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寿司処旬亭 異世界営業譚  作者: ムラサキあがり
第一章;秋(オータム)
10/14

「烏賊論争(前編)」

ようやくアップ出来ました。文構成が上手くいかなくて遅いアップとなりましたm(_ _)m

 冷たい風が吹き始め、気温が少しずつ少しずつ下がってきた。この時期は聖都の気温がグッと下がる。旬亭も冬仕度のために温かい料理がメニューに加わる。


 煮物と焼き物、そして汁物


 ナホド月(10月)に入り服装も冬仕様になってきた、本日の旬亭には驚きの客が来店中。


「実に美味い。愁殿、君が握る寿司は極上だよ。この味ならテスタメント君がハマるのも道理だ」


 真っ赤なスーツを着用し、愁のつけた寿司を美味そうに頬張る第二天(セカンドヘブン)支配者(マスタリー)、アリ・オーグマン


 ・・・神だった。


「ありがとうございます、・・・お飲み物どうなさいますか?」


 オーグマンは愁の寿司に夢中で飲み物を頼まず食べている、せめてガリを食べてほしかったがそう言うのはちょっとたじろいでしまう。神様がお客というのは経験したことがない・・・。オーグマンは愁の内心を見透かしたように答えた。


「ふむ、では日本酒をもらおう。燗がいい、それにしよう」

「はい。アカリちゃん、熱燗一本お願い」


 アカリはコクンと頷くと裏の厨房へ駆けていく。現在店にはオーグマン一人、神が来店している為か変に緊張した空気が店中に張り詰めている。アカリもどこかよそよそしい。その空気を切り裂くかのように店の引戸がガラッと開く。入ってきたゼノは驚きと呆れ顔を隠せず


「・・・おっさん、なんでいんのよ?」

「ただの食事だよ。このあいだは一貫しか食べれなかったのでな。君たちが来る前に来店し堪能させてもらっている」


 突っ込む気力もなくゼノはいつもの席へ。そういえば、という感じでゼノが愁に話しかける。


「そういや表の張り紙に『煮物と焼き物、汁物はじめました』ってあったけどなに、焼き物あるの?」

「今日からはじめたんです、最近寒くなってきたのでそろそろかなぁと思いまして」

「今日の焼き物はなにかな?」

「今日は・・・サンマになります」

「お、じゃサンマを焼きで。あと熱燗ちょ~だい」


 愁の指示でアカリはサンマを火にかける、この時期のサンマはやはり旬を迎えているため焼き、刺し、どちらでも楽しめる。その様子をみてオーグマンも注文する


「私にもサンマを頂けるかね、できれば寿司でもらいたい」

「はい、かしこまりました」


 愁は手際よく寿司をつけオーグマンにサンマを提供、そのサンマをみてオーグマンが言葉を発す。


「生サンマか・・・珍しいな」

「この時期はやっぱり寿司ネタのサンマは生ですね、ちゃんと処理はしてありますのでお召し上がりください」


 オーグマンはサンマを頬張る。脂の乗り具合、ショウガとネギの薬味がその脂をほどよくしてくれスッと溶けていく、この時期のサンマは本当に旨いとオーグマンは改めて実感してのだった。


「・・・ふむ、これは旨い。秋を代表する味覚というわけか・・・満足、満足よ」

「おっさん、ちょくちょく地上におりてんのね・・・」

「・・・お待たせしました、熱燗です」


 アカリがオーグマンに熱燗を提供、オーグマンは熱燗を受け取り笑みを浮かべる。


「ありがとう、お嬢さん」

「アカリっち、俺っちの熱燗は~?」

「まだです、もう少しでできるので黙って待っててください」

「・・・はい」


 アカリに凄まれてしぶしぶお茶を飲むゼノ。


 そこへバージルが来店、横目でオーグマンを見据えいつもの席へ。


「・・・何故あいつがいる?」

「この間一貫しか食えなかったからって、うちは夜のみの営業なのですが暖簾を上げた瞬間にいらっしゃったので」


 若干の殺気を放ちつついつもの席へ着くバージル、オーグマンは全く気にせず食べている。気にもとめず愁に話かける


「ふむ、今日のオススメはなにかあるかね?サンマもいいが愁殿の厳選したネタを食してみたい」

「今日は・・・イカですね」


 イカの言葉を聞いたバージルが即注文をする、アカリはバージルに温燗とお茶とおしぼりを出した。

 愁の出したイカは隠し包丁が綺麗に入っていて薬味は何ものっていなかった。


「・・・ヤリイカか、『走り』になるみたいだな。いいだろう」

「ほぉ、これは見たことがないな。綺麗な白だ」


 二人の注文を見て美味そうに見えたのかゼノも注文する。

 ヤリイカを一口で食べたバージルが一言--


「・・・走りにしてはなかなかの甘さだな」


 オーグマンも思わず笑みを浮かべーーーーー


「brilliant これは美味い。噛めば噛むほどに甘みが強くなっていくように感じる。イカは「スルメイカ」が一番だと思っているがこれも良い」


 その言葉に反応するバージル。


「イカの一番がスルメイカだと?素人か貴様。イカの一番は「アオリイカ」に決まっているだろう」


 それに対しオーグマンも反論する。


「君こそ素人ではないのかね?スルメイカの噛み応えと旨味はアオリイカというイカでは出せんだろう」

「それこそ素人だ、アオリイカは新鮮ならパキパキとした歯応え、熟成させればねっとりとした甘さが出る。イカの中では最高級品だしな」


 二人の論議は徐々にエスカレートしていく、驚き顔のゼノと愁。そこにアカリが焼きサンマと熱燗を持ってくる。


「すげぇ、イカであんな盛り上がれるなんて・・・相手神だぜ?」

「・・・たしかにそうですね」


 論争はヒートアップしその炎は飛び火する、引火先はゼノだった。


「ゼノ、貴様はどう思う?」

「ゼノ君、貴公はどう思うのかね?」


 二人の言葉がハモった、熱燗を飲んでいたゼノは突然の事に思わず吹きそうになる。


「俺っちにくるかい!?・・・ん〜、俺っちは「コウイカ」かなぁ」

「コウイカだと?」


 ゼノのコウイカ発言にバージルの眉が若干上がり少々の殺気が立つ。バージルの殺気は全身を剣で貫かれるかの様に鋭い、その様子にゼノが慌てて修正する


「「スミイカ」とも言うんだっけ?」

「・・・セピアか、合格点だな」


 バージルの殺気がやみ、ホッと胸をなでおろすゼノ。一方オーグマンは首を傾げている、イカのことはスルメイカと今日食べたヤリイカしか知らない、バージルの言うアオリイカとゼノの言うスミイカのことはわからなかった。そしてゼノもいつの間にか討論に参加し、その飛び火は愁に引火した


「愁はどう思う?」

「そうだな、店主である愁殿の意見も聞いてみたい」

「愁ちゃん、ズバッと答えちゃいなよ!」


 ヒートアップし過ぎた3人に迂闊な答えは出せないが愁はーーーー


「えっと・・・寿司職人の冴島 愁ではなく一人の人間の冴島 愁で答えるなら「ホタルイカ」ですね」

「ホタルイカぁ!?」

「ホタルイカだと?」

「ホタルイカ・・・?」


 三人の言葉がシンクロする、ホタルイカは春に旬を迎える小さなイカ。夜になると発光することからその名がついた

 イカの討論はついに愁までをも巻き込み激しさを増す

 そんな論争を一人、冷静に見ていたのがアカリである。そして彼女の発言でこの論争が周りを巻き込み爆発する・・・


「それなら、それぞれのイカを食べ比べてみたらどうですか?」


 四人全員がアカリのほうを振り向く、そして一斉に叫んだ


「それだーーー!!」

「それはいいな」

「それだよアカリちゃん!!」

「goodなアイディアだレディ」


 アカリの顔はしまったという顔、愁が明日の入荷予定表に素早く書き込んでいく。


「よっしゃ、なんか盛り上がってきたな!このこと社に帰って報告してくるぢぇ〜!!」


 猛ダッシュで店を後にするゼノ。アカリはポカンとした表情でその場に立ち尽くしている。バージルは静かに酒を飲んでいるがどこか興奮気味、オーグマンは珍しいネタが食べられるという気持ちが大きいようで妙にソワソワしていた。


「(あたし、とんでもないこと言っちゃったみたい・・・)」


 かくして最高に美味いイカ決定討論は論議を超えて決定戦へとクラスアップした。この結末はいったいどこへむかうのか・・・



後編へ続く・・・


イカの詳しい解説は後編の後書きで書いていきます

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