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戦国異聞  作者: 椎根津彦
邂逅の章
3/116

出会い

 いやあ…すごいもん見たな。ドラマとは全然違う。

ドラマだと派手なだけだ。


足軽、徒歩(かち)武者の突撃、騎馬の突撃、そしてやたらと斬り結ぶシーン。

実際はもっと地味だった。

足軽は長い鑓で叩き合い、騎馬は徒歩を馬上から突くというより駆け抜けざまに上から叩いてまわる、といった感じだ。

人数が少ないからなのか、簡単に崩れる。というか、全体としては勢いを取った者勝ちという感じだ。

まあ、もっと大規模な戦いになると勝手も変わってくるんだろうが、少し拍子抜けがした。


 「おい、そこの者。どこの家の者か」 

いきなり話しかけられた。

恐る恐る振り向くと、そこには朱塗りの具足の立派な侍が立っていた。

「…いや、あのう」

とっさに答える事が出来ない。

「穴太(あのう)の者か」

「あ、あのうの者?」

「穴太と言えば穴太の衆であろう。こんな所で何をしている」

「あのう、何をしていると言われましてもですね」

朱塗りの侍は厳しく俺を睨む。


 穴太(あのう)の衆というのは、この時代における石材職人の集団の事で、近江国穴太出身の人間が多かったから穴太衆なのか、もともと石工集団のことを穴太衆と呼んでいたのか、詳しくは分からない。

うむ、俺って物知りだな。この話題じゃ絶対キャバ嬢にはもてないけど…

 

まあ、穴太衆と思われていても差し支えなかったし、第一、何をどう答えていいか分からなかった。

適当に戦国武将の名を出そうとも思ったが、今いる場所がどこか分からないのでは下手に名前を出すと危険だと思い直した。


 「穴太、穴太と一度言えばわかるわい。しかし石工が戦ばたらきとは珍しいの。食うに困って追い首でも取りに来たか」 

「頭を強く打ちまして、気を失っておりました。気がつくと、頭を打つ前の事を覚えていないのです」

…もう適当だ。どうにかごまかせるだろ。

「それはまことか?まことなら、ほんに難儀じゃの。しかし名乗りくらいは覚えておろう」


朱塗り侍は俺から目を離そうとしない。

全くといっていいほど信用されてない……名乗るべきか。どうしよう。

「大和一寿と申します」 

「…大和一寿とな」

朱塗り侍の表情がわずかに動き、沈黙が漂う。

まずかったかな。 


 「…石工のくせに苗字があるのか」 

「え」

…やっぱりまずかった。

朱塗り侍は打刀に手をかけている。 

「いやいやいや」 

「敵の間者か」

スラリと打刀を抜く。

「いや、ですからね」

いきなり斬りかかってきた。咄嗟に下がってかわす。


生まれて初めて剣道やってたのが役にたったぜ。

体は覚えてるもんだな。

…というかよく動いたもんだ。


 「ほう」

「だから何も覚えてないんですってば!」

俺が言う間に朱塗り侍は間を詰める。

…怖ええ。

つい、持っていた鑓を構えようとした事が更なる一撃の口実を生む。

「いっ痛ぇ!」

鑓を叩き落とされた。

峰打ちってやつだ。

偽物とはいえ、篭手を着けていてよかった。着けていなかったら手首が砕かれていただろう。


「まだ手向かうか」

とは言いつつも朱塗り侍は俺を殺す気はないらしい。

その気なら峰打ちではなく腕を切り落としていた筈だ。

どうやら生け捕って何かを聞き出そうとしているようだ。

 


…どうしようどうしよう。


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