3、副委員長
段々と横で顔色が悪くなる親友を察したのか、浩介は未だに有吾に声を掛けることが出来なかった。
「あぁ……俺……どうしよ。これ逃げようにも俊敏が足りないよ……な。幾ら体力あっても、これじゃあ……無理だわ」
本当に分かり易い落ち込み方をするもんだ。これは聞かないほうが良いのか。
「あ……浩介、お前はどうだった?」
居たんだ? 見たいな目を向ける親友。旗から見れば、プレゼント貰えなかった小学生が拗る姿に酷似している。
「ど、どうせなら、見せッこするか?」
振り絞るように、浩介は苦肉の策でそう言った。女子のお弁当のおかず交換みたいで照れるどころではない。湯が湧きそうだった。
しかし、落ち込んだ意気消沈の有吾など、浩介は見ていられないのだ。
有吾は昔から何でも率先し、先立って何事も自分より早く、知らぬ間に、有吾はいち早くスタートを切っている。その行動力を浩介は半ば嫉妬するくらい羨ましがってたのだ、だからこんな時に落ち込まれては困る。
「ははは、見してくれ。そして慰めろ、マジ泣きたいぜ……」
浩介は、有吾のステータスカードを受け取りマジマジと眺める。
体力以外すべて平均以下、戯職も調合師と、サラリーマンの様にどこにでも居そうな、オタクである有吾にマジでフォローが効かない、ステータスだった。
「……浩介、お前、弓の勇者ってどういう事だよ、あぁん? ナメてんのか?」
こう反論する気になっただけ何時もの有吾一歩戻ったのだと、安堵の息を漏らす、浩介。
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名前 佐野 浩介 男 17歳
種族 人間
戯職 弓の勇者
Lv 1 GUILDPOINT 0
体力 100
耐久 100
気力 200
俊敏 100
魔力 100
抗魔 100
【スキル】
:通常速射LvMax
:魔力回復Lv1
:翻訳修正Lv1
:全属性補正
:火矢威力(大)
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キング・オブ・ザ・チート。
幾ら勇者でも初期ステータスが平均値の六倍超えとか反則だろ。「すまん」と浩介に謎の謝罪をされたが、別に気分が悪いわけでもない。有吾はもう、この調合師としてやって行くしかないと、折り合いを付けてしまったのだ。心のダメージも少しは和らぐ。
「基本的に魔力が高いと大抵のステータスは底上げされます。これから一通り流れを皆様には戯職に合った武器を王宮にて提供します……」
アイリスのくぐもった声が聴こえる。
それに有吾の耳がぴくりと反応する。
ん? 待てよ待てよ。調合師って武器何使うの? 非戦闘員とかに区分されるんじゃないのか。
「アイリスさん。その……このカードってメイドインジャパンなんですか? どういう仕組みで動いてるんすか?」
柴原が空気を読まずして突っ込みを入れる。柴原は俺を超えるカス脳内回路を持つためしょうが無い。つか、メイドインジャパンって、一度でもコレを日本で見たのかよ、どんだけ日本ラブなんだあいつ。ホームシック第一候補だな。
と、精神的な面からダメージを負った有吾はクラスメイトの発言に激しく内心で毒づいた。
「あぁ、このカードはですね、大昔、伝説の錬金術師が錬成した魔石の成分を受け継いだ代物と言われています。このカードの場合ですと本人を一度認めると、ステータスを記憶し与えられた能力を発揮する万能魔具となります。この様な魔石を使った道具をカートニアでは万具と呼んでいます」
「え……じゃあ他にも万具は、在るんですか?」
三人の中で最も知的な河原は展開のの早い質問をする。恐らく、河原の狂気な目から察するに、万具由来の武器が或のか、探しているのだろう。自分達を守るのは武器である事を判っているだけまだマシかもしれない。クラスメイトの女子や三島を合わせた六人は呆けたままなのだから。
因みに有吾が気にしまくって、鬱になりかけたステータスも、レベリングと同時に上がるの型と、努力し磨いて上昇する二つを併せた合計値で記録されるので、余程怠けない限り、下がることは無いらしい。
簡単に言えば、RPGゲームの様にレベリングと同時に無条件に上がるのと、現実世界の様に走る練習して体力がつくのと、二つあり、それを併せた各ステータスの上昇値になるらしい。
つまり、調合師の有吾も滅茶苦茶に努力しまくれば、ステータスが長期的に伸びる可能性は少しだけならあるのだ。それだけ聞いてちょっと安心した有吾。ただし、戯職は意識的に変えようが無いらしい。本人の才能のベクトルが極端に傾かない限り、戯職は滅多に変化しないし付随もされないのだとか。
「万具は街一つの年俸を遥かに超える貴重品です。格付けもされていて、通常一般の方には生涯目に止まることの無い、最上の国宝級万具などあります、が、今回は適材適所、私達が皆様に合う万具を惜しみなくプレゼント致します」
クラス中から歓喜の声が、湧く。ただし有吾は浮かれた気分になれなかった。どう考えても調合師に合う最高級の万具が有るようには、一般的思考から思えなかった。
「じゃあ、早速。アイリスさんに見せねないとなッ!!」
と、立ち上がる、元気満載の柊木。
柊木はこの中で良いも悪いも、感情を表に出す。心情が分かり易い奴だ。あいつが国語の問題だったら全問正解できる自信があるくらいに。
続々とアイリスの前に列ができる。
俺と浩介は、浩介を最後に最後尾に並ぶ。後ろに浩介が居るのは俺のステータスがトリでは気の毒だとわざわざ、余計な気を使ったのだろう。
「おぉ、これは素晴らしいです。柊木様。」
「え? そうですか?」
にへらとニヤける柊木。その様子からハイスペックなステータスを授かったのだろう。苛々が止まらない有吾。後ろでの浩介もかなり困った表示を作り、取り繕うのに必死。
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名前 柊木 春樹 男 18歳
種族 人間
戯職 槍の勇者
Lv 1 GUILDPOINT 0
体力 200
耐久 100
気力 100
俊敏 100
魔力 100
抗魔 100
【スキル】
:魔力回復Lv1
:翻訳修正Lv1
:全属性補正
:強羅雷神
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勇者二人目。
ナメとんのかおのれは。
「うわぁ、春樹すげぇな、お前」
柴原が前方で声を上げる。
因みにプライバシーポリシーを知らないのか、この国は。ステータスが前方のスクリーンに大きく表示されていやがる。
後、数分も経てば俺のゴミステータスも上映されるのかと思うと、鳥肌が立つ。
まぁ、ボッチじゃねぇからイジメられることは無いと思うが、相応の笑いものだろうな。
「あ、あの……八雲くんと佐野くん……だよね」
突如、前列から踵を返したのか、翻した女の子がコチラに迫ってきた。
ちなみに、初回から一度きりで、全く出てこなかった八雲とは俺の苗字で、佐野とは浩介の事である。
160後半の女子としては中々の長身にスレンダーな身体のライン、黒髪でボリュームのあるボブカットに誰に対しても気さくな女の子で、三年E組の副委員長、橘 みすず。
「あ、橘さんッ。今日も可愛いですね〜。いくら何でも、ソレじゃあー直線過ぎません〜??」
「ちょ?! 違うから!! 佐野くん殺すよよよ!?」
浩介が謎の爆弾投下で掻き回し、少し注目を浴びる、後方の俺ら。
面倒なので手っ取り早くお引き取り願おう。
「あの、それで副委員長。俺等にどう言ったご用件で?」
「何で畏まった言い方なんだ。もっとオブラートに包んで、な、ついでに副委員長、有吾に用があるんだよ」
「いや、オブラートに包んだら畏まるだろ」
「あれ? まぁいっか。でで、橘さんは有吾に何の? ご相談???」
副委員長はコホンと小さい咳払いをすると、慌て蓋めいた調子を取り戻そうとしていた。
僅かに朱に染めた頬が残っているが、本人的には落ち着いたらしい。
「八雲くんと、佐野くんはどう思う? こうやってクラスの皆が戦いに参加する事を、さ」
浩介が俺に「副委員長は、考え過ぎるところあるからちゃんと返してやれ」と耳打ちされた。
あぁ、と浩介に適当に返事し、副委員長と向き合う。
「……俺は、世界が違っても人間が困ってるって言われて、何もしないまま、元の世界に還ってから勉強する気にはなれないよ」
偽善でもいい。副委員長を納得させられるなら。
ただ、この場に居るアイリスを含む異世界人は俺らを逃がす気は無い。確実に。品定めをするような目に、欲を掻き立てる言い回し。どうせ帰ると言っても、帰る手段は有りませんとか言われるのがオチだ。第一、クラスの中心人物と重点を置いて会話しているのが怪しい。傍から見れば、まるで主導権を欲しっている様にしか見えない。
だから、俺らで副委員長を治めておくのがベスト、だと浩介も思っている。
「有吾の理論も一理あるよな。まぁ、橘さん真面目だからさ、戦いとか、みんな危ない事やりだしてるのが引っ掛かるんだろ?」
橘 みすずは、この世界に召喚された中で、唯一の委員長席だ。委員長ともう一人の副委員長は召喚時、教室にはいなかったため、異世界に来たのは橘のみになった。橘は一人クラスを導かなければならない、と真剣に考えていた。偉そうに言えることではないが、皆で無事に元の世界に帰る事こそが最善策だと信じている。
「あれでしょ、副委員長が言いたい事はさ、あのイケメン三人組の流れが不味いって事でしょ?」
「……八雲くんの言う通りです。このまま闘って誰か居なくなったりしたら本当にどうしていいか……」
「副委員長。ステータスカード見せてよ」
俺の唐突な発言に、ビクッと肩を上げる。
渋りながらも副委員長は手に持ったステータスカードを差し出した。
俺は受け取ると同時に俺のカードも差し出し、不公平だから見るように言った。
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名前 橘 みすず 女 18歳
種族 人間
戯職 蘇生師
Lv 1 GUILDPOINT 0
体力 20
耐久 10
気力 10
俊敏 10
魔力 200
抗魔 100
【スキル】
:蘇生速度Lv1
:翻訳修正Lv1
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うわ、魔力勇者超えだよ。
副委員長は俺のカードを持ちながら、どうコメントしていいのか、オロオロしている。流石に副委員長の様にオタクに免疫がない女の子でも、俺のカードを一目見れば弱い事くらい判るようだ。
「見てのとおりだよ、副委員長。俺は多分クラスの中で一番弱い。だから守って欲しい。勿論、裏方で精一杯頑張るし、囮だって何だってやる」
「でも……それじゃ八雲くんが、駄目よっ」
「死なないよ。副委員長は蘇生師だ。これからは、副委員長として役目を果たして欲しいと思ってる」
有吾の後ろでうんうんと、頷く浩介。
「八雲くんがそう言うなら……仕方ない。とりあえずは、了解です……八雲くんや佐野くんの言う様にみんなを守ることを最善に動きます。もじもじしません。ありがとうございました」
スタタターと元いた列に戻る副委員長を迎え入れる女子。何やら話しているようだが、騒がしい前方のせいで、全く聞こえない。
「副委員長、有吾にベタ惚れだよな。死んで欲しくないオーラ全開じゃん。めっちゃ羨ましいわ……コンチクショウ」
「……ベタ惚れかどうかは知らんが、好かれているのは、前々から判っていたぞ」
「マジかよ、知っててなんで手出さないん? 副委員長、結構人気なんだぜ。美人で気が利いて、陸上部だし」
陸上が何故ステイタスになるかは聞かないとして、有吾は正面に向き直った。
副委員長が前々から近付いてきたのは俺もなんとなく察していた事だ。鈍感ラノベ主人公じゃないから、そんなの直ぐに気付く。最も、浩介の方が先に気付いていたんだが。色々、アプローチの手助けをしていたらしいし。
「あぁ、可愛いと思うし、是非俺の彼女にしたいね」
「なら、断る理由無くね? 夏を待たずに、脱童貞出来ると思うぞ。副委員長のあの惚れ込みっぷりなら……」
「……浩介、知らねぇのか?」
有吾は神妙な顔をして、浩介の方を向く。浩介は思わず萎縮しそうになるが、「知らねぇ……」と言って、話の続きを催促する。
「副委員長に告った一年二人と二年の五人、三年の一人、全員次の日から学校に来て無いんだよ」
開いた口が塞がらない、その意味を初めて実感し理解したと同時に、ことの時ようやく、有吾が副委員長に対して、ずっとアプローチを避け、素っ気ない態度をしていたのか、はっきりと理解した。
「犯人わかるまでは、卒業出来なさそうなんだわ」
副委員長は、馬鹿みたいに人を信用します。
後、蘇生師ですが、死んだ人間は生き還りません。