第7話 「危機」
――――――総理官邸
この日、官邸内は騒がしかった。
理由は反政府組織に機密情報は取られさらに政府のデータ管理センターの部隊管理コンピュータがやられたからだ。
「全く、話にならん。たかが反政府組織ごときにやられるとはな」
総理と官房長官の2人は廊下を歩きながら話していた。
「ごもっともです。しかしご安心ください」
官房長官はニヤリと笑った。
「我々が誇る精鋭の中の精鋭である国家特別機動部隊を前線に配備いたしました。奴らは首都圏は愚か前線をも突破することはできないでしょう」
「そうか。ところで例の兵器は完成したのか?」
「いえ。しかしあともう少しのところで完成するとのことです」
「奴らも気づいていますがもう手遅れでしょう」
「よし。あれが完成したら奴らを潰し我々に逆らう者も居ない我々の国を創りあげよう」
総理は笑いながら部屋に入っていった。
――――――国民守備隊基地(第3治安維持部隊基地)
「お~い、起きろ~」
俺は起床時刻よりも早くオオハシ教官に起こされた。
「ん?、きょ、教官! どうしたんです? こんな朝早くに?」
目をこすりながら俺は起き上がった。
「君の任務の結果。見させてもらったよ。よくやったな」
ニコッとオオハシ教官は笑った。
「ありがとうございます」
俺は寝ぼけながらも言った。
「実は君を起こしたのは理由があるんだ。すぐに支度して戦闘電子課に来て欲しい」
そう言うとオオハシ教官は部屋を出ていった。
時計を見ると針は午前1時を指していた。
俺はすぐに支度を済まし戦闘電子課へと向かった。
戦闘電子課に着くとオオハシ教官とシオリ教官の姿があった。
カミヤ教官の姿はなかった。
「よし、来たな」
オオハシ教官が俺を作戦会議室へ連れて行った。
「早速だが、君が昨日話してくれた「例の兵器について」なんだが」
昨日、俺は任務が終わり基地に帰還したあと教官たちに任務の時に聞いた話しについて話したのだ。
「君は以前、我々反政府組織と戦闘したことがあるね?」
オオハシ教官は真剣に眼差しで言った。
シオリ教官はそれを静かに聞いていた。
「はい。検閲管理局の手助けに」
「君は奪われた物の正体を知っているか?」
「いえ。知りません。ただ手助けに行けとしか言われてなかったので」
「そうか。あれは君が昨日話した政府が極秘で開発している兵器の情報が入っているファイルなんだよ」
「それで私たちは知ったの」
そう言うとシオリ教官が赤いファイルを持って来た。
俺は赤いファイルの中身を見た。
ファイルから国立兵器研究所「消滅兵器試作」と書かれた紙が出てきた。
この紙によるとこの兵器は指定した領域を一瞬で灰に変える能力を持っているらしい。
紙に載っている完成図を見ると巨大な高層ビルのような施設が書いてあった。
「この兵器が完成したら我々を消すことも日本に逆らう敵国も一瞬で開拓前の状態に変えてしまう」
シオリ教官が言った。
「そこで我々は兵器の完成を阻止すべく総力をこの国立兵器研究所へ向けようとした。だが国立兵器研究所へ行くには前線を突破しなければいけない」
オオハシ教官がコーヒーを一口飲むと俺の顔を見て言った。
「君たちには申し訳なかったがあの作戦は無駄だった。しばらく敵を混乱させることはできたがすぐに予備の管理コンピュータに切り替わってしまった。さらに国家特別機動部隊を送り込んできた。前線は瞬く間に崩壊し我々の部隊は持久戦を余儀なくされている」
オオハシ教官はテーブルに手を置いた。
「そこで君にやってほしいことがある。他のみんなは前線を支援しにもう戦地へ出向いてしまったからな」
「もしかして、カミヤ教官も?」
そう言うとオオハシ教官は頷いた。
「ああ、彼は前線で電子兵の指揮をすることになったらしい。で、我々は君に別の仕事をさせるよう言われた」
「別の仕事?」
「ああ、君はこの戦闘電子課の中で一番といってもいいほど優秀な成績を出した。」
「まさか、軍は君を通信科に入れるとは…考えられないね」
ニコッとした。
「そうだったんですか…」
俺は自信がなかった。
「この話は置いといて君にやってもらうことについて話そう」
「君には政府の第20敵国観測隊が所有しているミサイル発射施設を乗っ取ってもらいたい」
「あ、あの第20敵国観測隊と戦えと言うのですか?」
俺は驚いた。
第20敵国観測隊は敵国に侵入し敵の施設の場所や敵国の動きを政府に通達し場合によっては弾道ミサイルなどを使う戦略部隊だ。
「いや、君には第20敵国観測隊になってもらうミラースーツでね」
「第20敵国観測隊は首都圏から離れてるから容易に隊に入れる。さらに敵は我々のミラースーツの性能を知らないからバレることもない」
「でも、なぜ俺なんですか?」
俺は聞いた。
「さっきも言ったが君は優秀だ。それに彼に言われたんだ」
オオハシ教官はコーヒーを飲み干した。
「カミヤが君を行かせてくれってね」
「乗っ取ったミサイル施設で前線の敵本部と国立兵器研究所を攻撃してもらいたい」
「とにかく時間がないすぐにでも任務について欲しい。観測隊の隊員のコピー情報やマップなどの詳しい情報はスーツに送る」
オオハシ教官が真剣な眼差しで言った。
俺はこの人のお陰でここまで上達したんだ。
俺はそう思った。
「分かりました」
俺は決心した。
――――――ステルス輸送機内
気づいた頃には俺はミラースーツを着て輸送機に乗っていた。
今思ってみると今までのことはあっという間にだったような気がした。
すると急にイヤホンからタツヤの声が聞こえた。
「よッ。元気か? 気合入れろよ」
「ああ、オオハシ教官は?」
「オオハシ教官?あとは頼んだって言ってどっか言ったけど」
「分かった。よろしく頼む」
その時、激しい揺れとともに機内にアラームが鳴り響いた。
「左翼エンジン部被弾! エンジン停止。直ちに降下せよ」
機内にアナウンスが流れ誘導員がハッチを開いた。
まだ日の登っていないはずの外は対空砲の光で明るくなっていた。
どうやら敵に輸送機が目視されたようだ。
「幸運を祈る。頑張ってな」
誘導員がそう言う俺は頷きステルス機能を動作させ外へ飛び出た。
輸送機の左翼は炎に覆われ機体は傾きつつあった。
俺はパラシュートを開き落ちつつある機体を見ていた。
すると背後から何かが近づいてくる気配がした。
俺は後ろを見るとそれは地上から放たれた2つの光だった。
光は俺を通り越して輸送機の方へ向かっていった。
それは対空ミサイルだった。
輸送機はチャフなどを展開し懸命に回避しようとしたがいずれも効果なく炎上する左翼にぶつかった。
その途端、爆音とともに輸送機がバラバラになりあたりが明るくなった。
この時、俺の何かが切れたような気がした。
急に怒りや悲しみがこみ上げてきたのだ。
俺は何が何でもあの腐りきった政府を潰すとそう心に誓った。
「おい、応答しろ。大丈夫か! 何があったんだ」
タツヤが大声で叫んでいた。
「ああ、大丈夫。輸送機がやられた」
「そうか…無事で何よりだ。任務はできそうか?」
タツヤが不安げに聞いてきた。
「大丈夫だって。心配するな。必ず成功させ奴らを潰してやる」
俺は明るくそう言った。
「分かった。あ、残念だが通信はここまでだ。これ以上すると敵にバレるからな」
タツヤが焦った様子で言ってきた。
「それと、必要な情報はそのスーツにアップロードしといたから」
「了解。じゃあまた」
「じゃあな。帰ったら一杯おごるよ」
そう言い俺達の通信は終了した。