紅葉おろし、浅葱といった薬味が極上に合い見事なハーモニーを奏でていた。

 二人は満足な表現と共にこの寿司屋は我々を受け入れてくれる。いや、我々どころか一般的に嫌がる種族もここなら受け入れるだろうと確信したのだった。


「・・・フッ、これからも寄らせてもらうぞ」

「俺っちも来ちゃうよ、ここは俺っちの憩いの場所だからね」


 二人の表現は晴やかだった、その言葉に愁は笑顔で答える。


「はい!お待ちしております!」



 いつの間にか雨音は聞こえなくなり雨も風も止み、雲も流れ3つの月が静かに聖都と寿司処旬亭を照らしていた。



登場人物(補足)


バージル・D(ディメンジョン)・テスタメント

年齢:175歳


今は失われた王国、テスタメント王国の最後の王族の一人。父王が悪魔契約の際、代償の呪いを全て引き受けさせられた。そのおかげで肉体はほぼ不老不死と化している。王族の証のコートと日本刀(カタナ)魔刀(まとう):鬼影(きえい)』を所持。剣術は目にも止まらない高速の斬撃を繰り出す。その威力は相手が斬られたことに気がつかないほど。



ゼノ・Z(ジー)・ギーグメッシャ


何処かの里で暮らしている、世にも珍しい多腕族(6本)の一人。普段は二本腕で他の四本は魔力で隠している。武具製作のエキスパートで、ありとあらゆる武器を使いこなす武器の達人の種族でもある。ミドルネームは称号で、AからZまでありAが最低ランクでZが最高級ランク。Zの称号持ちはゼノを含め3人しかいない

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