第5話 「戦闘電子課」
配属先発表日。
俺は起床の合図とともに起きた。タツヤの姿が見当たらない。まあ、アイツのことだからどうせ兵士サポート課にでも行っているんだと思った。そしていつもどおりに支度を済ませた。食堂へ行く前に掲示板を見に行った。
掲示板には日程表や各課のお知らせとともに「新規入隊者 配属先発表場所」と書かれた紙が貼られていた。
そこには「発表時刻になると呼び出しをする。未提出者に関しては訓練の結果から配属先を判断する」と書かれていた。
俺が掲示板を眺めていると後ろから人の気配がした。
ふと気配のする方へ顔を向けるとそこにはオオハシ教官の姿があった。
「まさか、君が戦闘電子課に志願するとは思っていなかったよ」
ニコッとして俺に言う。
「軍の頃、俺は初め電子兵になりたかったんです。でも軍は俺を通信科に入れました。だからここならその願いが叶うかなと思って」
「おお、そうか。でもこの課は君の苦手な銃を使うがいいのか?」
「大丈夫です。オオハシ教官がいますから」
そう断言した。
するとオオハシ教官は笑いながら「そうだな」と言って教官室へと歩いていった。
――朝食を取りしばらく席に座っているとスピーカーから声が聞こえた。
「新規入隊者に告ぐ。これより、第2講義室にて配属先リストを掲示する。各自11時までに確認すること」
俺はすぐに講義室へ足を運んだ。
講義室に着くと黒板に配属先リストが貼られていた。
リストが貼られた黒板の前にはまるで合格発表の時のように人が集まっていた。
「え~っと、戦闘電子課、戦闘電子課~」
目的の課を探していると急に肩を叩かれた。
すぐに隣を見るとそこにはタツヤの姿があった。
「よっ。お前見つかったか?」
タツヤはずごく嬉しそうに聞いてきた。
「もしかしてお前…」
そう言うとタツヤはグッドサインをしてきた。
「お~、良かったじゃん。じゃあ俺もさっさと確認しないと」
そう言い人混みをかき分けた。
「おっこんな下の方に戦闘電子課があるとは、どうりで見つからないわけだ」
そう言いつつもリストの中から自分の名前を探した。
「ん~。あ、あった」
ずらりと並ぶ名前の中から自分の名前を見つけた。
なんとなく、名前がある予感はしていたけど実際にあるとやっぱり嬉しかった。
「で、どうだった?」
タツヤはやっとの思いで人混みをぬけてきた俺に聞いてきた。
「あったよ、名前」
そう言うとタツヤは「良かったじゃないか!」と喜んだ。
そうやっているとここを担当していた教官が言った。
「配属先を確認した者は配属先の課に行け。いつまでもここにいるんじゃないぞ~」
俺はタツヤと別れ、戦闘電子課へと向かった。
戦闘電子課は射撃場の隣の建物にあった。
入り口にはオオハシ教官を含む3人の教官の姿があった。
「きたきた、こっちだ」
戦闘電子課になった俺を含み他のみんなも教官のところへ向かった。
「よーし、みんな集まったな。さ、中に入ろう。詳しい話は中でする」
ガタイのいい教官が言った。
俺達は建物内の作戦会議室へ連れられた。
「よし、まずは自己紹介からだな。俺の名前はカミヤ、それでこっちはオオハシ教官、そっちはシオリ教官だ。これから君たち30人の訓練などを担当する」
「よろしくお願いします」
俺達は言った。
「知っている奴は知ってると思うがこの戦闘電子課は電子兵を訓練、養成する課だ」
「我が国民守備隊は各課で兵士を訓練、養成し、各兵士のランクごとに部隊を作るという方式をとっている」
「ちなみにここの課のほとんどが単独での任務が多いから部隊での行動はあまりないな」
「次に電子兵の戦闘服についてだ。我々はこの戦闘服をミラースーツと呼んでいる」
そう言うとカミヤ教官は戦闘服を持ってきた。
「このミラースーツ、一見すると普通の戦闘服のように見えるが繊維に特殊な加工がされている」
そう言いながら戦闘服の左袖に付いている端末を操作した。
すると瞬く間に戦闘服ことミラースーツが消えてしまった。
俺や他のみんなも驚いていた。
「今のはステルス機能をオンにしたんだ。だがこれだと顔が見えてしまう。そこでこのマスクをすることで対処できる」
カミヤ教官はそういうとレンズの部分がマジック・ミラーになっているガスマスクみたいなのを取り出した。
「他にも敵の軍服に見せかけたり、このマスクで顔を特定の人物に変えたりできる」
カミヤ教官は自慢げに話した。
「ちなみにこのミラースーツは我々を支持する研究者がやっとの思いで作り上げた品だ。それと政府が所有しているミラースーツはステルスまでが限界らしい。つまり、敵になりすませるのは我々のミラースーツだけだ。だから、大切に使ってくれよ」
するとカミヤ教官はミラースーツをしまった。
「幸いなことに君たちは実戦も経験しているということで一部の訓練はカットした」
「さらに、あの戦闘服の扱いは極めて簡単だ」
「君たちならすぐに戦場に立てるだろう」
「では、これから君たちの近接格闘や射撃の腕を見せてもらおう」
「入隊時に行った訓練とはまた別のものだ」
そう言って俺達を普通の戦闘服に着替えるよう指示し格闘場へ案内された。
「近接格闘は潜入ミッションなどには欠かせない技術だ。まずはどれほどのものか見させてもらおう」
そう言って先輩を交えた格闘訓練が始まった。
「お、お前、つよすぎ…」
そう言ったのはタテイシ先輩だった。
「どこでこんなの習ったんだよ」
「はい、親父から叩きこまれました」
「お前の親父すげ~な」
そう言うとタテイシ先輩はガクリと床に倒れた。
「お~、すごいな」
そう言って近づいてきたのはオオハシ教官だった。
「銃撃に関してはあれだけど近接格闘に関してはトップクラスだよ」
オオハシ教官は驚いていた。
「コイツには歯が立ちませんよ」
床に倒れていたタテイシ先輩が言った。
「まさか、タテイシがやられるとはな」
オオハシ教官は笑いながら言った。
「あとは射撃だけだな…」
「オオハシ教官が教えてくれたおかげで上達してきました」
射撃訓練があるたびオオハシ教官が教えてくれたが正直、不安がよぎる。
格闘訓練が終わったあと20分の休憩があった。
みんな疲れている様子だった。
「お前、何でこの課に入ったんだ?」
椅子に座ってると隣にタテイシ先輩が座った。
「俺、軍の頃から電子兵になるのが夢だったんです。それにここのミラースーツは特別らしいですのでここに入ってとても良かったと思っています」
「そうか… お前なら凄腕の電子兵になると俺は思うな」
「何を言ってるんですか。近接格闘はともかく銃が扱えないと意味が無いですか」
「いや、あのオオハシ教官に教えてもらってるんだろ。あの人にかかればすぐに的の真ん中に当てることもできるようになるさ」
そう言うと、タテイシ先輩は俺の肩を軽くたたきその場をあとにした。
休憩が終わり、いよいよ射撃訓練が始まった。
的に当てることだけに集中して銃を構えた。
俺は的の真ん中だけをじっと見つめた。
あたりの銃声がだんだんと遠くなっていき、全神経が的を見る目と銃を持つ手に集中した。
バン。
俺は一発打つ。
予想もしていない結果に俺は驚いた。
なんと的の真ん中を俺が放った銃弾が貫いていたのだ。
「おお~、ついにやったか!」
それを見ていたオオハシ教官がすぐさま駆け寄ってきた。
「はい! やりましたよ。 オオハシ教官のお陰です」
「うん、うん。でもまだ一発だな。何発か、撃ってみて」
そう言うとオオハシ教官は俺を集中させるため、俺から離れた。
結果は10発中8発が的の真ん中を貫いた。
俺はここまで上達したことに驚いた。そして心からオオハシ教官に感謝した。
「ありがとうございます。ここまで上達したのは遅くまで訓練に付き合ってくれたオオハシ教官のお陰です」
深く頭を下げた俺にオオハシ教官は頭をあげるように言った。
「君にははじめから才能があったんだよ。私はただその才能を発掘しただけのものにすぎない」
俺はこの教官はとてつもなくすごい人なんだなと思った。
「それと君はすごく電子兵に向いてるよ。コンピュータの知識や瞬時な判断力がありまた、近接格闘や射撃は文句なしだからね」
するとカミヤ教官が近づいてきた。
「おお、この子か。才能があるって言うのは」
カミヤ教官がニコニコしながら俺を見てきた。
「ああ、この成績表を見てくれ」
そう言いながらオオハシ教官とカミヤ教官はどこかへ行った。
射撃訓練も終わり、俺達は作戦会議室に戻ってきた。
「諸君、訓練ご苦労だった」
カミヤ教官が言った。
「早速だが明日、呼ばれた者には実際に任務に出てもらう」
「さっきの訓練で君たちの実力は見させてもらった。残念ながら呼ばれなかった者には一刻も早く任務につけるよう我々がちゃんと見てやる」
みんなどうやら緊張しているようだ。
俺も正直、緊張していた。呼ばれたら呼ばれたでいいかもしれないが自分的にはもうちょと訓練をしたいと思った。
「では、名前を呼ぶ。シンジョウ ナオト。」
「は、はい!」
まさか一番目に呼ばれるとは思っていなかった。
俺は慌てて返事をする。
その後数名が呼ばれた。
呼ばれた奴らは緊張していた。
周りからはおめでとうの言葉が聞こえた。
「では今日は以上。明日は忙しくなるぞ」
そう言って、解散した。
風呂に入り部屋に入るとそこにはタツヤの姿があった。
「お、おかえり~、どうだった?」
タオルを首にかけ雑誌を読んでいたタツヤが言った。
「明日から任務だって」
そう言うとタツヤは驚いていた。
「お、お前マジかよ。銃撃とか大丈夫だったのかよ」
「ああ、大丈夫だった。オオハシ教官のお陰で的の真ん中を撃てたよ」
俺はベットに座った。
「すげ~、あの的に当てるのが精一杯のお前がここまで上達するとは。さすがオオハシ教官だな」
タツヤは雑誌をしまい。驚いた様子で俺を見てきた。
「でも、不安だな~。うまく任務を達成できるか」
「大丈夫だって。お前ならできるよ。この俺が言うんだから問題ない」
自慢げに答えた。
「ああ、そうだな。お前がそこまで言うんだから問題ないな」
俺はベットに横になった。
「よし! 明日頑張るぞー」
そう言って俺達は眠りについた。