01 絶恋[1]
変更ばかりで申し訳ありませんm(__)m
ケータイで投稿する時、文字数が多いと不便なので文字数を減らすために細切れにさせていただきました。
その分早いペースで投稿ができればいいなと思っています。
「ただいまーって何コレ」
私が学校から帰ると、私の兄3人がリビングにいた。
ごく一般的な一軒家。ソファー二脚が置かれた団欒スペースとダイニングキッチンが一緒のそれほど広くはないリビングにて。
そこでは3人の兄達がソファーに腰掛け、暗い表情で机の中心に置かれたゲームのパッケージを囲んでいた。まるでお通夜のような雰囲気に気圧された私は少し後ずさる。
「た、ただいまー」
「……」
「お、お兄ちゃんがリビングに集まるなんて珍しいねー」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
「…そのゲームがど」
「なあ妹」
どうかしたのと続けようとしたところで兄の1人、真哉が私の言葉を遮った。
「妹。お前はこのゲームを知っているか、いや、知っているな??」
「この…“絶恋”??」
机を覗くとそこには“絶恋”というタイトルの恋愛シュミレーションゲームがあった。どうやらこれがこの部屋に漂う重たい空気の原因らしい。
「そうだ。当然お前は知っているだろう、なぜなら俺の妹の趣味は模擬恋愛だからな」
「模擬じゃない、恋愛シュミレーションゲーム」
「はっ」
馬鹿にしたように鼻で笑うのは真兄こと橘真哉。ただし顔は笑っていない。笑う心の余裕がないくらいに危機迫るオーラにこれはかなり不味い状況かもしれないと不安を覚える。
彼は橘家の長男。現在、超一流大学に通う一年生。プライドの高さと母親譲りのゲーム好きが祟り、中二病を引き摺った俺様口調が残念な兄だ。彼はリビングどころか外に出ることすらめったにないので兄が3人揃うことは我が家では奇跡に近い。とことんひきこもり…インドアな兄だ。そんな兄達がリビングで乙女ゲームを囲んでお通夜ってる…謎だ。
「真兄だって恋愛シュミレーションゲームするくせに。…知ってるよ。“絶恋”でしょ??今月発売の乙女ゲームだよ」
よくわからない状況に戸惑いながらも返事をする。
ちなみに女性向け恋愛シュミレーションゲームのことを乙女ゲームと言う。
「ふむ。では妹。そのゲームの内容は知ってるか??」
「まだ。だってそれ発売3日前だよ??」
ではなぜここにあるのかと言うと、理由は私達兄弟の母、橘祭にある。
うちの母親は有名ゲーム製作会社でクリエイターをしている。社でも結構なお偉いさんだそうなので、私は母親に頼んで発売日前に自宅に自社の開発したゲームをタダで貰っているというわけだ。
パッケージを手にとって製作会社を見る。うん、母親の会社のゲームだ。
「たぶんお母さんが私のために貰ってきたやつだよ。“絶恋”…??学園ものだってことぐらいしか知らないけど…」
ゲームつながりの友人から注目作品だと教えられていたので欲しいとは思っていたのだが、どんな作品なのかは知らない。そういえば彼女もどんなキャラがいるとか詳しいことは教えてくれなかった。
「まさか、それは本当に発売される商品なのか…!?」
「だと思う」
「そうか、既に手遅れか…!!」
私の話を聞いた瞬間、崩れ落ちる兄3人。…手遅れ??謎は深まるばかりだ。
「…このゲームがどうしたの??」
「麻哉ちゃん、悪いことは言わない。そのゲームはしない方がいい」
「竜兄まで…どうして??」
弱々しくはあるが笑みを浮かべて私に忠告する兄。
竜兄というのは次男、橘竜哉の呼称。区別する必要を感じたらお兄ちゃん、ではなく竜哉だったら竜兄と名前に兄を付けて私は呼んでいる。
彼は私と同じ高校に通う現在3年生で、先輩でもある。少しSの気があるが、妹思いの優しい性格。笑顔が素敵な好青年だ。
そんな竜兄の笑みが凍りつくこのゲーム、よほどヤバいものとみた。
「というか、お兄ちゃん達このゲームやったの!?男3人で男おとすゲームやるとか…ないわー」
「違うっつーの、俺らはそのパッケージと中の説明書を読んだだけ。プレイなんて恐くてできるかよ」
寒気に襲われたように体を震わせるのは三男の橘篤哉。県有数の進学校に通う、これまた頭の良い高校2年生。黒ぶち眼鏡が似合う頭の良い優等生の兄だが、その実、かなり女にだらしなく、妹の私にさえセクハラまがいのことをしてくるような節操なし。
「普通の乙女ゲームと何も変わらないように見えるけど…っ!?」
そう思ったら私も寒気に襲われた。下を見れば篤兄が私の足を人差し指で太股をなぞっていたので思いっきり叩く。
「痛っ!!」
「足を触るな、変態!!」
「いーじゃん、傷心中の俺を慰めると思ってさ」
顔を赤くしながらも篤兄を叱咤すると彼は爽やかだった笑顔を歪めて右手を擦る。篤哉は可愛いものや綺麗なものが大好きで、美意識が高い。残念なのはその美意識が特に女の子に対して発揮されるということだ。
「久々に妹とスキンシップが出来て俺ってば幸せ」
「傷心中じゃないの…??」
篤哉は楽天的な性格なので真哉、竜哉よりは沈んではいないよう。私はボソッと呟いて真兄に向き直った。