1 少女
その風景は、物語の中なら、まるで絵本のような、と例えられたかもしれない。
空はどこまでも青く広がり、綿のように軽そうな白い雲が浮かんでいる。遠くに見える山々は淡く霞んではいるものの、その山頂には雪を抱いているのが見て取れた。視線を下ろすと、地面には青草が密に生え、ところどころに花を咲かせている。
そして、ゆるやかな丘の中心に、家がぽつりと建っていた。
建てられてからあまり年数が経っていないように思わせる、白い壁。屋根は赤く、青と緑の中では際立って見える。そして、なにより特徴的なのが大きな木である。屋根の中心から、まるで家を貫いているように大木が伸びている。見る角度を変えれば、家が四角形から一辺を取り除いたような形をしており中央の空間にその大木が植わっていることが見て取れるはずだ。
しかし、はじめてその家を見た少女は呆気にとられて木を見上げている。
見たところ14、5歳だろうか。腰まではある長い金髪を頭の左側で結い上げている。雄大な風景を映す大きな瞳は、若葉をそのまま宝石にしたような澄んだ緑色だ。
「…本当にここなのかなあ」
ぽつり、と少女の口から言葉が漏れる。少しの逡巡のあと、覚悟を決めたように小さな拳がそっと扉を叩いた。
沈黙がしんと広がる。人が出てくる様子はない。
もう一度、今度はずっと強く扉を叩いた。
「誰だ」
重く、低い呟くような返事とともに扉が少し開かれる。
少女はぱっと表情を輝かせ、告げた。
「勇者様、お願いです!僕をお嫁さんにしてください!」
「断る」
6/7 少し修正しました。