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5話

 神谷空が日課である狩りに白黒狐のハイリを伴って出て行った頃、屋敷の一室でこそこそと話し合う人影が七つ。それぞれ皆多少の差はあるものの笑みを浮かべていた。


「では、みなさん。集まったようですね。今日も例の議題について話し合いましょうか」


 扇子をパチンパチンと開けたり閉めたりしながら話す男。どうやらこの男が司会進行を務めているようだ。


「それでは各々の調査の結果を発表してください」


「はい、私の調査結果は空様のお好きな色は黒である可能性が高いという事です」

 

 自信満々に言い放つ笑顔のよく似合う女性。

 だが、その報告にその場にいる全員がため息をつく。


「おいおい、そりゃねえぜ嬢ちゃん。そんなの普段着ている服見りゃ分かんだろ」


 だらっと椅子に凭れ掛かり、顔だけを先ほどの女性に向け言う、長髪の男。


「失礼ながら自分もその件については推察できます」


 ピシッと背筋を伸ばし、座る真面目そうな男。


「貴方は一番長く空様のお側にお仕えしているというのにこの程度ですか。がっかりですね」

 

 トドメと言わんばかりに辛辣な言葉を投げかける先ほどの扇子を持った男。

 彼女は大勢の者に批判され、ムスッとした表情になる。


「じゃあ、ほかに何があるというんですか。そんなに言うんなら言ってみてください!」


 向きになって反論する彼女にぽつりと呟きにも似た言葉で返される。


「隊長は派手なものが嫌い。それにさっきのことくらい誰でもわかる」


 彼女の方を一切見向きもせず、報告と嫌味を一緒に言うフードを深くかぶった少女。


「ハハハ。まあ、みなさん、一旦落ち着きましょ。ちなみに俺は來未と七海さんが言ったこと以外の報告はないです」


 乾いた笑い声を上げながら、非難されていた女性――七海――をフォローし、諌めるような視線を自分の双子の妹である少女に向ける翔。このメンバーが集まると自然と彼が調整役を担う様になっていた。大の大人が少年に取り持ってもたれている事に対して、肝心の大人たちは羞恥心は抱いていない。

 この部屋には今大きく黒い丸テーブルの周りに光、飛来、七海、準、來未、翔、、小太郎の順で席についていた。独立特殊部隊の【零】の強者たちが集まるには理由がある。


「ふむ、では我々【零】の制服は黒を基調に装飾は派手すぎないように、この2点に注意して制作しましょう」


『はい(おう)!』


 光の号令に皆が答えた。なぜ、これほどまでに士気が高いのかは他の師団や王国の騎士団の衣装が決まっているのに対し、自分たちが持っていなかったことからの羨望と隊士達からの要望があったからである。それと王猫国で初の異種族混合部隊の独立部隊という国軍への編入という事もあり、早急に制服というシンボルのようなものを求められていたというのもあった。



 そして、この会議の後程なくして、【零】の制服が作られた。制服が作られ統一された事で、敵からは黒の死神集団と恐れられ、味方からは黒い剣として安心感を与えることとなるのは先のお話。


 刀が二本交差する【零】の紋章を背中と両肩に銀色の糸で刺繍された黒いロングコート、腰に色々とぶら下げることが出来るように敢えて2本巻けるような作りになっているこれまた黒のジーンズのような生地にアコーディオン・ポケットと呼ばれる膨らんだ蓋付きのポケットが両足の外側に一つずつ付けられカジュアルにまとまっている。もっとも、このポケットは普通のものではなく人によっては底がなく暗器など隠し持てるようになっている。コートの下に着るものはワイシャツで、黒、白、紫、灰色、白と黒のストライプが入ったものという様に5種類用意された。後にこのワイシャツは多様化し、部隊の特色によって決められたものを着用するよう事となる。

 空、及び光たちのような班長は各々アレンジすることが認められている。というのも空が「全員同じ服装で見飽きたな」という一言で急きょ決まったのである。


 そして、制服を纏った隊員含め空たちは屋敷の仲間に集合していた。

 それは王国よりの初任務が告げられたからである。


『黒星砦――空たちが部隊設立試験の際に落とした砦のことである――より南西に50kmほど行った場所に敵の大部隊が山中にて休息を取っているのを確認した。そこへ迅速に移動し、奇襲せよ』


 王家の家紋が入った勅書が届き、急きょ準備を整え出立しようとしているところである。後は空が号令をかければすぐにでも出発できる段階である。


 そして、隊員の前に一歩近づくといつも賑やかな雰囲気が嘘のように静まり、空からの言葉を一言一句聞き逃すまいとする。


「よく聞け! 俺はこの勅令を受けたとき一つの不審な点を見つけた」


 この言葉に皆不思議そうな、疑問符を浮かべているかのような表情をする。しかし、空の手前決してざわつかない。


「俺は前にこの国の王に会った。その結果、あいつは信用できる奴だと判断した」


 脈絡のない話に隊員たちは困惑を極め、さらには王をあいつ呼ばわりする空に驚愕する。


「この勅令には大部隊と書かれてある。そのことから俺は一つの推論を導いた。まず1点、本来軍の規模が大きくなればなるほど斥候や偵察を放ち、周囲を警戒するものだ。そして、2点目、俺が王都に出向いた時に確認したのだが、敵にばれずに敵の規模を偵察できる者がいるかどうか? もちろん、いるだろう。だが、それは限られた、数えられるほどしかいないはずだ。その貴重な戦力を俺たちのような新入りで本当の意味で味方かどうかわからない人間のために使うだろうか? 答えは否だ。おそらく、この偵察は敵に筒抜けだろう。そして、俺たちが行くことは読まれている。つまり、奇襲とはよく言ったもの強襲になるだろう。あいつがこの件にかかわっていればこんなバカな命令は出さないはずだ。という事はやはりだが、俺たちをよく思わない奴がいるという事になる。大方、厄介払いか、もしくは成功すれば儲けものと言って具合の当て馬扱いだろうな。以上の2点を含め十中八九強襲になる。この場にいる皆だけでだ」


 そこで一区切りをつけ、溜める。さらに視線を自分に集まるのを待ち言う。


「だが、この場にいるお前たちとならば決して負けないと自負している! 日頃の修練の成果を十全に発揮しろ! 恐れるな、退くな、ここには俺がいる!」


 黒刀を抜き天に掲げた。


「迷わず付いて来い!」


 そこまで言い切ると割れんばかりの雄たけびが辺りに響いた。


『おおおぉぉぉ!!』


 皆が拳を突き上げたり、武器を掲げたりしている。そして再び静寂が訪れると空は告げる。


「行くぞ」


 いつものような呟きのような低い声は不思議と隊員全員の耳に届いた。静かな闘志を胸の内に秘めながら【零】は初陣に向けて、歩き出す。その様は夜の闇が辺りを覆い尽くすかのようだった。この件をきっかけに空には二つ名が付くことになるが、これは後の話。


 








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