咲夜の新しいデザート作り
ちょっと長め。いやそんなこと無いな。筆者の筆力ではこの長さぐらいが限度……orz
設定「幻想郷は食べ物(の材料)が豊かでない」があります。ご了承。
わたしの名前は十六夜咲夜。レミリアお嬢様のお屋敷、紅魔館で住み込みでメイド長をやっています。広い紅魔館でわたし一人でお嬢様、妹様、パチュリー様全員のお世話をするのは大変ですが、メイド妖精やわたしの能力で何とかなっています。
しかし、『何とかする』だけでは完璧で瀟洒なメイドとして失格です。そう思っていつでもお嬢様に満足いただけるように『完璧』にお仕えしています。
それは、いつものようにお嬢様に食事をお出ししたときのことでした。
「新しいデザートがほしいわ」
唐突に、お嬢様がおっしゃいました。
「……と、おっしゃいますと」
「だから、新しいデザートがほしいって言ってるのよ」
いえ、言わんとするところは理解しております。
しかし、お嬢様がそれを言われるのは一度目ではありません。これで……ちょうど10回目です。
「お嬢様、今までにも甘味はいくつもお出ししました。みたらし団子、蕨餅、お饅頭、あんみつ……」
「そういうのじゃなくてっ。どうしてそう、和菓子ばかり出してくるのよ。わたしが言いたいのは、ショートケーキとか、ロールケーキとか、クレープとか……」
「お嬢様、以前にも説明しましたがこの幻想郷の気候では小麦は育たないのです。そのようなものは原料の小麦粉が手に入らないのでどうしてもお出しでき……」
「黙りなさい」
お嬢様から突然の殺気、いえ、カリスマ。最近はカリスマを出されたことが無かったのですっかり忘れていました。この感覚はカリスマです。
「次の……いえ、明日の食事には新しいデザートを出しなさい。そのために今日の仕事を放棄してもかまわないわ。かならず、新しいデザートを準備してきなさい。いいわね?」
「……はい」
お嬢様、久々のカリスマがデザートのためとは……少々、寂しい気が致します。
しかし、主の言うことも出来ないようでは完璧で瀟洒なメイドではありません。
そんな成り行きから、私はまた新しいデザートを考えることになったのでした。
◇◆◇◆◇◆◇
今日の一日をデザートを考えるために余暇にし、妖精メイドたちに今日のすることを指示しました。当てがあるわけではありませんが、とりあえずパチュリー様のいる魔法図書館へ向かって歩きながら、デザートについて考えています。
いままでにお嬢様にお出ししたのは、全て和菓子です。なぜなら、先ほどお嬢様にも言ったようにこの幻想郷の気候では小麦が育たないからです。
お嬢様や私は幻想郷に来る前にヨーロッパという大陸にいた時期がありました。西岸海洋性気候ともいいますがそこは小麦がよく育つ気候だったのです。しかし幻想郷の気候は温帯湿潤気候、四季のある気候です。これでは小麦が生るのに大切な時期に梅雨があたってしまいます。この雨が小麦を作らせないのです。
それに、材料が手に入ったとしてももう一つ問題があります。私がそれを作れるかどうかです。いかに完璧で瀟洒な私でも、ほとんど初めて作るものをお嬢様にお出しできるほどのものに仕上げる自信がありません。
「ふう……」
まさに無理難題です。お嬢様、カリスマの出しどころを間違えています……。
あ、考えながら歩いていたら魔法図書館に着きました。
ギギッ、と悲鳴を上げる入り口の大きな扉を開きます。この扉、紅魔館に住んでいる者が開けようとすると簡単に開くのですが、それ以外のものにはとっても重くなるそうです。魔法でそうしたと、パチュリー様が以前言っていました。その通り、音はうるさいですが軽く開きます。お盆を持ったまま扉を開けることもあるので重宝しています。
「あ、咲夜さん。どうされました?」
入り口近くの本棚の整理とはたきを掛けている小悪魔がこっちに気付きます。扉の音はノッカーのような役割もあるようで、パチュリー様はよく考えて魔法を掛けているようです。感嘆しきりです。
「小悪魔、パチュリー様はお話しても大丈夫?」
魔法の研究では時折マッドサイエンティストな一面を見せ、考えに没頭すると食事もとらないほど集中されるパチュリー様なので、話しかけるときは時期を選ばなければなりません。
「はい、この間から研究をされていたのは構想段階で頓挫……もとい戦略的撤退をパチュリー様が決定されましたので、今は普通に読書されていますよ」
何か御用でしょうか?と首を傾げてこちらを見ている小悪魔。
というかこの子はたまに変な発言をします……頓挫を言い換えて戦略的撤退って。
「パチュリー様に聞きたいことがあるのだけど……あ、小悪魔あなたこの幻想郷で作れそうなデザート知らない?お嬢様にお出ししたいのだけど……」
「デザート、ですか?うーん……やっぱり、思いつきませんね。ていうか私に分かるのなら咲夜さんが既に思いついていますよ。私パチュリー様に召喚された低級も低級な小悪魔なんですから」
「……それはパチュリー様の御実力を悪く言っている発言にもきこえるのだけれど?」
「え?いやいやそんなことありません言ってません!そんなつもりで言ったんじゃないんです!」
「分かっているわよ。でも、私の前だったからよかったものの、パチュリー様の前やお嬢様の前では気をつけなさいよ?」
「うう、気をつけますごめんなさい……」
うなだれる小悪魔。低級な小悪魔、ね。なんだかそれを実感してしまった気がするわ……。
「じゃあ、パチュリー様のところに……と、もう一つだけ。ここにお菓子に関する本、ってない?」
「ないですね」
はっきり言う子悪魔。なんか腹立つ……
それが顔に出ていたのか、あたふたと弁明する。
「あの、私は図書館を管理するためにいるので、その、蔵書を把握していないとその、務まらないというか……」
「いいわよ。気にしないで」
またうなだれる。なんだか小悪魔に申し訳ないことをした気がしてしまって、時間をとめてパチュリー様のところへ行きました。
◇◆◇◆◇◆◇
「パチュリー様、よろしいですか?」
パチュリー様が私の声で本から顔を上げてこちらを向きます。
顔には度の入っていない伊達眼鏡。時折、白黒魔法使いとは違って礼儀正しく本を借りに来ては白黒魔法使いと同じように返しにこない香霖堂の店主に、荷物持ちに小悪魔を連れて返してもらいに行った時、なぜか帰ってきたときにかけていた眼鏡です。おそらく香霖堂の商品だったものでしょうが、どうしてかけているのか分かりません。
「咲夜。どうしたの?」
「たいしたことではないのですが。お嬢様が新しいデザートをご所望で……何かアイディアをお持ちで無いかと」
「……最初にデザートを付けたときから決まっていたようなものだと思うけれど。それまで無かったものがあるようになる。最初は喜ぶけれど、だんだん慣れる。あることが当たり前になって、さらによいものを求めるようになる」
「…………」
「最初に食事にデザートを出し始めたのも、完璧で瀟洒であることをいつも自分に言い聞かせているから、でしょう?それが悪いといっているのじゃないわ、結果を見据えて行動しなさいといっているの。デザートを出し始めた結果、貴女は新たなデザートに頭を悩ませている」
「…………」
……反論できません。本当に、その通りです。
しかし、完璧で瀟洒であろうとするのは悪いことなのでしょうか……?
「だから、それが悪いといっているのではない、と言っているでしょう。思想と行動を一緒にして考えてはいけないわ」
そこまで言って、頭を振ります。
「まあ、思想と行動が一緒なことよりはましかしらね……あの子のように。
私の言えるのはここまでね。貴女のことも、デザートのことも。香霖堂にでも入ってらっしゃいな、なにか良いものが置いてあるかもしれないわよ?」
「……はい。そうします」
きびすを返して、香霖堂へ向かおうとします。が、その前に一応ですが聞いておこうと思いました。
「一応、ですが。ここにお菓子のレシピなどが載った本などは……」
「ないわ。ここは『魔法』図書館だもの」
「わかりました……では、ありがとうございました」
今度こそ魔法図書館を後にします。
魔法図書館の扉が完全に閉まった後、
「私らしくもないコンフューシャスだったわね……」
とパチュリー様が自嘲げにつぶやいたことは私の知るところではありません。
◇◆◇◆◇◆◇
香霖堂への道中です。途中、妖怪が数匹姿を見せましたが、ナイフを構えて臨戦態勢を見せると牙を収めて逃げていきました。妖怪は好きではありませんが物分かりが良いのは好印象です。もし死んだら妖精になって紅魔館に来なさい。雇ってあげます。
また、氷の妖精にも会いました。うるさいし会話が成立しないときがあるしで妖怪より悪印象だったのですが、そんな彼女にも一応聞いておこうと思いました。
「何か新しいデザートの案がある?」
「かき氷!」
大体こんな感じの会話でした。(実際はもっと頭が痛くなるような会話でした……)
氷の妖精だけあって氷に関するものが好きなのでしょうか。それに彼女は良いかもしれませんがこの季節に氷はどこへ行ってもありません。
そんなことを経て現在香霖堂に着きました。
ガラガラと鳴る入り口の戸をあけます。魔法図書館のとは音が違いますが、同じ役割を果たしたようです。香霖堂の店主は手に持っている本から顔を上げてこちらを見ました。
「やあ、いらっしゃい。香霖堂へようこそ」
ここへはほんの数度しか来ていないと思うのですが、彼はちゃんと私の顔を覚えていたようです。記憶力が良いのか、それとも人に合うこと自体稀なのか。
ともあれ本題です。
「外界からの漂着物で、お菓子やデザートのことがたくさん載っている本はありますか?」
「お菓子やデザート……?うーん、あまり記憶に無いなあ……一応、店の奥のほうも見てみるけれど。ちょっと待っててくれ」
そういって店の内部へといってしまいました。
読んでいた本を置いていきました。ちょっと気になったので何を読んでいたのか、本の題名を見てみます。
『スペルカードルールにおける魔法の有用性と応用の可能性に関する考察ノート#13』
……パチュリー様の書いた本です。ていうかノートです。何でこんなのを読んでるんですか彼は。
「待たせて悪いね」
おっと、彼が戻ってきました。読んでいた本の題名を見ていたとは思われたくないので一歩下がります。
「待たせただけになってすまない。奥にも無かったよ」
「そうですか……」
もしかしたら、という期待をしていただけにガクッときます。すぐに帰らずに少し店内を見てから館へ戻ることにしました。
水晶玉、赤べこ、植木鉢……全く脈絡がありません。ここの主は何を思って陳列しているのでしょう……。
流し目で棚の上のものを見ていると、薄い本が積まれている一角がありました。雑誌のようです。一つ一つみると、また脈絡無くジャンルがばらばらです。まあ雑誌というのは漂着物なので選り好みできないのですが……。
もしかしたらとは思いましたが、ありました。『お菓子・デザートレシピ本』。探し求めていたものそのままのタイトルです。
さっき記憶にないといっていた人に見せます。眼鏡を中指で押し上げて少し身を乗り出してこの雑誌を見ています。
「記憶に無かったそうですが?」
「……覚えてはいなかった。が、忘れていただけらしい。実際にはあったようだ」
「おいくらです?」
「そこの雑誌は一律700文で売っているよ」
高い、と思いましたが漂着物です、なんともいえません。しかし。
「高いですね。せめて半分にしてください」
350文。これならなんとなく妥当な気がします、し、彼に過失があったわけですから安くしてもらいましょう。
いえ、紅魔館のお財布が苦しくなっているわけではありませんよ?
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
両者沈黙。値を下げる気は彼には無いようです。
ならば…………
「あら、なんとなーく、パチュリー様の私物がここにある気が」
「100文で売ろう」
というわけで格安でレシピの本を手に入れた私でした。
◇◆◇◆◇◆◇
結論。この本に幻想郷で作れるものは載っていません。
紅魔館の自室で一ページめくるたびに自分の顔が険しくなっていくのが分かりました……
どうして作れないかというと、ひとえに材料の問題です。
まず、小麦粉を使う物は却下。そしてそれを使わないものでも、手に入れられないものはたくさんあるのです。
ゼラチン。豆乳。生クリーム。
幻想郷の食べ物に改革を起こしたいと思いましたよ、ええ。外界から持ってきて毎日素敵なものを食べているという八雲家が私の嫉妬と羨望の的です。
どうしましょう……これではお嬢様のおっしゃったことも守れないだめなメイドになってしまいます……!
本っ当に最後の手段です。いろいろな人に聞いて回ることにします!
◇◆◇◆◇◆◇
霊夢「甘いものなんて買う余裕がうちの神社にあるとでも?」
アイデアだけでもお願いしますから!
魔理沙「てきとーに作って魔法で甘くすればいーんじゃね?私はそーしてるぜ?」
私は魔法が使えません!
早苗「デザートですか?ええと、シュークリーム、ショートケーキ、カステラ……」
それらは全部作れないんです!
てゐ「にんじんの甘煮はどうよ?」
手抜きです!お嬢様に出せません!
さとり「ビーフジャーキーはどう?私のペットたちは喜んで食べているわよ?」
それはデザートではありません!
勇儀「デザート?そんなものよりつまみだ!酒だ!」
聞いた私が馬鹿でした!
中国「……zzz」
ザクッ
◇◆◇◆◇◆◇
どうしましょう……これではお嬢様の言われた新しいデザートが出せません……
どうにか、どうにかしてあたらしいのを考えなければ……!
◇◆◇◆◇◆◇
「ごちそうさま」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットはその日の晩餐を食べ終わった。
いや、正確にはまだ食べ終わっていない。彼女が自身のメイド長に命じて作らせたデザートがまだ出てきていない。
「お待たせしました」
咲夜が扉を開けて入ってきた。手にはデザートだろうものを乗せている。ただしふたがついていて中が何かは分からない。
「ちゃんと新しいデザートができているんでしょうね?」
持ってきた咲夜に、確認するように言う。ずいぶんと苦戦していたようだが、できなかったは許さない。そんな傲慢とも言える性格なのが彼女、レミリア・スカーレットである。
問うた彼女に、咲夜は何も言わずにふたを取るように促す。主人の食べ物のふたなどは従者がとるものだが。
口元を少し笑みにゆがめ、言われたままにふたを取る。
そこには―――
「……すごおい!」
透明な液体と、その中に沈んで尚も自己を主張する果物たち。ただ切って放り込んであるのではなく、毎日主の食事を作ることで上達した包丁使いで食べるのがもったいなく思えるほどに芸術的に装飾が施されている。
星。ハート。
球の表面に複雑かつ繊細な模様。
リンゴの皮を切って描かれているのは、神槍を持った吸血鬼の姿。
まさしく、芸術である。
「すっごい……咲夜、よくこんなのを思いついたわね」
「恐れ入ります」
「リンゴの皮でグングニルを持った私とか……食べるのがもったいないわ」
「包丁では難しかったので、それはナイフで作成しました」
「何でも良いわ、こんなに素晴らしいんだもの……」
手を付けられないとばかりに、透明な液体を先に口に運ぶ。
「これは……シャンパン?」
「はい。甘みを加えてありますので、果物と一緒に召し上がるといっそう美味かと」
その言葉で、果物のほうも口に運び始める。
「本当に……よくこんなものを考え付いたわね」
「実際のところを申しますと、どうしても新しいデザートは出来そうに無く……限られた材料で、最後の最後に思いついたのがこれだったのです」
咲夜の顔に疲労感が浮かぶ。しかしそれは大きな仕事を終えた後に浮かべる、達成感を伴う快い疲労感だった。
至極幸せそうに次々と口に運ぶ主と、それをまた幸せそうに見ている従者の姿があった。
ほとんど勢いで書いたので誤字やおかしいところがあるかもしれませんが…あったらスルーして下さい。
小麦粉の無い幻想郷の話でした。
実際、何でもありな幻想郷なので日本の気候でも育つ小麦があるのかもしれませんが。
あと、最後の落ちはオリジナルではなく実は「忍たま乱太郎」でやってたのを参考?流用?しました。流石に多少のアレンジはしてありますが……。もしかしたら知ってる人いるかな。
しかし短編ってのはそのときの思いつきでいろんな設定を詰め込めるのが良いですね。咲夜さん日本人じゃなくしちゃいました。
なんか咲夜さん『完璧で瀟洒なメイド』であることを自分に強いている感じがしますね。自負であり義務なんでしょう。
そういえば敬語調で書いたの初めてだなー。
あとぱちぇめがねっこ!あたまいいよ!
香霖がパチェの私物について納得行かない人は、「パチェの理論を噛み砕いて理解させて魔理沙の役に立たせたかった」ということにしましょう。妹(?)思いのこーりんです。
幻想郷の食べ物は豊かでないという設定で書きましたが……それならシャンパンどっから出してきたんでしょうね?ww
レミィは咲夜のデザートでカリスマブレイクしました。w
反省
終わりの部分が短く、なんだか『終わった』感がない
良かれとは思ってやったが途中から視点が変わる。結果的に良いのか悪いのか(それすら分からない
後書きカオス(本文書きながら思ったことをフリーメモに書いてコピペだから
サイド・ストーリィとしてその後のお話もちょこっと書きました↓
注:スコーンは米粉で出来ています。
サイド・ストーリィ
皿を二つ載せたトレイを片手で持って空いた手で魔法図書館の扉を開くと、昨日と同じように扉がうるさい音を立てました。昨日と同じようにはたきをかけていた小悪魔が昨日と同じようにこっちに気付きます。
「あ、咲夜さん。どうですか、新しいデザートは見つかりました?」
「どうにかね。足りない材料はアイデアでカバーしたわ」
「さすが咲夜さん!すごいですね!」
小悪魔がぱちぱちと手を叩いてくれます。ほめられて悪い気はしません。が、別の意味で悪い気になります。パチュリー様と小悪魔に持ってきたのは別のものなのです。小悪魔は使い魔でパチュリー様は使役するもの、私とお嬢様のような関係に上下があるのは当たり前なのですが、小悪魔が気を悪くするかも知れません。さっさと渡してパチュリー様のところへ行きましょう。
「小悪魔、はいこれ」
「何でしょう……ジャム?何のジャムかわからないのですが……?」
「お嬢様のデザートで使ったいろいろな果物の残り。このまま生ごみにするのももったいないからジャムにしたのよ。スコーンを焼いたから一緒に食べなさい」
「わあありがとうございます!すごくおいしそうです!」
「食べ終わったら流しに皿を持ってきなさいね」
喜んでくれたようで何よりです。
次はパチュリー様のところへ。
「あら咲夜」
「これ、お嬢様のデザートの余りです。ちょっと多めにできたので食べていただけないかと」
言いながら皿を差し出します。パチュリー様は眼鏡の位置を上げてからそれを受け取りました。
因みにお嬢様に出したものとの違いは果物に装飾が無いだけです。
「ありがとう。そこのテーブルに座るから、相席しなさいな」
◇◆◇◆◇◆◇
「で、レミィには何を出したの?」
「パチュリー様が今召し上がっているそれと同じものです」
「これでレミィが満足するとは思えないけれど?」
「お嬢様に出したのは果物に細かく装飾を入れました」
「成る程ね。あなたの入れる装飾が妥協や中途半端なものであるはずが無いわね。物それ自体でなく付加価値で勝負した、と」
「はい。とても喜んでいただけたようです」
パチュリー様が皿の半分ほどまで食べ終わりました。
「……言わなくても分かると思うけれど。また新しいデザートを要求されるわよ?そんなすごいのを出したら次が……」
「分かってます。最近のお嬢様はすこしわがままが過ぎるので、ピシッと言うつもりです」
「…………」
パチュリー様がシャンパンをスプーンで口に運びながらこちらを無言で見てきます。
「ま、良いけれどね……」
それから、パチュリー様が食べ終わるまで当たり障りの無い会話をして、食べ終わったらその皿を持って戻ります。
その時に、
「早く研究ノートの13冊目、返してくれないかしら……」
とつぶやく声が後ろから聞こえました。