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モノクロ

作者: アルト

 10月という寒さを肌に感じるようになる頃、午後3時半という刻は6時限目の終了5分前を指していた。窓側の一番後ろの席にいた白沢は窓の外をボーッと見て、それから小さなため息をついた。別に気が滅入っているわけではない。ただ、この席になってからほぼ毎日のようにやっていたら、いつの間にか癖になっていたのだ。

 白沢はぼんやりしながら教卓の方へ向き直った。クラスの担任でもある国語教員の授業の3割は大体どうでもいい話である。実質今も、腰痛が辛い、という授業とは1mmも関係ない話をしている。もっとも、白沢がその話に対してかく言う資格はない。腰痛の原因や治療方なんて自分には分からないからだ。

 強いて言うなら―、白沢は改めて先生の姿を見る。スーツ姿にネクタイもきちっと締めており、ややお腹が目立つ身体、



 そして、腰の周りにまとわりつく『黒いもや』




 恐らくそれが腰痛の一因を補っているのだろう。これをどうにかしない限り、先生の腰痛は治らない。幸いなことに、量は少ないため2、3日で消えるだろう。それまでの辛抱である。もっとも、当の本人はそんな事知らないだろう。



 なぜなら、この『黒いもや』が見えているのはこの中では白沢だけだからである。



 自分がどうにかする必要はない、そう結論付けると同時に授業終わりを告げるチャイムが鳴り響く。これで今日の授業は終わり、後は終礼をして帰宅するだけである。白沢はあくびをしながら、帰りの準備のため立ち上がった。






 白沢有人は俗に言う、『視える』人間であった。それは別に家系とか血筋のせいでは無い。父はサラリーマンだし、母は専業主婦、祖父母に至っては農家でいつも畑を耕している。『視える』ことは紛れもなく彼自身の能力であった。

 また、この能力は意外にも高い。『視える』のは勿論、『聞こえる』『話せる』『触れる』『感じれる』挙げ句には『祓える』ことだって出来る。自慢ではないが、下手な専門家を上回る程の能力を持っていた。

 しかし、白沢はこの能力を使い各別どうしようという気は無い。そもそも彼は、他人の不幸を喜ぶような「悪人」じゃ無ければ、他人のために身を削れるほどの「善人」では無い。学力もクラスの中間くらいで、運動神経は平均ちょい下くらいである。

 つまり、白沢有人は『視える』ことを除けば、どこにでもいる普通の人間である。






 教室から出て昇降口に向かいながら、白沢は今後の行動について考えていた。夕食まで何をしようか、数学の課題はいつまでだったか、この時間はアプリのイベントがあるから空けておくべきか……

 ふと、階段の踊り場の方をを見てみるといつもの『影』があった。この『影』は随分長くからこの学校に住み着いているらしく、白沢が体験入学に来た時には既に存在していた。この踊り場が余程気に入っているのか、その場からからピクリとも動こうとしない。

「それじゃあ、また明日」

 友人に挨拶するような感じで声をかけ、白沢はそのまま昇降口へ向かった。別にこの『影』と親しい間柄では無いが、この『影』への挨拶が白沢にとっての学校の始まりと終わりの合図になっていた。

『影』は何も言わず、いつものようにその背中を見送った。

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