第3話 「国民守備隊」
レジスタンスの襲撃から1週間後。
俺達がいる基地に黒い制服に身を包まれた集団がやってきた。
話によると国が派遣した国家特別機動部隊と言う連中らしい。
どことなく雰囲気があのナチスドイツの兵隊に似ていた。
彼らは基地にいる全員を集めるように指示をした。
俺達は指示通り基地の中庭に集まった。
全員の集合が確認されると向こうの司令官が顔を出した。
司令官はあたりを見渡したあと深呼吸をして言った。
「これより、この基地は我々国家特別機動部隊が管理、運営することとなった」
口ひげを生やした60代辺りの男が無表情で言った。
そして彼から発せられた言葉はとても重く感じた。
「君たちの職務は現在を持って終了し、地方自治体に所属する治安維持部隊として働いてもらう」
その瞬間、あたりはざわついた。
やっとの思いで激戦の中を生きて帰りゆっくり休めるかと思えばすぐに復興を手伝わされ、挙句の果てにはお払い箱行きだ。
「どうなってるんだよ」
一人がそう叫んだ瞬間、皆の不安が爆発した。
「あんなに働いたってんのに俺達や死んでいった仲間たちの努力は無駄だったのかッ!」
「政府は国民に責任をすべて押し付けて自分たちはしらんふりなのかッ」
「ふざけんなぁぁ! 昇格がなければ栄誉賞もなしか糞野郎!」
「黙れッ!」
途端に口ひげの男は耳に響くような大声で叫んだ。
「貴様らごときで何をほざいていやがる! 何が上昇だ、貴様らみたいな英雄気取りが居るからこの国は腐っちまったんだ! まだ軍事恩給や職が貰えることを感謝しろッ」
司令官は顔を真っ赤にしながら大声で言った。
「うぉぉぉぉ、クソがァァァァァあ」
怒りで狂った隊員の一人が前に立っている司令官を殴ろうと向かってくる。
そして司令官に飛びつこうとした瞬間、バンっという銃声が聞こえたかと思うと司令官を殴ろうとした隊員が胸を撃ち抜かれ息絶えていた。
「こうなりたくなければ、我々に従うんだな」
まるで勝ち誇ったかのような表情を浮かべその場をあとにした。
「…ッ…」
ふと、隣に目をやると歯を食いしばり、こぶしを握りしめながら震えているタツヤがいた。
いや、タツヤだけではない、みんな同じ気持ちなのだ。
――――――兵員輸送バス内
星が見える夜空の中、皆何も言わずバスに乗り込んできた。
怒りに満ちた表情の者もいれば涙を流し静かに泣いている者もいた。
その傍ら隊員を慰めるタツヤの姿があった。
「ひっでーよな、こんなんだったらはじめから反政府組織の方に行くべきだったわ」
苦笑いしながら彼は俺の隣に座る。
「そうだよな、俺もそう思うわ」
そう答えると出発の掛け声が聞こえ、バスが走りだした。
「俺達、地方自治体が管理する治安維持部隊に入るんだよな」
「どうやらそうらしいな」
俺はバスの窓から見える星空を見ながら答えた。
「まあ~、向こうについても仲良く頼むぜ?」
ニコニコしながら彼は顔をのぞかせてくる。
ホントに不思議なやつだ、さっきまで歯を食いしばりながら震えてた奴がこんなに変わるとはな。
――治安維持部隊の基地らしき建物についた頃にはもう日が出始めていた。
殆どの者は寝ていたが何故か俺は眠たくなかった。
「お~い、みんな起きろ~、着いたぞ」
運転手が呼びかけるとすぐにみんなは起き上がりバスの外へと出ていった。
バスの外へ出ると建物の入口には第3治安維持部隊基地と書かれていた。
見た感じではあるがこの基地は戦争時に配属さえた基地よりも臨時復興支援隊の時に寝泊まりした基地よりもずっと大きかった。
入口の前で待つよう言われた俺達は指示通り待っているとやさしそうなおじさんという言葉がとても似合う老人が部下らしき者と一緒に歩いてきた。
「こんにちわ。皆さん、形だけの治安維持部隊への入隊おめでとうございます」
どうやらこの老人、基地長らしい。
それにしても、”形だけの”はどういう意味なのだろうか?
なんだか嫌な予感がしてならない。
「形だけのとはどういう意味なのでしょうか?」
そう思っていると同じ疑問を持っていた一人の隊員が質問した。
すると基地長はニコッとして詳しいことはここでは言えないと言って基地内に入るよう指示した。
基地内は花壇があり道も綺麗でまだ建てられて年月があまり立っていないことを物語っていた。
しばらく歩くと目の前に多目的ホールが見えてきた。
ホール内に入ると基地長は舞台に上がり、説明を始めた。
「オホンッ では早速本題に入らせてもらう」
マイクをとり話し始めた。
「治安維持部隊への入隊をお払い箱と思っている者も多いだろう」
「だが違うのだ。私は先程、形だけのと言いました」
「要するに地方自治体に所属する部隊を装っている反政府組織なのです」
へ?今反政府組織って言ったよな?
俺はびっくりした。そして、とても嬉しいような気がした。
俺はあたりを見渡してみた。
するとそこにはガッツポーズを取る者もいれば、あまりにも急なことで状況を理解できていない者もいた。
「我々反政府組織こと国民守備隊は独裁政治、国民への弾圧から守るべく反政府的な地方自治体が協力しあって秘密裏に作り上げられました」
「政府にも政府を支持する各自治体にも見つからないようにしつつ、我々は力をつけてきたのです」
「行き場を失いそして政府から酷い扱いを受けた兵士たちを政府に兵員の増強という名目で集めてきました」
基地長は話を真剣に聞いているみんなを見渡すと話を続けた。
「国民や兵士のほとんどは政府に不満を持っているはずです。しかしその不満をぶつけることができなかった。なぜなら政府はそのような人々を平気で殺していったのですから」
「そして、今。その不満をぶつける時が来たのです」
全員が真剣な眼差しで基地長を見ていた。そして、基地長も真剣そのものだった。
「しかし、もう辛いと思う方は無理なさらなくて結構です。ゆっくり休んでください。我々が生活費や住居を提供します」
彼は嘘も偽りも言っていなかった。そして、話が終わるとその場をあとにした。
――案内係に基地を案内された俺たちはこれから住む事になる兵舎についた。
「こちらが男子寮であちらが女子寮となります。ちなみに食堂や講義室は兵舎の隣の建物にあります」
「そして、こちらが各部屋への割り振りです」
そう言って案内係が掲示板に貼り付けられた表に指をさす。
どうやら俺はタツヤと同じ部屋のようだ。
「おっ、お前と同じ部屋か、戦争時以来だな」
ニコニコしながら俺に話しかける。
「そうだな、よろしく」
「おお、こちらこそ」
2人は挨拶代わりに握手をした。