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4話

かなり短いですがどうぞ

 花風村を出て、歩くこと数時間。空は新しく手にした二振りの刀――鋭く光る日本刀とあやしく光る黒刀――の性能を確かめるため自らの指を少し切り、血の匂いに集まってくるナフィードウルフを相手に試し切りを行っていた。




 黙々と戦闘をこなす。村で教わった、いや技の名前を知っただけではあるが、無意識の内に使っていたころと比べると数段昇華され、すべての技能が洗練されつつある。

 彼がこの戦闘において学習したことは二点。技能の名称を知ることでイメージすることが簡単になり、より力を発揮できるという事。もう一つは黒刀を使うのは危険であるという事。

 すべてにおいて天才的な才能でこなしてきた彼でさえもこの刀を使いこなすには時間がかかりそうだ。

 それはなぜか? 

 刀を手にするたびに刀に込められた怨念や狂気が、彼を包みこみ理性を保つのが困難なのである。彼は自分で制御できない力を嫌ってもいるが、同時に容易に扱うことのできない力に興味を持っていた。

 そしてこの刀を使った時の副作用なのか、ひどい頭痛が彼を襲う。

 言い忘れていたが、身体強化術などを使うと精神力が、魔法を使うと魔力が減少する。そして、精神力が少なくなると頭痛や眠気などに襲われる。しかし、そのことを知らないはずである彼は直感的に黒刀もしくは身体強化術に原因があるのでは、と睨んでいた。事実、彼がもうひと振りの刀だけを使って戦う時には痛みが幾分か和らいだ。

 この事から彼は当分の間は強大な敵に遭遇した時にだけ、圧倒的な切れ味を誇る黒刀を使うことに決めた。





 周りの草原が真っ赤に染まり彼以外の生き物がいなくなってから数十分。休憩を終え、黒刀と身体強化術の使い過ぎによる頭痛とだるけを無理やり抑え込みながら、ふらふらとした足取りで歩きだす。





 


 空は先程の返り血を落とすため花風村から何十キロも離れた川に来ていた。血で汚れた服を脱ぎ、洗い流す。

 扉が現れたあの日以降、強化された自らの体に喜びを覚えていた。彼には物心つく前から何事にも才能を発揮していたため、努力する事を知らない。そのためにあまりスタミナが付く事はなかったが、その才能で無意識のうちに最適な動きをする事でそれを補ってきた。だが今となってはそれさえも必要はなくなった。そのために昔では考えられないほどの距離を移動してみせた。

 衣服が乾くのを待つ間に黒刀を抜き眺める。その瞬間、人間のどろどろとした感情が流れ込む。

 頭の中がかき乱され理性が飛びそうになり、額から汗が流れ落ち、苦痛に顔を歪ませる。

 彼はこの時初めての壁にぶち当たっていた。これまではこのような壁いとも簡単に壊してきたが、今回はそうはいかないようだ。

 だが、彼の才能はこの問題に対しても閃いてみせた。今まではこの感情に対して抵抗するばかりであったが、今度はその感情に流されてみるということ。




 流れを身に任せる事はとても怖い。しかし、一度死を意識した身である。そんな感情はもはやどうでもいい。




(恐怖、望むところだ)




 彼は口を釣り上げて笑い、そう思った時には頭の中に鮮明な映像となって映される。

 人の形をとってはいるが目から血を流し、手を伸ばしてくる異形の者たち。もはや、人と呼べる代物ではない。口々に吐きだしている感情は妬み、憎しみ、恐怖、怒りさまざまな負の感情が入り乱れる。 

 それは彼にとっても馴染み深い感情である。一見しただけでは分からないが、昔抱いていた感情であるためこの者たちの内情が手に取るように分かってしまう。分かりたくはなくとも……。




(こいつらは助けを求めている)




(俺も死んだらこうなっていたのだろうか?)




(嫌だ、まだ死にたくない)




 そう願った時、彼の眼から涙がこぼれおちる。何年振りだろうか? 涙とともに思い出す美しい女性の笑顔。彼女には長く伸びた黒い髪に白い服がよく映えていた。



 

(そうか。あいつがいたから、いつも死ねなかったのかもな)




 自分が死ねなかった理由がこんな他愛もない事だったと気付き思わず苦笑する。

 彼の中で暖かな思いが芽生える。しかし現実はそうそううまくはいかなかった。

 黒刀を持っていた右腕は黒く染まり、前の透き通った白い肌を見る影もない。瞳の白目の部分も黒くなり、目は赤くなった。頭に流れ込んだ異形の者たちは全身黒く染まり目は赤かったが、その姿に近くなっていた。




『王よ』




 どこからともなく声が響くがその声は空には届かない。

 我に返った彼が自分の体を見ると驚愕で目が開かれる。水に映る彼は以前の姿とは変わり果てていた。


「なんだこれは」


 自分の姿の変わり様に恐ろしさを覚える。思わず刀から手が離れる。その瞬間に姿が元に戻った。


「フッ」


 自らの無様な姿と刀の力に笑みがこぼれる。また触れると黒く染まる。だが鞘にしまうと完全に消えてなくなった。


(やはりこの世界は前よりも面白いな)


 そう思いながら服を着て再び歩き出した。






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