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ダンジョンは攻略する派、です  作者: 踊るかっぱ
9/11

9、抜け出す。補欠から-4


 重力魔法を弱め地面に降り立った後、体重を虫のように軽くし、腰を抜かした倉橋さんをお姫様抱っこして建物から建物へ飛び移り、王宮へと足早に向かった。


 部屋にあったノート関係は幸運にも一冊も盗まれておらず、『火炎魔法』で残らず消去した。


 取り敢えずスキルの『探知詮索』を使い、とある人物の気配を捉えると、他には目もくれず、一目散に駆けた。


 マジ、足早すぎ。髪の毛飛びそう。


「おっ? どうした、ゆう………ご?」

「おう、久しぶりだな。手前の罪状は言うまでもないか……まぁ、なんつうか短い異世界生活お疲れ様でした……」

「ちょ、ちょ、マジ洒落にならねぇ顔してんぞ有吾。え? やめやめやめ、」


 口角を釣り上げ魔王すら怯むような下劣な笑みを自分の顔に貼り付ける有吾。


「取り敢えず、吹っ飛べやッッッ!!」

「おい、! グベバァァァァァッッ!!!!、」

 

 天井めがけて遠慮ないチートアッパー。


 杭を打ったように天井に突き刺さる浩介。


 手のひらに付いたホコリを払う様にパンパンする。




 ◇ ◇ ◇




 【勇者組】の『弓の勇者』は攻撃特化の『槍の勇者』や防御特化の『盾の勇者』の様に一部ステータスが飛び抜けることは無く、平均的に、バランスの取れた有能な力を誇り、安定した戦力を有する。


 そんな『弓の勇者』が『一般の戯職』相手に圧倒されるなど誰も予想しない。まして、パートタイムの『調合師』に平伏すなど決してありえない。冗談ならまだしも、力で押さえつけられる事など常識的に考えて可笑しい。


 今、有吾は腕組みをし、地面に正座する浩介を、尋問している最中だ。


「んで? どういった経緯で俺が王子様なんぞと対峙しなきゃならねぇんだ」

「いや、有吾しかいなかったんだよ倉橋さんの事、任せられそうな信頼できるジェントルマン。チャラ男は無理じゃん。アレ見た目以上にチキンだし。ほら? 俺、彼女いるし」

「あぁ、成るほど……つまり、佐野くんはこの場で死にたいってことか」

「ちょ、ごめ、ごめんって!! てか、どんだけステータス上がってんだよッ。さっきのパンチ滅茶苦茶痛かったんすけど!!」

「声でけぇよ。オフレコで頼むって言っただろ。見せてやっから誰にも言うなよ」


 ポケットから黒いステータスカードを取り出し浩介に見せる。


 それと、場所が悪いから浩介の部屋に行くことにした。

 まぁ、取り敢えずは熱も冷めたし。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 八雲 有吾   男 17歳

種族 人間

戯職 調合師

Lv 83       GUILDPOINT 20

          RANK F

 

体力 274250

耐久 115460

気力 153820

俊敏 190540

魔力 237560

抗魔 245640


【スキル】

 :調合速度LvMax

 :調合精度LvMax

 :翻訳修正LvMax

 :重力魔法Lv106

 :火炎魔法Lv94

 :回復魔法Lv63

 :探知詮索

 :全毒耐性

 :成長補正

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これさ、ランクFのステータスじゃないよな」

「あぁ……」


 何かさっきからずっとレベル上がってるんだよね。

 浩介がステータスカードを見ている間に5も上がったし。

 『精霊』って後から来るタイプだったのか。


「まぁ、安心してくれ。悪いようには使わないし、俺は基本的に【補欠組】に居る予定だから」

「有吾がステータスの悪用するとは思えねぇから気にしてねぇけど。でもさ、これ見ると有吾がダンジョン攻略に付いてきてくれた方が、俄然安心するんすけどー」

「……判ってる。【補欠組】は【補欠組】でもダンジョン攻略に加わる【補欠組】にする」

「具体的な策はあるのか? いや、有吾がそこまで言うんなら、ちゃんとした解決案が有吾の頭に在るんだろうけど、聴いても良い?」


 十分傷めつけたので、もう浩介のことは気にしていない。と言うか本気で怒っていた訳でもないしな。

 倉橋さんを堪能したし。王様から奪うとか燃えるし、御の字だよ。


 あ、イケない。浩介の存在を忘れてた。


「三島を【英雄組】からスカウトする」

「ほほぅ、そりゃ意外なこった。何でや」

「とにかく、こっから先はお前の部屋で話す。どうせ駄々こねて一人部屋にしたんだろ」

「ッいいじゃねぇか、だってあの河原と同じなんだぜ。絶対やだね。悪寒が走るわ。っと、ついたついたついた」


 浩介の部屋の間取りは俺の部屋と随分違った。一人部屋の筈なのに、二人部屋の俺の部屋の三倍くらい広い。


 つまり、グランは俺ら十一人の間柄に優劣を付けておきたいのだ。

 ナメやがって。


「てかさ、有吾みたいに俺も強くなりたいんだけどー」


 まぁ当然そうなるだろうな。

 俺だって強くなりたくて『精霊』食ったんだし。


 でも……


「まぁ、他の奴ならともかく多分、浩介は無理」

「ぶーぶー。何でだよー」

「魔物になりたいか?」

「え……そんな危ない橋渡ってたんかよ」

「……うん。正直あんまりお勧めしない」

「はは、まじ気を付けろよ……」


 実際、俺のような『体質』を持っている奴以外試すべきではない。特に浩介は召喚の反動が一番長かった。

 俺だって今は平気でも、今後どんな副作用(サイドエフェクト)が及ぶのか、全くの未知の世界だ。

 念には念を入れて、ていうかすっかり忘れてた回復薬(ポーション)を持ってきてバッグポーチに突っ込んだ。


 保存液✖1

 減圧剤✖4

 強化剤✖2

 回復薬✖7


 回復薬は三本飲んでしまったので今は七本。

 かなり減ったな、と思いつつも消耗品なんだ。


 必要ならまた作りゃいい。

 保存液は厳重注意だけど。

 

 浩介は、冷蔵庫から取り出した二本のドリンクの片方を放り投げ、キャッチする。


「作戦会議かぁー昔良くやったよなー。なぁ? 有吾」

「あぁ。お陰で俺ら二人何の遊びやるにも強すぎて皆んな遊びたくなくなったけどな」

「ありゃー虚しかったぜー。でもよでもよ、そういう背景あって俺らめっちゃ仲良くなったんじゃね?」


 「そうだな」と言ってドリンクを飲み干す。随分と喉が渇いていた。『精霊』旨いけど味がしつこくて、どれも。


「さぁて、早めに三島ちゃんを引き込もう作戦会議始めよう。飯の時間までそんなに余裕ないから、な」

「おう! やってやろ…………う…………ぜぇ?………………………ちゃん?……………………………………………」

「別に、オトコに俺は興味無いからな」


 念を押しておく。

 本当にそっち方面で勘違いされたくない。

 

「……あいつ女。間違いない」

「ナニ? え? じゃあ今有吾は女の子と同棲してんのっ?!」

「あぁ、そうなるな」

「うーわっ、うーわっ、うーわっ。変態め、ロリコンチート野郎とか、もう死ねッ」

「大丈夫だ。向こうは俺が知っている事を知らない。だから、今度一緒にお風呂入ろうって、からかう予定あるから」

「同席求む」

「よし、全てが終わったら早良に報告してやる」

「勘弁して……」



 それから10分位計画の説明をした。


 首を縦に振る浩介を見る限り理解はしてくれたようだ。


「つまり俺は夕飯終わった後にグランさんを引き止めて、話し合いに同席すりゃいいのか?」

「あぁ、そうしてくれ。俺は表向きには『無能』なままで行くしかないからな。そうなると浩介の勇者としての発言力が欲しい」

「りょーかいしました!!」


 俺の馬鹿みたいなチートは安安と見せるもんじゃない。

 と言うか見せたところで信用されるかどうかねー。


「じゃあ俺は三島に連絡したついでに、そのまま食堂に向かうわ」

「おう、襲うなよ」

「まだ襲わねーよ。バーカ」

 



 ◆ ◆ ◆




 三島視点



 私は女です。


 男装しているのは科学者になりたくて夢を追っているからです。理由何てのはそれだけで、女性だと立場が悪くなるのだとか。良くわかりませんけど夢のためなら私はやります。

 でも、今は夢を追い続けられる様な状況には、ありません。唯一の心の支えであった科学者になるという希望がヘンテコな世界に連れて来れられ、途絶えた瞬間、私はひたすら絶望しました。


 何ですか、闘うって。


 何ですか、助けてくれって。


 何ですか、全員揃って賛成なんかして。


 ただ、科学者になれるかもしれない、という(すが)れるモノがあったからいじめられる事も、親から軽率に扱われる事にも耐えられました。


 周りが憎くなりました。


 ヘンテコな世界に来て八雲 有吾という人に私は会いました。キリッとした目つきに切り替えの早そうな人でした。男の人と相部屋には、大きな恐怖感がありました。

 男装しているのがバレてしまうかもしれない。


 とても怖かったです。


 彼とは、初めは殆ど喋ることもありませんでした。


 いつの日かの夜。この日を転機に私の世界観は一変しました。何もかも。


 見知らぬ土地で過ごすにつれ日々増してゆくホームシック感に加え、いじめ、孤独、絶望から寝付けず私は盛大に泣きしました。

 涙が止まらなかったのです。

 そのとき顔に布地のモノがいきなり被せられました。次に温かい感触が、背中をゆっくりと擦ってくれました。

 その私は気付きました。嗚咽、鼻水を啜る音が部屋に響き、彼を起こしてしまったのだと。

 必死に止めようとして息を詰めていると「泣きたいなら泣け。今回だけ許してやる」と彼は言ってくれました。

 どれだけ甘美な響きだった事しょう。

 私はあの一言で今生きているのかもしれません。

 決してずっと甘える事は許さない、だけど、今なら立ち止まって嫌な事を全て吐き出せ、と言われているみたいでした。

 私の勘違いかもしれませんが、私にとっては救いの手綱でした。


 もう、生涯二度とあの夜の事を忘れる日は無いでしょう。


 それから、私の日々が変わりました。


 今では気付けば、彼を目で追っています。彼は、クラスで一番弱いんだそうです。こんな私よりも。でも彼はずっと目の前の事に全力で必死でした。特に、すり鉢で擦っている姿が一番のお気に入りです。あの滴る玉の汗が何とも言えません。

 そんな彼を見て私は、強くなる事を決意しました。私はどうやら、まほう、が使えるらしいので、彼の役に立ちたい。

 何でもいい。

 今、自分に出来る事を何かやっておけば、彼の助けになる事があるかもしれない。そう強く思いました。

 その日から私はいつにも増して修練に励みました。彼のように全力投球です。

 河原くんの嫌がらせが全く気になりません。一体これは何でしょう。世界がまるで変わったみたいです。彼は、私の救世主なのでしょうか。


 1週間くらい経って彼が突然しおらしくなってしまいました。私は、応援したい気分になりましたが、何をしていいか全くわかりませんでした。だからせめて彼の前では絶対に笑顔で振る舞いました。

 

 彼は朝早い時間帯から、起き出してはコソコソ作業をしているようでした。日中も何か机に向かって必死にノートを開いてはペンを走らせていました。


 もう、ずっと見ていたかったです。


 テレビやゲームは娯楽のはずなのに、彼を見ている方が全然、楽しいです。

 胸が張り裂けそうなくらい楽しいのです。

 何でしょうこの言葉で表せない感情は……



 ガチャッ



「ひゃぁっ!」


 突然、部屋のドアが開き反射的に声を上げてしまいました。


 彼です。あぁ、彼です。

 

 普通、ルームメイトが入室したら声を掛ける筈なのに、言葉が出てきません。 


「おぉ、三島ここに居たんか。良かった良かった。王宮中全部探しちまったわ」


 私が、先ほど戻ってきたので、きっと行き違いになってしまったのでしょう。


 しかし、彼は、王宮の中を私を探して回ったのです。罪悪感よりも背徳感が私を満たしています。私はイケない子なのでしょうか。


「どうかしたか、三島?」

「あ、あ、ああううん。なんでもない。ゆ、ゆうごは、どうしたの?」


 うぅ~、私のバカぁ。しっかり喋ってよ~。うぅう。


「んと、こういう時は単純に、簡単に言ったほうがいいんだっけ、か」

「?!」

「――、三島。


 俺の【補欠組】に来てくれないか?」


 私の時間軸は凍り付いたように止まりました。

すいません。今回は紹介なしです。そのうちどこかで一話分使ってまとめます。



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