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1.

「はじめまして、あの、なんてお呼びすれば良いでしょうか?」

俺の目の前に、雇用主(クライアント)の愛娘である少女が現れた。

長い銀髪(プラチナブロンド)と真紅の瞳を持つその少女は

今まで逢って来たどんな美女よりも美しく、俺は一目で少女に参ってしまった。

「はじめまして、お嬢様。貴女のお好きな様にお呼び下さい」

「…では、熊小父様(アンクルベア)とお呼びしても宜しいですか?

 貴方は、大きくて優しい熊さんみたいだから!」

悪戯っぽく微笑む少女。その愛らしさにぶっ倒れそうだ。

「ご随意に。我が姫君。俺は今この時より貴女を命に替えても御護りします」

少女はおずおずと右手を差し出す。俺は跪き、少女の手の甲にキスをした。

白磁の様な頬を染める少女。そして俺は、少女の守護者(ガードマン)となった。


「ベア、モンキー、お願いが有るの…」

瞳に涙を溜めた少女が俺達の元を訪れた。

彼女の後ろに彼女付きのメイド、セラが困ったような表情で立っている。

俺がお嬢様のガードとなって三年が経つ。

歳を重ねるごとに美しくなって行く少女は現在十五歳となり、

可憐な少女の香りに艶やかな大人の匂いを加えつつ有り、

満開寸前の白薔薇の様な趣を湛えている。

彼女は美しいだけではない。聖母の様に優しく、慈悲深く、

そして誰にでも、どんな時にも笑顔を絶やさずに向ける。

彼女の微笑みは俺達の誇りであり、それを消す者は何人たりとも赦せない。

その彼女が涙を流している。俺と相棒はガタ、と立ち上がった。


「お嬢様、どうなさいました?何でも言って下さい!この俺に!」

モンキーが吼える。調子の良いヤツだが頼りになる相棒だ。

「…あのね、助けて欲しい女の子が居るの」

俺はそれが誰だかピン、と来た。

お嬢様は現在、とある名門女子校に通っている。

通学途中、余り治安の良くない地区も通るので送り迎えの車には俺か相棒が必ず同乗する。

その治安の良くない地区を通る時、お嬢様は一生懸命窓の外を凝視し、

何かを探し、見付けると輝くような微笑を見せ、見付けられないと寂しそうに俯く。

お嬢様の視線を独り占めするその相手は、黒目黒髪の少女だった。

その少女は小さな子供達を集めて遊んでやっていたり、犬猫の中心で戯れていたり、

時には近所の子を預かりでもしたのか、赤ん坊を背負っている事も有る。

お嬢様の彼女を見る視線は、おそらく憧れだろう。

裕福な家に縛られている自分に無いものを彼女に感じている。

また、いつも子供や動物に慕われている少女に深い優しさを感じているのだろう。

お嬢様が本当に信頼できるのは、今の屋敷の使用人と、後は父親だけであるから…。

そして、意を決したお嬢様は今日の学校からの帰り道、少女に声を掛ける為に車を停めさせた。

しかし、少女はお嬢様が車から降りる寸前に数人の少年に囲まれ車に乗せられ、連れて行かれた。


「女の子?ご友人ですか?」モンキーが聞く。

お嬢様は首を振り、

「今は違うの。でも、お友達になって欲しい娘なの…」

ルビーの瞳から、ダイアモンドの涙が零れ落ちる。

「…今日、声を掛けようとしていたあの少女ですね?」

俺がお嬢様に問い掛けると、こくん、と頷いた。

「お嬢様、いけません。あの様な娘に関わっては。ご主人様(マスター)に叱られますよ」

セラがおろおろと説得する。おそらく、かなり前から説得し続けているのだろうが、

お嬢様は諦めきれずに俺達の所へ来てしまったのだろう。

「ベア、モンキー、貴方達からもお嬢様に何か仰ってください」

セラが俺達に懇願する。セラに惚れているモンキーは困ったように黙り込み、座った。

「お嬢様、俺はあの少女の事を少し調べておきました。

 彼女は現在、ある不良グループのリーダーの情婦(おんな)です。

 また、恐らく今日少女を連れ去ったのは対立しているグループの連中です。

 あの少女はお嬢様の思われている様な普通の少女では有りません」

セラが真っ青になる。

「ベア!そんな事をお嬢様に言わなくても…!」

俺は構わず続ける。

「お嬢様、貴女の彼女に対するお気持ちは、捨てられている野良猫を助ける程度ですか?

 もしその程度ならお止めなさい。それでは彼女をもっと傷付けるだけです」

お嬢様はしっかりと俺の目を見詰めながら答えた。

「いいえ、私には解るの。あの娘はとても優しくて強い娘。

 そして、本当の悲しさと辛さを知って、それでも優しさを捨てない娘。

 だから、私は彼女と友達になりたい。彼女に預けたい…」


俺は頷き、立ち上がる。

「さて、相棒!仕事だ。行くぞ」

相棒もやれやれ、といった風情で立ち上がる。

「俺達にはちょっと理解し難いが、お嬢様と同じ

 日本人(ヤポーネ)の血が流れているお前にははっきり理解できたようだな」

「ベア!モンキー!」セラが声を上げる。

「すまんな、セラ。RR(くるま)を廻してくれ」

俺がセラに言うと、セラも諦めたように溜息を付いた。

「悪いな、セラ。キミの頼みは天使のお願いだが、お嬢様の頼みは女神のお願いなんだ」

モンキーがヘタなフォローを入れる。

「…解りました。手配します」

「ありがとう!ベア、モンキー、大好き!!」

お嬢様が俺に抱き付き、頬にキスをしてくれる。

「あっ!良いな〜」羨ましそうに声を上げるモンキーにもキスをするお嬢様。

「セラにもね!」セラもキスをされ、思わずにやけている。

「さて、ご褒美を前払いしてもらったんだ。気合入れて行くぜ!」

五分後、俺達は車に乗り込み、俺が調べておいた不良グループのアジトである

町外れの教会の廃墟に向かって出発した。






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