4 男
少女が男のもとへ来るようになってから、10日が経とうとしていた。相変わらず少女は来る度になにか持って来る。
昨日などは毒キノコを平気で手渡して来た。正直、どこが可愛いのか説明してほしい。
今日もまた、正午少し前に扉が叩かれる。
「おはようございます!」
「ああ」
半分ほど扉を開けると、少女が笑顔を浮かべて立っているのが見えた。
「勇者様!今日は凄いものを持ってきたんですよ!」
昨日もそう言っていた気がする。毒キノコだったが。
疑いの目で男が見ていると、少女は後ろ手に隠していたものを差し出した。
「……パンか?」
「はい!とってもおいしかったので!」
紙皿に乗せられていたのは、乾燥フルーツらしきものが入ったパンだった。
毒キノコやら草や石ならまだしも、流石にパンを持って来られて礼をしないわけにはいかないだろう。男はため息をついて扉を大きく開いた。
「入れ。……茶でも淹れてやる」
***
リビングの椅子に腰掛けた少女は、落ち着かない様子で辺りを見回していた。
本の塔がそこかしこにあるからだろうか。これでも多少片付けたのだが。
男が紅茶を入れたカップを机に置くと、少女はぱっと微笑んだ。
「ありがとうございます」
特に会話もなく紅茶を飲み、パンをかじる。少女は珍しいのか未だ部屋の中を見回している。
「……お前、名前は」
そういえば名前さえ聞いていないことを思い出し、男は唐突に言葉をかけた。
「忘れました!」
「………帰れ」
「本当です!本当に忘れたんです!名前も、年も、どこに住んでたのかとかも、全部忘れました」
男の表情から何か感じたのか、まくし立てるように言葉を続ける少女。その様子に、男は何度目かわからないため息をついた。
「そんなに何もかも忘れているなら、何故私のところに?」
この嘘のつけなさそうな少女を疑っているわけではないが、つい訝しげな口調になってしまう。しかし、少女は躊躇いなく、まるで当たり前のことを説明するような調子で告げた。
「貴方が勇者様だからです。」
それは紛れもない事実である。
「勇者様は世界を救ってくださるからです。」
少女は笑う。
「僕もそうなりたいんです。世界はこんなにきれいだから。」
読みにくさ、誤字などあればご報告頂けると嬉しいです。
さっきも『乾燥』を『感想』と書いていました。
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6/10 余計な文字が入っていたため訂正しました。