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戦国異聞  作者: 椎根津彦
邂逅の章
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武者行列

初投稿になります。読みづらい部分も多々あると思いますがご容赦ください。

 俺の名前は大和一寿(やまとかずとし)。全国の津々浦々に棲息している公務員の中の一人だ。

 

小一のときに初めて大河ドラマを観て以来、歴史というものに興味を持って、いろんなジャンルに寄り道しながら今までの人生を過ごしてきた。

歴史好きの人というのは大体の人が、自分の好きな時代区分があると思う。俺は日本史が好きで幕末、戦国、源平合戦、南北朝…

辺りが好物だ。

好きな人物がいて、その時代全般が好きになってくる。学生の頃は出版物や映像を通じて妄想を膨らませ、お金に余裕の出てくる社会人になれば、自分の足で色々な史跡を巡ったりもできるようになる。そして、現役を引退してからも興味が持続するのであれば、それはもう立派な歴史家といっていいレベルだ。俺も将来そうなれればいいな、と思っている。


今は手作りの甲冑を作っている。いわゆるコスプレってやつだ。

来週地元で開催される武者行列に参加するのだ。参加は既に三度目になる。今作成中のものは去年の暮から作り始めた大作だ。

樹脂と塩ビ板を使って作ったので、かなり本格的な出来映えだと思うし、自信もある。

一回目は行事のスタッフとして、二回目は行列に参加したものの、厚紙とダンボールで作った甲冑はこけて大破した…。ちゃんと雪辱は果たさないといけない。

 

 初めて観た大河ドラマは「徳川家康」だった。原作は山岡荘八、マンガ版は横山光輝の名作だ。

当時の記憶としては、話の内容はまったく覚えていない。なにしろ原作もマンガも、大人になってから読んだのだから。

でも、ドラマ中の甲冑姿の役者さん達を観た事が、俺をただの唐揚げ好きな食いしん坊から歴史少年へと変えた。今でも覚えている。衝撃だった。

馬に乗って、とにかく黒くてかっこよかった。

教室でみんながガ○ダムやらザ○の頭を描いていた中、ひとりだけ鎧を描きまくっていたと思う。ガ○ダムも好きだったけど、鎧の方はもっと好きだった。


 小学館マンガ日本の歴史の、源平合戦の巻、室町・安土桃山の頃の巻、何回も読み返した。

甲冑っぽいものを着たくて剣道も始めた。

思春期になり、大人になって、甲冑にも様々な様式があるのを知った。俺が作っているのは当世具足、名付けるなら<紺糸威二枚胴具足>(こんいとおどしにまいどうぐそく)といったところだろうか。

全体の黒の中に紺色の威し糸が効いている。

…うむ、渋い。あとは前立(まえだて)を作れば完成だ。

 



 

暑い。蒸し暑い。

せっかくの武者行列だというのに天気が悪い。雲は低いし、遠くで雷が鳴っている。

今日の予報は降水率80%。最低だ。


 俺の甲冑は皆に好評だった。

製作を皆に秘密にし、嫁に家の中がシンナー臭いとかディズニーはいつなの?とか言われながらも頑張った甲斐があったというものだ。軽いし、強度もバッチリだ。うん、今日の俺はかなりかっこいい。 鑓(やり)も勿論自作だが、腰に差しているのは今日の為に通販で買った無銘脇差(むめいわきざし)と井上真改(いのうえしんかい)…もちろん模造刀だけど。

 

 午前の部はここで終わり。スタッフも含め行列の参加者全員で八幡神社にお参りして、勝ち鬨をあげる。

お昼を食べて終了。午後からは商店街を歩く…このまま天気がもってくれればいいんだけどなあ。

 

 「今年の大和さんの具足、いいっすねえ」

「そんなことないですよ」

周りから見たら、今俺はすごいドヤ顔なんだろうな。

「やっぱレジンはいいなあ。作り方教えてもらえます?」

「いいですよ。あ、打ち上げは公民館でしたっけ?」

「ですねー。夜は夜でまた別にやるみたいっすよ。行きます?」

「あ、行きます。その時、線図持っていきますよ」


スタッフの女の子が、皆さん集まって下さい、と声を張り上げている。午後の部が始まるのだ。…あの子、去年より太ったよな。


午後からは再び商店街を歩いて、街道に出る事になっている。

街道沿いの歩道には、見物客が鈴なりになっていた。この武者行列イベントは結構有名で、県のホームページにも紹介スペースがある。商店街にも貢献出来ているらしい。

見物客の中に、嫁を見つけた。

嫁とは、高校の時に知り合った。

俺は当時剣道漬けで、バイトは禁止されていたから、歴史書や小説を揃える余裕がなくて、学校の図書室でよく本を借りていた。

嫁は図書委員をやっていて、図書室で声をかけたのが知り合ったきっかけだった。借りパクは止めて、と注意されたのを覚えている。


そのまま付き合って、彼女は進学、俺は就職。彼女が大学を卒業するのを待って、結婚。

…知り合ってもう十年になるのか。…あっという間だったなあ。

そんな事を考えてながら、ボーッと歩いていると、街道の脇からピー、ピーッ、とホイッスルが聞こえてきた。危ない、っていう声も聞こえてくる。


…スタッフかな。…あれ。

ホイッスルの聞こえてくる方をふと見ると、俺の目の前には猛スピードの軽自動車がいた。

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