表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

再び一年三組のクラスへ

今回は少し長めです。

それでも最後まで付き合ってくれれば幸いです。

 学園内はそこら辺の女子校より広いので、教室に着くまで約八分ほどかかった。だいぶゆっくり歩いていたが。

 一年三組を廊下の窓から覗きこむ。

 先生が教科書の問題を読んでいる。どうも英文を訳す問題らしいのだが、佐倉は英語の成績が(十段階評価で)万年2ぐらいだったので、何を言っているか全くわからない。

「□◎※@$%&☆△℃¢〆¥。これ分かる奴いるか?」

「分かるか―っ!!」

 思わず叫んでしまった。

 それにしてもすごい文字化けのしようである。全く何を言っているのかわからなかった。

 授業が終わるまであと数分。それまでこれを聞いているのにはおそらく体力が足りない。

「これは……、よし逃げるか」

 佐倉は隣のクラスに向かった。


 隣のクラス、つまり一年四組では現代文をやっていた。

 佐倉は壁を通り抜け教室に入った。教室のど真ん中の空中を陣取る。どうしても上からみんなを見下ろすような形になってしまって、多少の後ろめたさもあったが、今までもずっとそうだったので慣れてしまった。



(あいつ……誰だ?)

 玉崎沙乃たまざきさのはいきなり入ってきた幽霊を見て驚いた。

(浮いているから、人間ではないよな)

 そう考えつつ凝視していると、その幽霊がいきなり振り返ったので、すぐ目を逸らし気付いていないフリをした。

「そろそろ時間だから今日はここまでにしよう。課題を出すからやっておけよ―――…」

 先生の声は聞こえてはいたが、頭には入ってこなかった。

 後で友達に聞こうとかぼんやり考えながら、ずっと幽霊を見ていた。



 キーン コーン カーン コーン


 佐倉はチャイムが鳴ると早速三組に行こうとした。その時の考え方はさすが幽霊と言ったところか、廊下に出ず、直接四組と三組の壁を通り抜けようとした。

 四組は三組の右隣なので、後ろの壁を通れば、三組の黒板の辺りから生えてくることになる。

「さすが私、冴えてるぅ~」

 自画自讃しながら佐倉は教室の後ろの壁に消えていった。



(行っちゃった……。なんだったんだろう、ほんと)

 玉崎は他の人に怪しまれない程度に幽霊の謎な行動を見ていた。

「沙乃~、次教室移動だから一緒に行こう」

「あ、ああ、うん。そうだね」

 いきなり声をかけられて玉崎は我に返った。そして、さっき見たものは一度頭の隅に追いやり、授業を受けることに専念することにした。



「っ!!!」

 夜野原はいきなり黒板から生首が生えてきたので、今までにないほど驚いた。

「やっほー」

 そんな人の気も知らず、気軽に声をかけてくる佐倉。

 夜野原は佐倉の頭を叩きたくなったけど、そんなことをしては目立ってしまう。それはどう考えても良い流れではない。どのみち、幽霊には触れないだろう。

「いや、さっき四組の授業、ちらっとだけ見てきたんだけど、最後をちょろっと聞いただけだから、何やってるか全くわかんなかったよ。しかも現代文とか、作品の内容が全くわからないから、授業どころじゃないよ。やっぱ、見るんだったら最初から最後までじゃないとダメだね」

 佐倉はこの1時限分で学んだことを暴露する。話し方はまるで、昔からの親友のようだ。

「……私、あなたと友達になった覚えはないのですが」

「私にとって視える人は全員友達だよ~。どうせやることもないんでしょう?」

 少し癇に障る言葉ではあったが、言い返すこともできないので、夜野原はせめてもの抵抗と、眼を逸らした。

「あれ、拗ねちゃった。そんなに強がりたいなら、友達作ろうよ、ちゃんとした人」

 夜野原はその言葉で完全に怒ってしまった。それでもできるだけ平静を保つ。

「あなたには分からないでしょうね、やりたくてもできない人の気持ちなんて。そんな相手のことも知らず、勝手なことを言わないでください」

 夜野原は佐倉と目を合わせない。合わせることができない。

 本当は、たとえ幽霊であっても友達がほしい。それでもつい言ってしまう。相手を拒絶するようなことを。

 そのせいで何人も傷つけた。友だちになろうと言ってくれたのに、自分から突き放してしまった。

(私はなんてひどい人なのだろう。こんなにも優しく接してくれているのに……)

 もう息苦しくて居づらくなった夜野原は、佐倉の目から逃げるようにして立ち上がろうとした。

「じゃあさ、私、伶歌の友達見つけてくるからさ。それでいいでしょ? 全部丸く収まる」

「……」

驚いた。声にも顔にも出さなかったけれど、驚いた。

私にそんなことを言ってくれたのは佐倉が初めてだ。嬉しい。

「あ……、」

その申し出を受けたい。でも、あんなひどいことを言ったのに、自分にとって利がある話になった途端手のひらを返すなど、虫が良すぎる。

「そんなでまかせ、誰も信じませんよ」

「大丈夫、伶歌なら信じてくれる」

夜野原は呆れた。

(なんの根拠もないくせに)

それでもだんだんその“ない根拠”に賭けてみようかな、という気持ちになってきた。

「……私の負けです」

「じゃあ――」

「はい、あなたの友達になってあげますよ。ついでに私の友達を増やしてくれるともっといいです」

夜野原は途中で目を逸らす。佐倉はその目線の先に移動し、顔を覗き込む。

「当然だよ。だって友達だもんっ」


夜野原は真の友達の良さを理解できたような気がした。

最後に評価と感想もお願いできたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ