9話
光が七海と一緒に行動するにはわけがあった。それは彼女の種族にある。彼女の種族は犬族。敵の大多数を占める猫族よりも圧倒的に優れていることがある。それは嗅覚。それを利用した作戦を立てていた。
【水よ、霧となり我が影を隠せ】
そう唱えると彼らの周りに濃い霧が立ちこみ始めた。
この霧に乗じて攻め込もうというのだ。そして、こちらは少数。アイテム闇に反刻すれば同士討ちも狙うことが出来た。さらに、この霧は魔力が元となっているため、風などでは簡単に吹き飛ぶことはない。吹き飛ばそうとすれば彼と同等以上の力量が必要となる。
また、彼自身は探知結界を張ることで問題なく戦えるようにしている。
雷を放ち、道を作り、光の魔法で一気に転移し接近する。流石に敵大将の近くにいる者たちが反応するが、既に彼の術中の中だ。
命令を受けた少年は本陣に起こった異変を感じ、振り返った。だが、その足が決して救援に向かう事はない。
「ま、いっか。あのおっさん嫌いだし。それにやばくなったら逃げりゃあいいし」
たまたま縁があったというだけで未練はないし、それに自分一人ならば容易に逃げおおせることが出来るだろうと少年は思っていた。
――目の前にの敵を何とかすれば。
「余所見とは余裕だな」
冷たい子話に背筋が震えるが、少年もまた興奮状態にあるため体が硬直することはない。そして、その声とともに振り下ろされる鎌を躱し、地面に振り下ろされた衝撃で舞い上がった砂煙のため距離を取る。
「いや、別に。お前強いなー。その強さビビっちまうぜ」
言葉とは裏腹に表情からは笑みが消えることはない。間違いなく空の嫌いなタイプである。
「そうか、ならビビったまま死ね!」
空が鎌を投げ、少年はひょいと飛んで躱す。しかし、鎌に付けられた鎖を手繰り寄せ、宙にいる少年めがけて振り回される。
これには堪らず武器を使って防御する。少年の得物は両手に付けられた手甲である。受け止める事には成功するが、地面に勢いよく叩き付けられる。
はいにあった空気がすべて出ていくほどの衝撃で意識が飛びそうになるが、追撃が迫っているのを確認して必死に距離を取る。
「痛っ、ハハ、こりゃあ参った」
(これであいつが万全の態勢だったらと思うと恐ろしいな)
少年は苦笑する。しかし、覚悟を決めたのか表情から笑みが消える。
(仕方ない、あれを使うか)
少年の体を青い光が包み、そこからぱちぱちとした音が鳴り始めた。
「来るか」
空が静かに言い、鎌を地面に突き刺し、黒刀を両手で構える。
だが、少年の動きは空の予想を超えた。
「何!?」
そう背を向けて逃げたのだ。あっという間に姿が見えなくなる位距離まで走り抜けた。
「あばよ」
流石の彼も唖然として少年を見送った。それに、深追いをして、本来の目的が果たせなければ意味がない。ただでさえ時間と力を先の少年にとられているのだから。
「だが、もう終わりか」
そう言って笑みを浮かべる彼の視線の先には敵本陣と思われる場所に氷の塔が出来ていた。
力を振り絞って、周りにいる者たちに告げた。
「さて、まだやるか? 時機にあの氷の塔を作った者たちもここに来るだろう。それでも勝てると思う者はかかってこい」
静かに【威圧・極】を使い、脅す。向かってくるものは皆無だった。
光は敵本陣で辺り構わず、魔法を放つ。
七海は【獣化】と【狂化】を使い、狂ったようにナイフを振り回し、噛みつき、喰いちぎる。
そして、飛来が徐々にはれつつあった霧の中に飛び込み、大将と思われる敵に向かって神速の突きを繰り出す。その一撃は敵の体を貫通し、悲鳴を上げさせることなく命を奪った。
その流れで飛来は七海に駆け寄り、冷静に見切り、鳩尾に一撃を入れ、意識を奪う。そうしないと暴れ続けるからだ。
「二人とも離れていてください。【氷よ、支所に相応しき悠久の煉獄を与えよ】」
そして、大きな一本の塔が出現した。塔と言っても真上に一直線に伸びた氷の柱のようなものであるが。所々紅く染まっている。
「帰りましょう。空様の元へ」
飛来に起こされた七海も頷く。
空は白み始め、そこには全身を赤黒く染め上げた4人の戦士たちが集まっていた。
犠牲を多く出した戦いに決着がついた。そして、また世界はそれらとは関係なしに回ってゆく。
かなり無理矢理に、そして、省略して終わらせました。
なぜかと言うと、書き直そうかと思っているからです。
皆様の貴重な意見をもとに改めようかと思います。
完結させて、別の作品という形でスタートさせるのか、それとも改稿して改めるか。
まだ具体的なことを決まっていませんが、ここで少々お時間をいただき見つめ直そうかと思います。
さて、ここまでお付き合いくださいました皆様ありがとうございました。
まだ、伝えたいことがたくさんありますので飾らずこの作品を受け継いだものは完結を目指して執筆を続けますので、そのときもまたよろしくお願いいたします。
ありがとうございました!




