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7話

 光は木陰に隠れて、術の準備をしていた。現状周りに人は存在しておらず、誰もいない。一番近くにいるのは敵の本隊である。ここまで近づけたのはひとえに彼の実力と空がかけた闇属性の隠遁系の魔法おかげである。

 そして、ばれない様に慎重に辺りに魔力が漏れないように結界も張り、初級の闇属性で集中して魔力を高める際に起こる発光も抑えているほどの徹底している。


 これは全て、空の指示通りに行っていた。





 計画の第一段階。

 

 光と空による広範囲攻撃手段を持つものによる二方向からの奇襲である。



(さて、準備は整った。空様は大丈夫だろうか)


 光の周りには白い霧が立ち込めている。おそらく結界を解除すればすぐに散るだろう。詠唱も終わり、後は一言唱えるだけで事足りる。時期を今か今かと待ち構えていた。経験したことのない戦闘に昂ぶっていた。どくどくと鼓動する心臓の音が感じ取れた。


(来た! 合図だ!)


 術を発動させる合図である。だが、合図というにはあまりにも派手すぎた。遠くで何かが倒れる音が聞こえ、地面が揺れる。おそらくこのあたりで倒れる物と言ったら木だろう。そして、音と揺れに遅れて聞こえてくるのは悲鳴と歓声。


(始まりましたか、こちらからもいきますよ!)


【死へと誘え、氷結界】


 立ち込めていた霧が一瞬で囲えるだけ長く円状に広がる。ここからは時間の勝負。これだけ魔力が込められているのだ、魔術師が敵にいるならば、何らかの妨害を行ってくるだろう。それならば、される前に殺す。目標は魔術師の部隊。


 遂に囲いきる。短くも長く感じられた一瞬だった。だが、一度囲ってしまえば逃れる術はない。

 霧の円の中にいた者たちすべてを氷漬けにした。

 流石に、これで魔術師全てを倒せたわけではないが、大打撃を与えたとみて間違えないだろう。


(第一段階での私の役割は終わりましたね。一旦下がりましょうかね)


 去り際に敵本陣に雷雲を発生させ、雷を落とす。だが、それが『溜めの段階』で一目散に走り出し、離脱する。自分の最後の攻撃が空たちのせめてものの手助けになる事を願いながら。



 


 ――数分前の敵本陣前の森にて。


「どうかしましたか?」


 何が違うとは一概には言い切れないが、空の様子が普段とは異なることに準と小太郎は視線にて確認しあい、準が話しかけた。


 仲間から気を遣われたことに気づき、彼は苦笑する。


「いや、なに、俺も少し緊張しているのかもしれないな」


「其れは当然の事かと。なれど、其れをいささかにて済む空殿は流石でござるな」


「だが、上に立つ以上はお前らに悟られるべきではないだろ」


「しかし、小太郎殿の言う通りかと」


 準はそこまで言い切ると笑みを浮かべて言った。


「寧ろ自分は上官殿にもそのような事を感じるのだと安心した位です」


「ふっ、笑わせる。だが、いい気分転換になった。礼を言う。……よし、いくか」


 彼の言葉に周りの者たちが頷く。刀を握る手に力が籠められる。


「俺が一撃を加えたら、続け」


『はっ!』




 目を閉じ、深呼吸をして、三度自身を落ち着かせる。

 柄に手をかけ、居合抜きをするように構える。その姿勢は誰も話しかけることが出来ない程、殺気立ち、そして、神聖な気配を放っていた。


「【魔強化】【闇よ、我が刃となりて、彼の者を切り裂け】」


 【魔強化】で身体能力を上昇させ、呪文を唱える。彼には珍しく闇属性の魔法を詠唱する。それだけ慎重になっていると考えていい。


「はっ! 【飛斬】」


 目を見開くと気合とともに振り抜く。斬撃が敵本陣に向かって飛ばされる。斬撃に先ほど唱えた魔法が重なる。音を切り裂くだけで目で唱えることが出来なかった斬撃に闇属性の魔法が重なり、実体を持つ。敵にとっては目で捉えることが出来るようになるため、彼にとってメリットが少ないように思えるが、彼がかけた魔法は闇属性の力を持つ。

 

 その特徴は毒性。そして、彼ほどの実力者が使えば猛毒となりうる。掠りでもすれば命に関わる。


 その恐るべき危険性をはらんだ斬撃は横に広がり、幅は3mほどになり一直線に飛んでいく。


 この攻撃の威力は刀、つまり武器の威力に比例する。彼の黒刀は並みの武器とは比べ物にならない位頑丈でよく斬れる。

 そのため、止まらない。その斬撃は直線状に障害物――人や木など――があっても関係なしに飛んでいく。


 しかし、彼から離れた位置にいる者は前にいる者たちが次々と斬られていくのを見て、逃げ始める。それでも決して簡単に躱せるものではないし、ギリギリで躱しきれたものは斬られたものを見て、一安心していた。だが、それも束の間。傷を負ったもの、それがかすり傷であったとしても苦しむような声を上げ始める。その者たちは熱い、熱いと喘ぎ、終いには傷ついた部分をかきむしり死んでいった。


 ついに敵本陣にまで到達しようかという時、まばゆい光を放つ壁が出現した。


 何が起こったのか分からずに仲間たちが僅かにざわつく。

 しかし、空は只一人、何が起こったのか強化された視覚で捉える。

 3人の人一人分ほどの盾を持った者が3人現れると盾を地面に突き立てる。これ以上は通さないという覚悟が窺える。

 だが、それだけでは終わらないその後ろに5人の白い衣装を着た杖を持った者。おそらく、神官か魔術師だろう。だが、神妙な面持ちの彼らを見ると神官の様に思える。そして、5人同時の動作で放たれた魔法は一つの光の盾となった、


 盾と斬撃が正面から衝突する。

 

 辺りに轟音を轟かせ、風を巻き起こす。


 力と力。光と闇。相対する二つの存在がぶつかりあい、互いに反発しあう。


 その均衡は唐突に崩れる。


 闇が光を侵食するように広がり、斬撃が亀裂を作った。


 しかし、彼の一撃もそこまでの様で。盾使い3人の命と引き換えに斬撃が消え去った。




 辺りを見回し、いまだ口を開けて唖然としている敵味方を見て思う。


(今がチャンスか)


「何を呆けている。行くぞ! 突撃!」


『おおぉぉ!』

 彼の殺気込みの号令で鞭で打たれたように背筋を伸ばし、敵に向かっていった。


 仲間たちが勢い良く大軍に向かっていく様を見て、空は一人安心していた。


(士気を上げることには成功したか。後は頼むぞ)


 計画は第二段階に移る。







空がチートすぎますかね。……いいんです! 後悔はしていません。次回揺れ動く戦局。

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