8話
短いです。次更新したらちょっとした告知をしようかと思います。
空は目の前の敵を斬り続けた。だが、最初の様に力んだ様子はなく、見切り、最小限の動きで躱す。
悲鳴が途切れることなく聞こえ、彼の攻撃範囲内の敵から鮮血が噴き出す。いつしか、彼の周りからは人がいなくなった。
「この程度か。俺を殺せる奴はいないのか?」
静かに嘲笑うように挑発をする。しかし、彼の顔に張り付いた冷徹な笑みを見て、近づこうとする者はいない。
痺れを切らした彼は力強く踏み込み、雄たけびを上げて突っ込んでいく。彼の足は、腕は、止まらない。疲労は溜まっているだろうに勢いが衰える事のない動きは相手に戦慄を抱かせた。
空たちが奮闘している頃、光は飛来、七海と集まっていた。
「さて、行きましょうか」
いつも通りの晴れやかな笑みを浮かべ問う。
「ああ」
「はい」
飛来はふてぶてしい笑みを浮かべながら、七海は二人を見て、ぎこちない笑みを浮かべながら答える。
「覚悟は出来てますね? ここからは引く事は出来ませんよ」
「んなこと言われなくても、退くつもりはねえよ」
「私はこういう時のために強くなったんです! いつでも行けます!」
光は彼らの返答を聞き、満足げにうなずいた。
「では、行きましょうか」
そう言って、表情を引き締めた。
この計画のみそは光たちが敵本陣に突っ込み、大将を討ち取ることにある。
そのために空自ら囮となっている。もちろん、護衛が数多く残ってはいるが何分数の差が大きい。長くは持たないだろう。無駄にしている時間はない。
「打ち合わせ通り、七海さんは私と。飛来さんは隙を見て出て行ってください」
それを最後に3人は姿を消した。
「くそっ。何なんだこれは? 敵は少数じゃなかったのか。さっさと蹴散らせ!」
白い服に金色の首飾りをつけ、これまた金色に輝く剣を振り回しながら辺りに怒鳴り散らす男が一人。
その男の部下たちは周りで必死になって檄を飛ばしたり、宥めようとしている。
そんな男に愚かにも一人の男が物申した。
「ナゼ、出来ないのかって? そんなの俺たちが弱いからに決まってんじゃん」
けら家らと笑い、悪びれることなく言い放った少年に男は額に筋を浮かべ、怒鳴る。
「なら、貴様が何とかしてこいっ! 金は払ってあるんだ。その分働け!」
少年はやれやれと肩をすくめる。
「ふーん。じゃあ、行っちゃうけどいいのか? 俺がここを離れて」
少年は知っていたこの軍の中で一番強いのは自分だと。だからこそ、こんなにも愚かな大将の近くにいるというのに。
「ふんっ! 貴様など居なくともどうとでもなるわ。それよりもさっさとあの目障りな黒い男を消してこい」
ため息をついて、その命令に従い、少年は一瞬でその場から離れた。
(あいつらはまだか? 俺はともかく他の奴らはもう持ちそうもないぞ)
空は焦っていた。派手に暴れ、当初の目的である敵の引付には成功していたのだが、あまりにも目立ちすぎたために、敵が殺到し彼の仲間たちは段々と動きが悪くなっていた。
「俺たちは勝つ! 諦めるな!」
先ほどから七回も檄を飛ばしているおかげと、彼の類稀なカリスマ性、戦功によって前線が支えられているがそろそろごまかしが効かなくなりつつあった。
(仕方ない、いったん退くか)
「退け!」
周りの敵を切り伏せながら、叫ぶ。
その声に戦線が崩れていく。その様子を見て当に限界を迎えていたことが分かる。
「決して後ろは振り向くな! 行け!」
(さて、ここからが本番だな)
口元にうっすらと笑みを浮かべた。そして、近くに感じる二つの気配に声をかける。
「で、なんでお前らここにいるんだ?」
「上官殿を一人残して下がることなど出来ません」
「殿は拙者が務めるでござる」
微笑む準と小太郎の姿を見て、空は覚悟を決めた。
「却下だ」
冷たく言い放つと、二人の表情が固まる。すぐに反論しようと口が開かれる前に空は足に力を込めた。
引っ掛けるように優しく、そして一気に力を込め、二人を蹴り飛ばした。
何やら言いたそうな二人の顔が印象的だったが、感傷に浸る間もなく敵はやってくる。
「ここからは俺が相手をしてやる。死ぬ気でかかってこい」
空は初めて他人のために命を懸けた。




