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勇者様は魔法使いです!  作者:
出会い
3/10

2 男

「断る」

そう告げて、男は扉を閉めた。

少女はまだ諦めていないのか、しばらく扉を叩く音が続く。しかし半刻ほどすると音は止み、人の気配も消えた。どうやら諦めて帰ったようだ。

ため息を吐いて男はリビングに向かう。扉を開ける前に火にかけた鍋がぐつぐつと煮えたぎっていた。

火箸で軽く炭を突いて火力を弱め、床の本を拾って読書を再開する。ぺらり、とページを捲りながら男は少しだけ先の少女のことを考えた。

自分を勇者、と呼んだ。大方村の人間が話したのだろう。だが嫁とはどういう了見だろうか。そもそも…

切れ切れの考えが、徐々に文字に飲み込まれていく。数ページ進んだ時には、もう既に少女のことも村の人間のことも頭になかった。


文字を追うのが難しくなったような気がして、男は顔を上げる。時計を見ると、日暮れまで後少しという時間になっていた。

煮詰まりすぎてどろどろになり、わずかに焦げてさえいるシチューを皿に盛る。

それとパンだけの、いつもと同じ味気ない食事だ。

作業のように食事を済ませ、男は一冊のノートを開く。紙を何枚か重ねて綴じただけのそれは、日記帳がわりのものだ。

書くことは決まっている。『昨日と同じ』その一言。しかし今日は……

男は少し考え、日付の下に『昨日と概ね同じ 訪問者有り』と書き記した。


***


翌日も少女は訪ねてきた。

姦しいことこの上ない、と思いつつも男は少し扉を開ける。

「勇者様、おはようございます!

今日はお花を摘んできました! プレゼントです!」

扉の隙間から差し入れられたのは、花というよりは雑草の束のようなものだった。

「可愛いですよね」

扉の向こうから、嬉しそうな弾んだ声が届く。

「要らん」

「……じゃあ、貰ってくれたら帰ります!」

小賢しい。とはいえ、そう言われては男に受け取らない理由はなかった。

ちょうど近くにあった、貰い物の花器に放り込んでおく。

「それじゃあ、また明日! です!」

足音とともに声が遠ざかっていく。男はため息をついた。


『昨日と概ね同じ 雑草を押しつけられた』

タイトルのネーミングセンスが欲しいです。

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